「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

必見!仁左衛門の一世一代 義経千本桜 渡海屋 大物浦

義経千本桜の長いお話は、以前も書いたように、平知盛、いがみの権太、狐忠信という3人がかわりばんこに主人公になります。

2段目の渡海屋・大物浦は、その中でも平知盛が主人公のお話です。

 

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仁左衛門の一世一代

ただでさえ重厚でしびれる演目ですが、今回は仁左衛門の一世一代ということで注目も浴びています。一世一代というのは、「もうこれでこの演目は、最後。もうやらないよ」という意味。仁左衛門型と言ってもいいほど工夫に工夫を重ね、思い入れもある演目。もっとやりたい気持ちはあるけれど、「一世一代」と宣言することではっきりと終止符を打つとのこと。これを見ずにおられましょうか。

 

同じ時代にいられることができる幸せをかみしめながらしっかりと目ん玉をひん剥いて最後の知盛を見届けたいものです。

 

さてお話です。

 

背景

 

平家物語で描かれる平家の最期。確か壇ノ浦で次々と入水し、平家は滅亡するのでしたね。

この義経千本桜は、もしその時に平家の人々が生き残っていたら…という前提の物語です。それでも結局最後、人々は入水して果て、史実と同じ結末となってしまいますが。

 

あらすじ

渡海屋の場

渡海屋銀平、ここにあり

 

大物浦の船問屋渡海屋では、わさわさと忙しそうに下女や船頭が仕事をしています。

 

お安という女の子が寝ていて、そこを弁慶が跨ごうとすると突然不思議なことに足がしびれて跨げないという現象が起こったりします。実はお安は安徳天皇で、オーラが強すぎてまたげなかいという設定なのですが、その辺は今回カットとなっています。

 

渡海屋には、義経と家来が逗留して西国を目指す日和のいい時期を見計らっています。義経はすでに頼朝に疎んぜられ、追われる立場になっています。

 

そこへ、やってきたのは北条家の家臣入江丹三と相模五郎。義経主従が九州に落ちのびるという噂があるので、船を出せ!と横柄な態度を見せます。

そこを、ここの女将お柳が、「先に船出を待っている人がいるので」と毅然として断るも、もめているところに、渡海屋の主人銀平がさっそうと現れ、むんずとひっつかまえ、追い払う。そこがもう、登場からして格好良くてたまらんのですよ。

 

でも、実は丹三も相模も、銀平の子分で、これは義経たちを安心させるための工作。ずいぶん手の込んだ工作ですね!

 

義経、船出。

 

そこへ奥から出てきたのが義経主従です。銀平が北条の家来を追っ払ったことに感謝し、空模様が悪いことを気にしつつ、船に乗るために渡海屋をあとにします。

 

さて、義経一行は、去っていきました。お柳が銀平を呼び、障子が開くと、なんとそこには先ほどの姿(も格好良かったけれど)とは違って、白柄の長刀を構えた美しい武士、平知盛の姿がありました!

 

知盛が生き残って義経を討ったと言われれば、そのあと頼朝も討つつもりなので都合が悪い。海上で戦えば海で死んだ知盛の怨霊にやられたと思うだろうと、幽霊だと思わせるために、白い衣裳に身を包み、追っていくのです。

 

実は、銀平は平知盛、お安は安徳天皇、お柳は典侍の局でした。

銀平、もとい知盛は、

「九郎が首打ち、立ち帰らん!」と勇ましく言えば典侍の局も

「必定勝利疑いなし!」と応じます。

 

ただ、と知盛。

「大物の沖に当たって、提灯たいまつ一度に消えなば、われ討死と思し召し、君にもお覚悟勤め参らせ、あと見苦しからぬよう」

というのです。

 

沖の船のたいまつが一度に消えたら討死したと思って覚悟して、あとは見苦しくないよう、(自害しなさい)

 

そして、死に装束の家来とともに去っていきます。

 

大物浦の場

 

吉報を待つ典侍の局たちのもとに、相模の五郎がやってきて、すでに銀平が知盛であることはバレていたことを告げます。さらに海上の船のたいまつが消え、女官たちは敗戦を知ります。

 

典侍の局も安徳帝を抱き、

「今この日の本には源氏の武士はびこりて恐ろしい国。あの浪の下にこそ、極楽浄土というて結構な都がござりまする」

 

と言いなだめると、女官たちも次々入水。典侍の局の安徳帝とともに入水しようというところで源氏の四天王たちに阻まれます。

 

幕。

 

