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寺子屋~菅原伝授手習鑑 ずっしりくる感動の名作をじっくり味わおう!あらすじ&みどころ

さあ。いよいよ秀山祭。

寺子屋は、名作中の名作。そして2代目吉右衛門は、第1回の秀山祭(平成18年)に先立つ平成15年の「初代中村吉右衛門五十回忌追善狂言」でこの「寺子屋」で武部源蔵を演じています。それだけ思いのこもった「寺子屋」。じっくりと味わいましょう。

 

登場人物

武部源蔵 菅丞相の昔の部下。菅丞相から筆法を伝授され、今は寺子屋を営んでいる。流罪の決まった菅丞相の息子、菅秀才を手元にかくまっている。
戸浪 源蔵の妻。 
菅秀才 菅丞相の息子
小太郎 新しく寺入りした子
春藤玄蕃 藤原時平方の家来で、菅秀才の首を改めに来る。
松王丸  昔菅丞相に恩があるが、現在は藤原時平方の家来。菅秀才の顔を知っているため、首実検役としてくる。
千代 松王丸の妻

あらすじと見どころ


 ・源蔵戻り 苦悩の源蔵が帰宅する

舞台は武部源蔵が営む寺子屋です。源蔵は菅丞相の旧臣でしたが、戸浪との不義のため勘当された身。しかし、恩師菅丞相から筆法(書道)の奥義を伝授されて、寺子屋を開くことができ恩義に感じています。寺子屋で里の子ども達に手習を教えています。

 

源蔵夫婦は、流罪の決まった菅丞相の息子、菅秀才を手元にかくまっていました。しかし、それが藤原時平方にバレてしまい、菅秀才の首を渡すように言われたので、苦悩のうちに帰ってきたのです。首実検は、菅秀才の顔を知っている松王丸が来て確認すると言います。
「菅丞相の御恩を受けていながら、時平方について、松王丸め」と、源蔵は憎々しげにいいます。

大切な恩師の子どもである菅秀才の首を斬るわけにはいかない。
「一体どうすればいいだろう…」

 

源蔵は、なんとか身替りをたてて、菅秀才を守ろうとします。寺子屋の弟子たちを眺めて、だれか身替りにと考えますが、どの子も田舎育ちの鼻ったれ。菅秀才の顔を知っている松王丸をごまかせるとは思えず、悩むばかり。

そこへ、新しく小太郎がやってきます。品が良くお行儀のよい小太郎を見て、身替りはこの子と源蔵は決めます。

事情を聞いた戸浪は、うまく松王丸を欺けるのか心配しますが、「生き顔と死に顔は相好が変わるもの」だから一か八かで行こう。もしバレたときには松王丸を切り、自分も死に、小太郎の母が迎えに来たらそれも殺す覚悟と源蔵は言います。そして戸浪と二人、身の不遇を嘆き悲しみます。

  ■みどころ ほのぼの寺子屋情景、初舞台、そして源蔵の悩み


かわいい寺子たちのほのぼのとした様子は、後の悲劇の前にして、ほっとさせてくれます。山家育ちの子ども達の中で品のある菅秀才が目立ちます。

 

恩師の子どもを守りたいために、勝手に教え子を身替りにするなんてとても現代では考えられない思考ですね。すでに狂気の意気に達している源蔵です。

 

ちょっと抜けている涎くりは、今回又五郎!愛嬌たっぷりに演じてくれるはず。
孫(又五郎長男歌昇の長男)の種太郎が菅秀才、同じく孫(同じく次男)の秀之介が小太郎を演じます。特に秀之介クンは初舞台で緊張するかもしれませんが、おじいちゃんが横で愛嬌たっぷりに演じてくれたら安心できそうです!

