「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

一本刀土俵入~よかったなあ

一本刀土俵入り とてもよかったです。

 

 

あらすじと見どころ

あらすじと見どころはこちら

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印象的なシーン

心に残る印象的なシーンがいくつかあります。

 

 さりげなく他人を装う野次馬たち

取手の安孫子やの前で、船戸の弥八が大暴れ。野次馬たちが続々と集まってきます。興味津々で、喧嘩の顛末を観ている人々ですが、船戸の弥八がぐるっと視線を自分たちに向けると、さーっとあらぬ方を見て視線が合わないようにする。ぐるっとほかの方を見ると、また視線をもどして喧嘩の顛末を見届けようとする。

その無責任で、身勝手な群集心理が現れていて面白いです。

 取手の宿でのお蔦と茂兵衛

ここは一本刀と言えばこれというほど有名なシーン。2階のお蔦が帯を使って櫛かんざしを階下の茂兵衛にあげるシーンは、やはり絵になりますね。

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これでは2階ではないですね(≧∀≦)

 

 利根の渡しで、辰三郎を見送る老船頭(東蔵)と船大工(錦吾)

いかさまをして追われる辰三郎は、さいころを捨てて逃げていきます。

誰か来たのか?と作業の手を休めて聞く船大工に、老船頭は

「なあに、人がひとり駆けていっただけだーに」と煙管の煙をくゆらせながら返します。

「あれあれ、どんどん駆けていかー」

と遠くを見つめる老船頭と船大工、そして若船頭(廣太郎)。

 

利根の渡しの湿地帯?ススキや葦が茂る台地を笠をかぶって走っていく、だんだん小さくなっていく辰三郎が見えるようでした。

 

これは3人の視線が合っていないとちぐはぐになってしまうと思うのですが、どこか視点を合わせるように相談しているのでしょうか。

 

 「あ!思い出した~」で場内ふわっ

茂兵衛のことを思い出せなかったお蔦ですが、やくざたちを頭突きでやっつける姿を見てぱっと記憶がよみがえる。

「あ!思い出した~」と両手を挙げるところで、私たち観客もふわ~っと笑顔になりました。

 

ダブルキャストで見た茂兵衛

一本刀土俵入りは、20日から23日まで茂兵衛役の幸四郎が休演となったため、代役は勘九郎がつとめました。幸四郎が休演になったのは残念なことで、ご自身もとても悔しいと思うのですが…。(本日24日より復帰)

ダブルキャストで観ることができたのは稀有な機会でした!

幸四郎の茂兵衛、勘九郎の茂兵衛、どちらも観てきましたが、どちらもよかったです!

 

何と言っても幸四郎の姿の良さはその足の太さです。どちらかというとほっそりした印象の幸四郎ですが、顔と同じ太さじゃないかと思うほど足が太くて、膝のあたりはごつごつしていて、取的の感じがとても出ていました。

 

朝日新聞の劇評に、「希望に満ちた相撲取りの前半と侠客になった後半」という文言がありましたが、前半の茂兵衛は希望に満ちているのだろうか?

私には、幸四郎の茂兵衛は希望に満ちているようには見えませんでした。親方には見込みがないと追い出され、もらったお金もすでになく、ふらふら。藁をもすがる思いで江戸を目指しますが、果たして希望に満ちているのかどうかといえば、そうは思えない。

 

ところが、勘九郎の茂兵衛は、バカっ正直な茂兵衛で、本当に横綱になることを信じているように見えました。どちらがいいとか悪いとかではないのですが、違いが面白かったです。

みっちりと2020年に役を工夫していただけあって(上演はならず)、勘九郎の茂兵衛は細かいところも手が入っていて楽しかったです。餅を喰うけ?と子守女に言ったり。

 

 

後半、10年間お蔦の恩を一日たりとも忘れずにいた茂兵衛が、すっきりとした渡世人姿となり、お蔦を探しに来ます。相撲取りにはなれなかったけれども恩を忘れずにお金を返しに来たのです。

ところがお蔦は、そんなやりとりをちっとも覚えていない。当時お蔦は乳飲み子を抱え、辰三郎は行方知れずとなり、やさぐれていました。茂兵衛にぽんと気前よくお金をあげたことなどはすっかり忘れていたのでした。

 

 

悪い奴ら(といっても、いかさまをやったのは辰三郎なんだから悪いのは辰三郎(笑))をぶっ飛ばし、お蔦夫婦を見送って

「茂兵衛は、モノになり損ねました。

仲良く丈夫でおくらしなさんせ。お蔦さん、ぼうっきれを振り回してする茂兵衛のこれが、10年前に櫛かんざし、巾着ぐるみ意見をもらった姐さんに、せめて見てもらう駒形の、しがねえ姿の土俵入りでござんす」

 

って、ラストシーン。泣けました。

 

駒形茂兵衛のモデルの力士の話はこちら!

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それ以外の印象的な役者

 堀下根吉は長谷川伸の理想?

不愛想だけれど筋の通った男。そして冷静で親分が信頼している子分、それが堀下根吉です。「歌舞伎ちょっといい話」(戸板康二)には「この役はうまい役者がでて、もうけ役にしている。長谷川伸さんの理想のタイプだろう」と書いてあります。

 

今月、誰がやっているかって?それは染五郎クンです。

大変カッコいいので、注目していただきたいです。

もしあなたが「染五郎ファン」で「昼の部も夜の部も染五郎が出ているけれど、どちらかしか見られない、どうしよう!」と思っているなら、私は間違いなく夜の掘下根吉を観ることをお勧めします!

 

まだ18歳とは驚きです。

 

 辰三郎を追う波一里儀十

中村錦之助。こちらもめっぽうカッコいい。昼の部の土蜘での平井保昌も大変スッキリしています。やくざの親分にしては線が細すぎないかと思いましたが、ドスドスと太目な感じで、「いかさま、ただじゃすませねえぜ」という気迫がこもっていました。最後には茂兵衛と角力の勝負をしますよ。

 

  煙管をくゆらす老船頭 東蔵

印象的なシーンでも書いた老船頭の東蔵。すごくよい。昔の安孫子屋を知っている風情、渡世人と知って関わりたくないと感じたり、それほど悪い奴ではなさそうだと知って、心をちょっと開いて軽口を叩いたり、上に書いたように風景が見えてくるような演技であったり、老船頭の人生そのものも見えてくるようでした。

さすが人間国宝。錦吾とのやりとりもよかった。

 

 若い!子守の芝のぶ

子守おんなの芝のぶが、本当に小娘に見える!雀右衛門のお蔦が24歳というのは、「う~~~~ん」と思ったけれど、芝のぶの子守の子は、顔も若いし、ぴょこんと顔を出したり引っ込めたりというしぐさが本当に少女のようで、子守歌もうまく、驚かされた。

芝のぶ、11月には大抜擢!それはまた別稿でね!

 

とまあ、作品よし。役者よし。美術よしと心に残る作品でした。

 

幸四郎、本日24日より復帰。おめでとうございます。