「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

子役の大役に新・梅枝が挑戦 『恋女房染分手綱』(こいにょうぼうそめわけたづな)~重の井

長い長いお家騒動のお話の十段目にあたる「道中双六」「重の井子別れの段」が、2024年7月に大阪松竹座で上演されます。

今回は、時蔵改め萬壽が重の井。五代目梅枝が三吉を勤めます。お芝居が大好きな梅枝クンのこと、きっと魅せてくれると思いますが、先月の披露公演に続き、1ヵ月ホテル暮らしで緊張もあるでしょう。がんばってほしいです~。

■あらすじ

丹波国由留木家の調姫は、11歳。関東にお嫁に行く途中で「行きたくない」と言い出します。困った乳母は、調姫と同じ年齢の馬方三吉に声をかけ、何か慰めるように言うと、三吉は街道筋の名物を入れ込んだ双六で、面白く話してみせたのですっかり姫の機嫌が直ります。双六でも姫が一番先に江戸に着いたので、「こんなに関東が面白いとは思わなかった。関東へ早く行こう」と皆をせかすので、一同はホッとするのでした。

 

乳母の重の井は三吉にお菓子とこづかいを与えます。そして困った時には重の井を訪ねてきなさいと言うと、三吉がにわかに「由留木の内のお乳の人重の井様とはお前か、そんなら俺の母様」と重の井に抱きつくのでした。

 

実は重の井は腰元として奉公をしていたときに奥家老の息子与作と恋に落ち、与之介という男の子を設けたのですが、オフィスラブはご法度がそのころの世の常。与作は追放され、重の井はなんとか罪を逃れ(とはいえ、重の井の義父定之進が切腹!)調姫の乳母となっていました。

 

与之介は三吉として乳母に育てられましたが、乳母も死に、今は馬子をしていたのです。母の作った守り袋も持っていたので、重の井にも三吉が我が子とわかりました。

三吉は、ほかの望みはなんにもない。父を探し出し、一日でいいから親子三人で暮らしたい。と、とりつき、抱きつき、泣きじゃくるのでした。

 

重の井は気持ちが乱れて抱いてやりたい気持ちもありますが、大事の姫の輿入れの日に三吉という馬子が乳兄弟にいるとわかれば、姫のお名に傷がつきかねません。三吉によくよく言い聞かせて、お金を渡すのですが、三吉はその金いらぬと投げ返します。

 

しかし、姫の出立の時刻がやってきました。重の井は、馬方に馬子歌を歌うように命じ、三吉が別れに馬子歌を泣き泣き歌うのでした。

■見どころ

なんとも悲しいではありませんか。まっすぐに育った三吉も哀れ。生き別れた息子と会えたもののそのまま別れなければならない重の井もまた哀れです。

三吉は子役の大役です。セリフも多いし、感情表現も豊かに演じなければなりません。双六は楽しくおおらかに歌い、目の前の乳母が母とわかってからは、泣き、お金なんていらないと投げつけ、いっしょにいたいと切々と訴えます。そして最後の馬子歌。

一緒に住みたいとさっきまで泣いたのに、今は説得されて馬子歌で一行を見送ります。その心中やいかばかりか。観客も涙せずにはいられませんね…。

■概況

長い長いお家騒動のお話で宝暦元年(1751年)。作者は三好松洛と吉田冠子。

「道中双六」「重の井子別れの段」は、十段目に当たります。原作は近松の『丹波与作待夜の小室節』(宝永5(1708年)。

 

吉田冠子というのは聞いたことがないと思いましたが、人形遣いの名手初代吉田文三郎とのこと。文楽の三人遣いがこの人によって大成したという今の文楽の基礎を築いた人です。

 

大阪松竹座では、今回が初めての上演だそうです。私が観に行けるのはもう少し先。感想はその後に書きますね~。楽しみです。