 

 ・松王丸来る

春藤玄蕃が菅秀才の首を確認にやってきます。菅秀才の顔を知っていて首実検役としてきたのは松王丸。病ということで、駕籠に乗ってやってきました。寺子たちの親が子どもたちをお迎えに来るところに松王丸はでんと構えて、一人ずつ菅秀才ではないか、チェックしていきます。

  ■みどころ ずっしりと重い松王丸の存在

松王丸の存在感が大きな見どころです。病のため、籠に乗ってきます。今回は、奇数日は、松緑が松王丸、幸四郎が武部源蔵。偶数日は、幸四郎が松王丸、松緑が武部源蔵です。衣裳も型も違うのが見どころです。どちらも見たくなりますね。


松王丸の衣裳は、「雪持ちの松」と言われるもの。雪の重みに耐えている松の柄で、苦悩の象徴とのこと。ずっしりと肩に重くのしかかる松王丸の苦悩とはいったい何なのでしょうか。

百姓が、ひとりずつ我が子を呼び、ひとりずつ子ども達が出てきます。まるで幼稚園のお迎えみたいでほのぼのしつつも、もし菅秀才だと思われでも大変!という緊張感の伴うシーンです。涎くりも呼ばれてお迎えのおじいさんと楽しくはけていきます。ちょっと笑いも出るシーンです。今回は、又五郎涎くりをお迎えに来るじいさんは、彌十郎さんですね!

 ・松王丸、源蔵に迫る

玄蕃と座敷に上がった松王丸は、源蔵にさあ首を出せと迫り、ついに源蔵も覚悟を決め、奥に入っていきます。

  ■みどころ ピンと張りつめた極限の緊張感

こちらに詳しいのですが、このとき松王丸が源蔵に向けて言う「生き顔と死に顔は相好が違うもの」というセリフ、チェック要ですよ!

源蔵は、「生き顔と死に顔は相好が違うもの」だからごまかせるだろうと踏んでいましたが、松王丸に「生き顔と死に顔は相好が違うもの」と言われて、ギックリします。

しかし、松王丸はどういうつもりで言ったのでしょうか?

 ・ついに首を討つ

松王丸は、部屋を見渡し寺子の数より机文庫の数が一つ多いと戸浪に尋ね、戸浪は菅秀才の机だとごまかします。そのときに首を討つ音が聞こえます。ツケの音が胸に痛みます。

出てきた源蔵、菅秀才と偽って小太郎の首をさしだします。緊迫の時間が続きます。

松王丸は、「菅秀才の首に違いなし」と言って立ち去ります。

ああああ。よかったと安堵する源蔵夫婦ですが、物語はここから大きく転換していきます。

  ■みどころ 生きるか死ぬかの瀬戸際で

緊迫シーンの連続です。何の罪もない小太郎の首を斬る源蔵だってツライのです。そして、断腸の思いで斬った小太郎の首が、菅秀才とは違うことが松王丸にバレたら、もうツライではすみません。松王丸も春藤玄蕃も誰もかれも斬って、自分も千代も死ぬ決意。ヒリヒリする場面が続きます。

ついに松王丸が「間違いなし」と言って去るので、全身気が抜けたように脱力して、ほっとする二人です。

首実検の場での松王丸の姿、しっかり見届けてくださいね。
首に向かって「でかした」と言ってから源蔵の方を向いて「源蔵」と言います。

ここでの型はさまざまで、田中先生もたくさん紹介していただきましたが、

作者と劇評家のコトバで読み解く歌舞伎のセカイ vol.4 「寺子屋」レポ - 「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

 

ブログには書かなかった部分では、実川延若の型がありました。延若は、松王丸を猜疑心の強い人間として描いていたようです。
通常この場面は、捕り手がズラリと並びます。しかし、もし捕り手の中に、菅秀才の顔を知っている者がいたら、自分が偽首を本物と嘘をついていることがばれてしまうと考えた松王丸延若は、捕り手と自分の間に屏風を立てたそうです。本当に役者の解釈によって様々ですね。

さてこの場面、幸四郎松緑はどのような演技の違いがあるでしょうか。

 

 ・小太郎の母、千代が登場

源蔵夫婦、ほっとしたのもつかの間。小太郎の母千代が小太郎を迎えにやってきました。小太郎を殺してしまった源蔵は、千代をも殺そうとします。

刀を抜いて襲い掛かる源蔵に、千代は小太郎の文庫を持って応戦。文庫からは、バラバラと経帷子など死ぬ用意をしていることがわかるものが出てくるのでした。

そして、千代は意外なことを言います。

「わが子は菅秀才の身代わりに役だったか」。

え…!?

