「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『芦屋道満大内鑑~葛の葉』 狐の愛情に涙しちゃうファンタジー

 

新国立劇場での二つ目の出し物はこちらです。

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葛の葉とは

平安時代陰陽師安倍晴明といえば聞いたことのある人も多いはず。その安倍晴明の母親が実は狐であったという伝説がもとになっています。

 

安部保名に助けられた狐が、保名の恋人葛の葉姫に変身して保名の子ども(後の安倍晴明)と共に平和に暮らしていますが、本物の葛の葉姫が来たことにより狐の世界へ帰っていくというファンタジックな作品です。

 

 

今年の大河ドラマ『光る君へ』ではユースケ・サンタマリアが安部晴明にふんしていますね。

今回の葛の葉に出てくるかわいい子役の童子が、将来ユースケ・サンタマリアになるとは笑止笑止!

 

このお芝居の主役は、葛の葉です。今回梅枝がつとめていますが、素晴らしい出来でした。

 

見どころ

 葛の葉の早替わり。

 

葛の葉姫の代わりになって保名の奥さんに納まっていた狐ですが、ある日のこと本物の葛の葉姫が保名を探して両親と共にやってきます。さあ大変。部屋で機織りをしていた狐と外にいる葛の葉姫、どちらも同じ俳優が演じますが、あっという間に早替わり。

保名が「あちらにも葛の葉。こちらにも葛の葉」とキョロキョロしてしまうほどの素早さで早替わりをします。もちろん鬘や衣裳が変わるだけではなく、性根も替わります。(素早い早替わりのときには、窓から顔を出すだけなので衣裳はかわりませんが)葛の葉姫はお姫様、狐の葛の葉は、子を持つ情のある母親として、それぞれ所作も性根も替わります。それが歌舞伎の早替わりのすごいところですね。

 

 狐の霊力

 

長く保名の妻であり、童子の母であった葛の葉は実は狐でした。手を触れることなく屏風をひっくり返したり、木戸を開閉させたりします。袖から伸びた手は長く、先は丸く狐手になっていますが、グーになっておらず長くて本当に狐の手のよう。

 

 和歌を障子に書き写す

このシーンがなんといっても『葛の葉』の名場面。悲しいかな狐は、本物の葛の葉姫が現れたことで、身の置き所はなくなり、保名の元を去ることを決意します。そして

 

〽恋しくば訪ね来てみよ和泉なる 信田の森のうらみ葛の葉

 

という歌を障子に書いていくのですが、書いている途中で子どもが起きて泣いてまとわりつきます。わかります。子どもを育てたことがあると。何をやっていてもまとわりついて、とうとう何にもできなくなって、だっこしたまま呆然としてしまうこと。ありました。そんなことを思い出すと、グッときてしまいます。

 

まとわりつかれるので右手で書けなくなって左手で書いたり、とうとう口にくわえて書いたり。それでも達筆で驚かされるのですが、しかも鏡に映したような反転した字になっていたり、書き方が下から書いてみたり。見事な書きっぷりに思わず拍手がわきます。

 

役者さんによって書き方はさまざまだと聞いてますます驚きますね。障子の字にどうぞご注目を!

 

 狐葛の葉の深い母性愛

とにかく感動するのは、狐葛の葉のまっすぐで深い母性愛です。一生懸命子育てをして、無益な殺生をした我が子をしかったり、ぐずる子に添い乳してやったり、別れるとなってもなかなか別れられずにしっかりと抱きしめながら障子に別れの言葉を書き連ねたり。狐とはいえ、いえ、狐だからこそまっすぐな愛情なのでしょうか。心打たれる母性愛です。

 

保名も子供を抱いて、狐葛の葉を追いかけていきます。その後もお話は長く続きますが、上演されるのはそのうちこの『葛の葉』のみのようです。

 

最後は、立ち回りもあって狐葛の葉がキリリと見得をして幕となります。

 

今回の役者

 梅枝(葛の葉) 

母の慈愛をたっぷり見せる狐葛の葉。本物の葛の葉姫の愛らしさ、早替わりの性根の変わり方。立ち回りの凛々しさ、どれをとっても素晴らしかったです。

 時蔵(保名) 

梅枝の父時蔵が保名。時蔵は何度も葛の葉を演じていますから、梅枝も、さぞかし安心して演じることができたでしょう。見ていて安心。演じて安心。

 

ここに、信田庄司(権十郎)と妻柵(萬次郎)が加わりました。本物の葛の葉姫の両親です。娘思いの両親の愛情が、やはり胸を打たれました。ベテランに支えられてのよい舞台となりました。

概況

1734(享保19)年竹本座の人形浄瑠璃で初演。竹田出雲作。

歌舞伎での初演は1735(享保20)年京都中村富十郎座。

 

他の演目についてはこちら!

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