『菅原伝授手習鑑』という長~いお話の中の、一部分です。比較的よく上演されます。
歌舞伎の様式美がすばらしい。短い演目だけれど歌舞伎の魅力がたっぷりなのでおすすめ。
簡単すぎるあらすじ
かんたんに言うと、敵の親分が乗っている車を見つけた兄弟(梅王丸と桜丸)が、襲撃しようと立ちはだかるが、中から親分が出てきてその恐ろしいほどのオーラにビビるという場面です(笑)。
上演時間は、30分程度でしょうか。
もう少し詳しいあらすじ
もう少し詳しくお話します。
三つ子の兄弟梅王丸と松王丸と桜丸はそれぞれ、違う人に仕えているため、争うこととなってしまいます。
梅王丸は、菅丞相(菅原道真)の家来。
桜丸は、斎世親王(天皇の弟)の家来。菅丞相は天皇に仕えていますから、この二人は同士ともいえます。
しかし、松王丸は違います。松王丸の主君は左大臣藤原時平。藤原時平は、ある出来事をきっかけに、右大臣菅丞相を陥れて流罪にしてしまった張本人。
哀しきかな。三つ子は、松王丸VS桜丸・梅王丸 と図らずも敵対関係にあるのです。
ある出来事というのは、加茂堤を見てもらえればと思うのですが、桜丸が斎世親王と菅丞相の娘の苅屋姫のデートのおぜん立てをしたことです。
ところが、藤原時平は「菅丞相は斎世親王を天皇にして、義父として実権を握ろうとしている」なんてありもしないことをでっち上げ、菅丞相を島流しにしてしまうのです。
これでライバルを蹴落とした!というわけです。
ここから、車引になります。
都の吉田神社のそばで、梅王丸と桜丸がすれ違います。
桜丸は、意気消沈しています。それは、菅丞相の流罪の原因が自分にあったからです。
切腹したいけれど、もうすぐお父さんが70歳のお祝いなので、それまでは切腹を思いとどまると言います。
梅王丸は梅王丸で、菅丞相の御台所の行方が分からず、焦っています。
是非も無き世の
有様じゃなあ。
と二人は嘆くのです。
そこへ、通りかかった藤内の話から、藤原時平が吉田神社へ参詣することがわかります。
「何と聞いたか、桜丸。斎世親王、菅丞相、憂き目に遭わせし時平の大臣、ぞんぶん言おうじゃあんめいか」
にっくき時平をやっつけるチャンスだ!二人はいきり立ち、駆け出していきます。
こうして時平の行列を阻む、梅王丸と桜丸。それを時平の舎人の杉王丸が押しとどめます。
仕丁4人も現れて、うちかかってきますがそれぞれ投げて、見得。
三つ子のもう一人、松王丸も現れます。
見得。
「やあ、命知らずの暴れ者!いずれもにはお構えあんな。兄弟ひとつでねえという、松王が忠義の働き、お目にかけん!」
車を引き合い、見得。
「でっけえ!」という掛け声で見得。
もう、いちいち見得が決まります。
そこに御所車のてっぺんを打ち破って、ドロドロドロと出てきたのが藤原時平です!
怖いのなんのって。すごい迫力です。
時平に、「青蝿めら!」とどつかれて、今までかっこよかった梅王丸、桜丸が急に小さく見えます。
〽さすがの梅王、桜丸、思わず後ろへたじたじたじ、五体すくんで働かず、無念無念とばかりなり。
松王丸は、二人を成敗しようとしますが、時平は松王丸に免じて二人を許すといい、この場は終わり。
桜丸の忸怩たる思いや、梅王丸の早く筑紫に行きたい気持ちなど、すべてのお話は、次の「賀の祝い」へと続いていくのです。
見どころ
その1 見得、見得、見得。完成された様式美の極み
とにかく、見得、見得、見得。様々な見得を見ることができます。美しい浮世絵が目の前に様々なシーンで決まります。見得にもいろいろありますが、車引では梅王丸の元禄見得、松王丸の石投げの見得、横見得など。見得って、登場人物を強く印象付けるために行われますから、ワンシーンワンシーン、インパクトのある情景が続きます。
その2 梅王丸の飛び六法
「車引」は30分程度の演目なのですが、様式美の詰め合わせ♪
梅王丸が引っ込むときの飛び六法はすごい迫力ですよ。衣裳はとても重く、まるで布団を着ているようだとのことですが、その衣裳を着て、がっしがっしと花道を飛んで行きます。
機会があれば、歌舞伎座ギャラリーでミニ特別映像「梅王丸ができるまで」を見てください。すごくおもしろいです。(不定期に公開2022年4月現在は、残念ながら歌舞伎座ギャラリーがほとんどクローズ。再開を強く願っています)
梅王丸の拵えをする舞台裏の様子を、愛之助が解説をしています。飛び六法で駆け抜ける様子も映っていますよ。
その3 色彩鮮やか
藍隈の藤原時平。3兄弟の紅隈も対照的で鮮やか。
衣裳は、梅王丸と桜丸が赤。松王丸が白と対照的で、敵味方もわかりやすく、美しく絵になります。
車引は、絵になるので、いろいろなところで観ることができますよ。
あ。我が家にもありました。メモ帳です。