 

 ・意外な真相とは。

そこへ再び松王丸が現れ、語ります。

松王丸は、今は藤原時平の家来となっていましたが、菅丞相の恩を受けていました。三つ子の兄弟である梅王丸は菅丞相の家来ですし、桜丸は、斎世親王天皇の弟)の家来。菅丞相は天皇に仕えていました。はからずも兄弟は、敵対関係になってしまっていたのです。

松王丸は、藤原時平の家来ではありましたが菅丞相の恩に報いるため、わが子小太郎を菅秀才の身替りに、源蔵の元へ差し出したのでした。


ああ。松王丸そうだったのか。

それであんなに辛そうだったのか。病気というだけではなかったのだ。

首を討つ音がして、思わずよろけた松王丸が戸浪とぶつかりそうになった時。「無礼ものっ!」と戸浪を一喝する松王丸だったが、あれは息子が殺された瞬間の動揺を悟られないためだったのだ。

首桶を見て「でかした」と言ったのは、あれは源蔵に言ったのではなく、小太郎に言ったのだ。

 

いろいろと後から考えると、松王丸の言動が腑に落ち、松王丸の哀しみがひしひしと伝わります。

松王丸は何とか菅丞相の恩に報いたいと、こっそり菅秀才の母、園生の前をかくまっていました。菅秀才と園生の前は、親子の対面を果たすことができました。

一方、松王丸は愛する我が子を失いました。泣き伏す千代をなだめながら松王丸は涙をこらえ
「定めて最後の節、未練な死を致したであろうな」と、小太郎の最期について源蔵に尋ねます。
源蔵が、「菅秀才の御身替りと言い聞かせたところ、潔く首を差し伸べて、にっこりと笑った」とその状況について伝えると、

「何、笑いましたか。笑いましたか」と涙に暮れて、はははと笑うのです。こんな哀しい笑いはありませんね。

松王丸は、それでもこれは覚悟の上、自分は菅丞相のお役に立った、しかし桜丸はそれすらできずに切腹して果てた、なんと不憫なことだろうかと涙します。桜丸は、この前の段で、自らが菅丞相の流罪のきっかけを作ってしまったことをわびて切腹して果てていました。
自分も哀しく辛いが、桜丸はもっとつらかったはずだと泣くのです。

一同は、亡くなった小太郎を野辺送りをして、哀しみにくれるのでした。

  ■みどころ まさかの松王丸のモドリ

てっきり悪役と思っていた松王丸が、まさかのすべてを知っていて、わが子を身替りのために送り込んでいたとは。何という結末でしょう。

松王丸の哀しみが、胸を打ちます。松王丸の存在が大きければ大きいほど、また後半の哀しみが引き立つ、何度見ても泣ける名作です。

今回は、前述したように、松王丸が日替わりです。大きな存在であった吉右衛門丈を偲んで、名作に挑む松緑幸四郎にどうぞご注目を!


そのほかの配役


松王丸  幸四郎(偶数日)松緑(奇数日)
武部源蔵 幸四郎(奇数日)松緑(偶数日)
戸浪   児太郎
菅秀才  初舞台種太郎(歌昇長男)
小太郎  初舞台秀乃介(歌昇次男)
春藤玄蕃 種之助
百姓吾作 彌十郎
涎くり与太郎 又五郎
園生の前 東蔵
千代 魁春

 

概況

菅原伝授手習鑑は、長いお話です。寺子屋はその1部ですが、一番悲劇のピークとなるのがこの寺子屋です。

作者:竹田出雲、三好松洛、竹田小出雲、並木千柳

初演:人形浄瑠璃1746年8月 大坂竹本座 歌舞伎では翌9月京都中村喜世三郎座。

 

桜丸が菅丞相流罪のきっかけを作ってしまった「加茂堤」はこちら!

munakatayoko.hatenablog.com

菅丞相が流罪になったときの話「道明寺」はこちら

munakatayoko.hatenablog.com

 

松王丸・梅王丸・桜丸3人と藤原時平が出てくる「車引」はこちら!

munakatayoko.hatenablog.com

桜丸切腹の段については書いていないので、そのうちにまた!

9月の観劇レポはこちら

munakatayoko.hatenablog.com

9月のそのほかの演目紹介はこちら!

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