「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『伽羅先代萩』~奥殿・床下~がっつり時代物を楽しむ~あらすじとみどころ

江戸時代に実際に起きた伊達藩のお家騒動に着想を得て、舞台を室町時代の足利家に移して作られた作品です。時代ものなので、あらかじめ筋は押さえておきましょう!

長いお話の中の「御殿」と「床下」が良く上演されますが、今回もそうです。

 

伽羅先代萩』名前の由来

これは「きゃらせんだいはぎ」ではなく「めいぼくせんだいはぎ」と読む。

もともと伊達藩のお家騒動がベースになっているのだけれど、遊女に入れあげたお殿様(芝居でいうと鶴千代のお父さんにあたる人で、遊女高尾太夫に入れあげて隠居させられてしまう。)が遊女の元に通うときには「伽羅(きゃら)」という香木で作られた下駄をはいていたという(バカですねえ。たっかいでしょうに)。

そして、仙台伊達を連想させるような「先代」また、仙台の富豪で萩大尽という話があり、そのイメージもダブらせて「先代萩」というネーミングだそう。

登場人物 

乳母政岡(菊之助執権仁木弾正に狙われている若君鶴千代を、わが子を犠牲にしても守る。

鶴千代(種太郎) 若君。幼くして主君となったため、反対派に命を狙われている。

千松(丑之助) 政岡の息子。鶴千代とは乳兄弟で、万が一の時には若君の身替りになるよう日頃から政岡に言われている。

栄御前(雀右衛門 足利家後継ぎの鶴千代暗殺をもくろむ室町幕府山名宗全の妻。

仁木弾正(團十郎 足利家の執権だが、お家の乗っ取りをたくらみ室町幕府と手を組む。妖術を使う。

八汐(歌六 仁木弾正の妹。鶴千代暗殺をもくろむ。

荒獅子男之助(右團次)鶴千代を守る。今は遠ざけられ、床下で鶴千代を警護する。

 

あらすじ

 御殿

足利家の奥殿。

 

後継ぎである鶴千代を暗殺する不穏な空気が家中にあるため、政岡はなんとしても鶴千代を守る決意でいる。鶴千代は病気ということにして、部屋に入れるのは女子のみ。さらに食べるものも毒殺を恐れて自らの手で作って食べさせている。

 

鶴千代には決して自分が作ったもの以外は口にしてはならないと、日頃諭している政岡は、沖の井から出されたお膳に手をつけなかった鶴千代をほめる。千松も忠義のために空腹を我慢している。けなげな二人のために、政岡は茶の湯に用いる釜で米を炊く。

 

米が煮立つまでに子雀を入れた籠を出して、いつも唄う雀の歌を歌って鶴千代を慰めるように言われた千松は鶴千代とともに歌を歌う。そこへ親雀が来て子雀に餌を食べさせる。その様子をみて、あのように早くままが食べたいと、小鳥をうらやむ鶴千代と千松。五十四郡の主として不足のない身の上ながら、空腹に耐えかねている様子を見て政岡は涙を禁じ得ない。

 

やがて飯が炊ける。吟味の上にも吟味を重ね、千松がお毒見役として先に食べ、それから鶴千代が食べる。

 

そこへ山名宗全の奥方の訪問が告げられる。政岡は、常から言い聞かせていることを必ず忘れないように千松に言い聞かせ、次の間に下がらせる。

 

栄御前は鶴千代へのお見舞いとして菓子を持ってきていた。鶴千代は、政岡に制せられて手を出しかねるが、八汐に「毒入りと疑っているのか」と詰め寄られ政岡は万事休す。そこへ次の間から走り出てきた千松が、その菓子ほしいと手を伸ばし、さらに箱を蹴散らかしてしまった。忽ち千松は苦しがって七転八倒。その菓子は毒入りだった。しかし毒入りだったとわかってはまずいので、八汐は礼儀知らずを盾にして、懐剣をグッと千松の首に突き立てて殺してしまう。

 

千松は、母の言うことを聞き、鶴千代を守るために自ら毒入りの菓子を口にしたのだ。

 

政岡は、目の前で我が子をなぶり殺しにされても動ずることなく鶴千代を守って毅然としてそこに立つ。

 

栄御前はその様子をみて、千松は政岡の子どもではなく実は鶴千代で、小さいうちに身替りに取り換えていたのだろうと考える。人払いをして政岡と2人きりとなり、「血筋の子の苦しみをなんぼ気強い親でも、こたえらるるものじゃない。若殿にしておく我が子が大事。そなたの顔色かわらぬは、取替子に相違ない。そりゃ皆心は同じ腹中」。つまり味方なのだなと勘違いして、一巻を取り出す。それはお家横領をたくらむ一派の連判状だった。一人合点をして栄御前は去っていく。

 

後に残った政岡は今は一人の母親となり千松のそばに駆け寄る。死体を抱き上げ、悲しさをいっぱいに泣き伏してしまう。

前後不覚に嘆いていると、背後に八汐が迫っていた。政岡に斬りかかるが、沖の井が八汐の悪事を知っていた小槙を伴ってきたため、八汐の悪事も露見する。八汐と政岡は斬り合うが、八汐の懐剣を政岡が打ち落とし、きりこむ政岡。ついに子の仇であり、お家の仇となる八汐は、虚空をつかんでもがき死ぬ。

 

そこへ一匹の大ネズミが現れて、証拠の連判状を加えて去る。

 床下

悪人どもの讒言により、鶴千代から遠ざけられていた荒獅子男之助は、床下から鶴千代を警護していた。そこへ現れたのが大鼠である。男之助、手にした鉄扇で鼠の頭を打つと、バッと燃え立つ炎とともに、すっくと立ったのは、なんとも異様な様子の仁木弾正である。

 

仁木弾正は、妖術を使って、悠然と去っていく。

 

みどころ

 ・お腹をすかせている鶴千代と千松。

鶴千代は、幼い君主なのに、たらふく食べることもできず空腹に耐えている。政岡の作ったおにぎりを美味しそうに食べる。パクパク餌をついばむ雀の親子をうらやましそうに眺めるというのが、まずかわいそう。

 ・生まれたときから、鶴千代の身替りになることを運命づけられている千松。

千松は、母にも認められるために、一生懸命その使命を全うするというのがまた泣ける。

 ・政岡の哀しみ。

我が子が死ぬところを平然として見ている政岡。非情な女に見えるかもしれないが、一人になったときに、ただの母親にもどって千松の遺体に取りすがって泣く。

「三千世界に子を持った親の心は皆一つ。この可愛さに毒なもの食うなと言って叱るのに、毒を見たら試みて死んでくれいというような、強欲非道な母親がまたとひとりあるものか」

と悲痛なセリフにまた泣ける。

 

菊之助は今回の役、そして千松丑之助、鶴千代種太郎との3人を「運命共同体」とインタビューで言っている。3人の芝居がとても楽しみ。

 ・荒獅子男之助と異様な存在感の仁木弾正

ダーんと床がせりあがって、床下が視界に広がり、荒獅子男之助という滅法凛々しい名前の忠臣がネズミを踏んづけてせりあがってきて、迫力!ただし残念ながら仁木弾正の妖術にはかなわず取り逃がす。

一巻を口にくわえた仁木弾正。「差し出し」という役者の前後から照らす明かりがふわふわ、しゅーっとスモークも立ち込めてとなんとも怪しい雰囲気を醸し出す。(面明かりとも言う)