そこへ知盛が血まみれのボロボロの姿となって、軍兵をブンブンと追い回しながら登場。

天皇は、いずくにおわす。お乳の人、典侍の局」と呼びながら息切れしつつもさけぶところに九郎義経が登場。

 

にっくき相手が登場と、知盛はメラメラと怨念の塊となって

「今こそ汝に一太刀恨み、亡き一門への手向けとなさん」

と長刀をブンブンと振り回して立ち向かいますが、すでに足はよろよろです。

 

弁慶が「もういいだろう?悪い心を捨てて善心を起こしなさい」と諭し、数珠をその首にかけますが怒り狂った知盛は

「討てば討たれ、討たれて討つは源平のならい。生き替わり、死に替わり、恨み晴らさでおくべきか」

と、数珠を引きちぎり、その怨念は頂点に達しますが、そこで安徳帝

「我を供奉なし、長々の介抱はそちが情け。今また我を助けしは義経が情け。仇に思うな、これ知盛」

 

と声をかけます。

 

つまり、今までいろいろありがとう。でも今は義経が助けてくれたのだよ、だからもう憎むな。知盛よ。

 

というわけです。ふっと知盛の、怨念が消え、義経に後を頼み、

「昨日の敵は今日の味方、あら、あら嬉しや、ははは。心地よやな。」

 

安徳帝

「知盛、さらば」

 

そして知盛は岩を登り、長刀を海へ投じ、碇の綱を体に巻き付け、碇を担ぎ、真っ逆さまに後ろ向きに海へ飛び込むのです。

 

あとは弁慶のほら貝の音が悲しく響きます。

 

見どころ

涼しくりりしく艶やかな、銀平の登場シーン。

 

前半の渡海屋の場では、とにかく銀平のかっこよさがたまりません。花道から出てくるところでは、小さな碇を担いでくる人が多かったようですが、仁左衛門は「渡海屋」の唐傘をさして登場します。

これがもうため息がでるほどかっこよくて…。棒縞の着付けにガウンのような厚司と言われるアイヌの衣裳を無造作に羽織り、すそをはためかせながら、まっすぐ前、ちょと斜め上?を見つめながらすっすっと花道を歩く姿の涼しく、凛々しく、つややかなこと。

 

特に今回は一世一代であるにもかかわらず、大向こうもダメとなったらもう、拍手しかありませんから、場内割れんばかりの拍手で、本舞台に行っても拍手が鳴りやまないほどです。座敷に上がるときの厚司がふわっとなる様子も、3階から見てもとても美しかった。後姿なのに。

 

ダメだ。登場シーンだけでこんなに書いていては最後まで行きつかない…。

 

あとは、相模五郎と入江丹三をちょいちょいっとやっつけるところも颯爽としていて男前!

 

そして、やられた二人が魚尽くしでほうほうのていで逃げていくところも愉快です。

 

鎧姿になったらもっとかっこよかった

銀平から知盛に代わっての登場もまた、輝くばかり。

幽霊に襲われたと思われた方が、後々都合がいいから白装束になっといたって、変な理屈だけれど、どんな変な理屈も「美」で有無を言わせないのが歌舞伎のいいところ。

一瞬も見逃せませんな。

 

一転、ボロボロに弱って、怨念の塊になった知盛に心が痛む

 

大物浦の場では、敗色濃厚となり、矢折れ刀付き、ボロボロとなりつつも怨霊の塊のようになった知盛が悲壮です。「あらあら、無念。悔しやなー」とうめく知盛。

仁左衛門はインタビューでこの場面について

「これが疲れます。私は手負いの役を演じるときは本当に苦しくなってしまうんです。これが演技力で苦しさを表現できれば楽なんですがね」と言っており(ほうおう3月号)

その苦しみが全身からあふれ出してこちらにも伝わってくるので、こちらもつらくなります。

 

ふっと苦しみから解放される安徳帝の言葉

 

しかし、怨念の塊と化していた知盛ですが安徳帝の「あーだーにーおーもーうーな。こーれとーもーもーりー」という言葉で、ふっと恨みが消えるのです。そこが見事です。ぜひ注目してほしいと思います。

 

壮絶な最期

そして、最後の場面。碇の綱をまきつけ、碇を高々と持ち上げ、後ろ向きに海に落ちる場面は、何度見ても慣れない衝撃的な最期です。すべての怨念をわが身にまとわせて、海へ消えていく知盛です。

 

千穐楽は25日。まだチケットはあるようですので、ぜひこれからでも多くの方に観てほしい仁左衛門の渡海屋・大物浦です。

 

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