2月昼の部は、菅原伝授手習鑑の半通しです。
今月の歌舞伎座は、十三世片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言となっています。十三世仁左衛門というのは、現在の仁左衛門さんのお父さん。その追善狂言として縁のある演目が並びます。菅原伝授手習鑑の菅丞相は、十三世屈指の名演と語り継がれており、今回の上演にも仁左衛門丈の並々ならぬ決意、姿勢が一門の皆を奮い立たせているような名舞台が繰り広げられています。
さて、この昼の部を通しで予習なしで観るのは初心者にとってはキツイと思います。が、おすすめなのは、幕見で最初の加茂堤だけ見るのはどうでしょう。
それだけを見て、へえー!と面白がるもよし。でもその後このお話がどうなるのか、少し知っておくと、この先お楽しみが増えると思いますよ。
【加茂堤】
★今回の配役
桜丸 (中村勘九郎) 斎世親王の舎人として仕えている。良かれと思ってしたことが…。
八重 (片岡孝太郎) 桜丸の妻。桜丸とともに斎世親王の恋に協力。
菅原伝授手習鑑は、全五段の長い長いお話。今月の歌舞伎座ではそのうち、序段と二段を上演しています。そのうち今回観る「加茂堤」は、一番最初のエピソード的な部分です。たったの25分ですが、後のストーリーにつながる大切な部分でもあり、他の部分ほど上演されない部分でもあるので、ぜひ記憶にとどめておいてくれるといいなと思います。
よく上演されるのは、第三段の「車引き」と第四段の「寺子屋」です。
長い長いお話とは。
平安時代に、三つ子の兄弟がいました。名前は、梅王丸、松王丸、桜丸。父の白太夫は、菅丞相(菅原道真)に仕えている実直な老人。3人の子どもはそれぞれ別の相手に仕えています。
梅王丸→菅丞相
松王丸→藤原時平
桜丸→斎世親王(帝の弟)
ところが、菅丞相と藤原時平が争うことになったため3人の兄弟にも暗雲が立ち込めていくのです。
加茂堤は、藤原時平が菅丞相を貶めるために利用することになるエピソードです。
★「加茂堤」あらすじ
延喜帝(醍醐天皇)のころ。帝の病気平癒のために右大臣菅丞相、左大臣藤原時平は、加茂神社に家来を参内させています。
そんな加茂神社で、愛し合う斎世親王(帝の弟)と苅屋姫(菅丞相の養女)のために、そのデートのおぜん立てを桜丸と妻の八重がセッティングするのです。牛車の中でデートをすることとなり、桜丸もなんだかウキウキしてきてしまい、妻にちょっかいを出す始末。
ところが、時平の家来三善清行に、車の中にいるのは誰かを怪しまれます。
そこは、桜丸がうまく追い払い、その間に、斎世親王と苅屋姫は、駆け落ちをして逃げ延びてしまいます。
加茂堤はここまでです。
これが、藤原時平に知られてしまい、「帝に対する謀反の心がある」と言いがかりをつけられてしまいます。つまり、病気の帝に替わり、弟の斎世親王を天皇に据え、養女苅屋姫と結婚させ、実権を握る気であろうというわけです。
この後、菅丞相はその疑いのため、九州の太宰府に左遷されてしまいます。
昼の部では、この後菅丞相が左遷されるまでの「筆法伝授」「道明寺」が、そしてその後の三段「車引き」と「賀の祝い」(佐田村)は、今月国立劇場小劇場の文楽で観ることができます。
★「加茂堤」見どころ
菅原伝授手習鑑は、長いお話で最終的にはハッピーエンドで終わりますが、そこに至るまでには、たくさんの悲劇があり、重厚な物語です。が、この加茂堤は、そこだけ楽しむと、
「若い二人が、牛車の中でお楽しみ。取り持った家来もなんだかウキウキ。敵が来たけれどうまく逃げた」というストーリーになっているので、そのまま楽しめばいいと思います。この先気になる人は、ぜひ続きをみてください!
★斎世親王 (中村米吉) と苅屋姫 (片岡千之助)というカップルが美しい
米吉は、今若手の中でとても人気のある女方ですが、今回は斎世親王という男のお役。高貴な雰囲気を醸し出しています。
千之助は、片岡仁左衛門の孫。将来を嘱望されているもうすぐ20歳(2000年3月1日生まれ)の若手イケメン俳優です。
★桜丸は浮かれているが…
デートのおぜん立てをしてくれるのが、桜丸(中村勘九郎)と女房八重(片岡孝太郎)。
勘九郎は、テレビにも引っ張りだこの人気俳優。故勘三郎の長男です。この段では、デートのおぜん立てをしてすっとぼけた演技で笑わせてくれますが、結局このおぜん立てが主人の失脚のきっかけになったことの責任をとり、切腹をすることになってしまいます。(賀の祝い)
★最後に、八重が力仕事
最後は、八重が桜丸の羽織を羽織って、牛車を引っ張っていくところがユーモラスです。
こちらの幕見ツアーを15日に開催します。奮ってご参加ください。