6年ぶりに再演された「マハーバーラタ戦記」。
- 簡単なあらすじ
- みどころその1 菊五郎の第一声
- みどころその2 歌舞伎らしさとインドらしさと
- みどころその3 芝のぶのヅルヨウダ王女
- みどころその4 数々の立ち回り
- みどころその5 やはり存在感抜群の丑之助
簡単なあらすじ
お話は、古代インドより伝わる神話だから、なんというか芯がしっかりしているというか、ストーリーに哲学がある。そしてテーマは不変だ。「争うのをやめるには平和な歩み寄りが必要」なのか。「圧倒的な武力を持ったものが力で世界を支配しなければ、争いは止まらない」のか。
初演の時も感じたけれど、まったく今の世界も同じような状況で、ウクライナとロシアでもイスラエルとパレスチナでも今まさに力と力のぶつかり合いが続いている。まったくもって愚かしく、進歩がない人間たちだ。
さて、争いばかりしている人間界を見て嘆く神様たちは、もうおしまいにして人間界を滅ぼしてしまおうと考えるが、太陽神が「人間界にも優れたものはいる」といってチャンスを与えようとする。
太陽神はゾウの国のクンティ姫に子を授け、その子に平和の力で人間界を平定させようとする。生まれたのがカルナ。
対して帝釈天は力で世界を支配すれば争いごとは終わるという考え。同じくクンティ姫に子を授ける。生まれたのはアルジュラ。
つまり、争いなく平和を求めるカルナと、力で平和をもたらそうとするアルジュラは異父兄弟だ。そして二人を戦わせようとする帝釈天。「慈愛をもって戦をとめよ」と諭す太陽神。
カルナとアルジュラは出会い、そして最後には対決をする。
みどころはたくさんありすぎるので列挙。
みどころその1 菊五郎の第一声
俳優祭も国立劇場最後の舞台にも出なかった菊五郎が、出演。これはうれしかった。
「なんと、この世の終わりがはじまる」という第一声が、凛としていてその存在感がいつも通りで安心できた。最後のシメもやっぱり菊五郎。杖をトン!
みどころその2 歌舞伎らしさとインドらしさと
・衣裳
ド派手な金ぴかな衣裳で登場の神様たちがまず度肝を抜く。なんて贅沢。なんて荘厳。なんて鮮やか。
・歌舞伎らしさを交えた演出
大序で居並ぶ神々たちは最初目をつぶっているよう。次第に目を開けていく様は、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の大序で人形に模した登場人物たちが次第に人間になっていくところのよう。
争いばかりしている人間は滅ぼしてしまおうというところに、「しばらく!し~ば~ら~くお待ちくださいましょう~」といって太陽神が出てくるのは、「暫」のよう。前回左團次の演じた太陽神を、彌十郎がしっかりと担った。明るくおおらかで温かい包み込むような太陽神だった。
クンティ姫を惹きつける太陽神は、連理引きで。
※連理引きというのは、魔力に引っ張られる演出。逃げよう逃げようとしても戻される。
五王子の居並ぶ様は、白浪五人男のよう。
そんな歌舞伎心をいい具合にコチョコチョくすぐられるのも気持ちがいい。
・音楽
邦楽とインド音楽がこんなにもマッチするとは。心の不安やざわめきはマリンバで。心臓の高鳴りやドキドキは太鼓で。いやいやそれだけではなく、なんとSPACさんは、100以上の楽器を駆使しているそう。それであの複雑な音楽が成り立っていたんですね。
芝のふさんのブログに書いてありました。
https://ameblo.jp/nakamurasinobu/entry-12829440607.html
要所要所は笛や三味線で。またマリンバや太鼓も舞台に出ていて生演奏というのもとてもよい。2階の東席の前の方で見ていたら、奏者の方は出番でないときはしゃがんでいた!
みどころその3 芝のぶのヅルヨウダ王女
今回話題になったのが、このヅルヨウダ王女役に抜擢された芝のぶ。もともと美しい女方として耳目を集めていたけれど、一般家庭出身のため主に腰元役のような脇役が多かった。が、2019年のナウシカでの墓の庭、2023年FFXでのユウナレスカ役でぐんと評価があがり、ついに射止めた歌舞伎座での大役。
前回は七之助が演じたヅルヨウダとは、悪役でもあり、孤独で悲しく切ない役でもある。それを今回また見事に演じてみせた。美しく、迫力で迫って、哀しみをまとって最後は階段落ち。見事というしかない。
茄子紺の口紅が今夜も怪しく光る。
ヅルヨーダの哀しみ
「わらわはずーーーっと一人であった。カルナがそんなわらわの心の鎧を解いた」
「夜の闇が深すぎて、またたいた星を太陽と思い違えただけのこと」
このセリフがもう何回聞いても胸を打つ。カルナが出自を明かせずにいることに5皇子が、そんなどこの馬ともワカラナイ奴が武芸大会に出る資格はないと責め立てるところで、「血筋血筋と言いおって」とヅルヨウダに言わせるのもすごい。芝のぶこそ、血筋がないから実力があるにもかかわらず、今まで遠回りをしてきたのだから。
みどころその4 数々の立ち回り
アルジュラVSカルナ
アルジュラもそれほど悪い奴ではなくて、各々の運命に従って生きているだけ。二人の戦いは悲しく、しかし最後の時は訪れる。戦っている間、一瞬だがカルナがアルジュラの肩を抱くシーンがあり、胸熱であった。
またアルジュラ隼人の立ち回りがやはり何度見ても美しい。手足が長いせいか、どんなに激しい立ち回りでもしなやかさがある。しかもキレがいい。
カルナvsビーマ
鉄の玉をブンブン振り回すビーマ。「萬ちゃん(ビーマ役の萬太郎)、ホントに怒ってんの?」と思うくらいの迫力。トゲトゲのついた鉄の玉という武器は、「モーニングスター」という名称で、歌舞伎には出てこないものだけれど、6年前に咲十郎さんらが「これがこの役には合っている」ということで決めたそう。
ちなみに咲十郎&菊次コンビは本当にいつもよい仕事をしています。
立ち回りについては、ぜひこちらの記事も参照願いたい。
みどころその5 やはり存在感抜群の丑之助
今回ガトウキチャとガネーシャの二役を演じた丑之助。丑之助は、今までの歌舞伎の子役の概念を変える子だと言ってもいいかも。
ガトウキチャというのは、アルジュラの義理の兄弟ビーマとシキンバという森の魔物との間に生まれた子供で、父であるビーマを尊敬し、助けようとしてカルナと戦って死ぬ。
カルナはこのときに帝釈天に授けられた「シャクティ」という最強にして1度しか使えない武器をガトウキチャ相手に使ってしまう。
つまり、そのくらい「今、シャクティを使わなければやられる」という危機感をカルナに感じさせなければいけない難しい役だけれど、丑之助は「父上に手を出すな!」というセリフから迫る迫力、シャクティに打たれて、転げ落ちる最後など圧巻の演技。
わずか9歳(10歳のお誕生日はもうすぐ!)、子役を超えた俳優といっていい。
まだ見られます。25日まで。歌舞伎座にてぜひ。
ごめん、菊之助のこと全然書いていないし、まだまだ見どころはたくさんあるのだけれどとりあえずここまででアップしておこうと思う。また観に行けたら追記します。
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