今月の昼の部の二つ目の演目は、四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言として「傾城道成寺」がかかりました。
四世中村雀右衛門(1920~2012)は、昭和2(1927)年に初舞台を踏んでから立ち役を中心に活躍していました。昭和15(1940)年に兵役につき、南方戦線をまわり、スマトラ島で終戦を迎え、昭和21(1946)年帰国。翌年から舞台に復帰しましたが女方に転向。その理由に戦争体験があるのかはわかりませんが。
雀右衛門は、関西で様々な人の相手役をすることで芸域を広げたそう。
そんな雀右衛門が大切にしたのが「道成寺物」。「道成寺」は『京鹿子娘道成寺』が有名ですがそのほかにもたくさんの道成寺ものがあります。大概、道成寺と言えば、安珍清姫の後日談で、焼き払われた鐘を新調したところにやってきた白拍子花子が、実は清姫の霊だった(ものによって狂言師だったり)というものですが、今回の『傾城道成寺』はちょっと違って、島原の廓の揚げ屋が舞台です。そこにいる傾城清川というのが、清姫の霊なのです。
今回は、息子の5世雀右衛門、大谷友右衛門、その息子の廣太郎、廣松も勢ぞろい。また安珍が松緑、導師尊秀が菊五郎、童子花王・童子駒王が亀三郎、眞秀で、華やかに彩りを添えました。
古い台本、筋書きを観ましたが(昭和40年・昭和56年)尊秀や童子が出ていなかったので、今回は特別バージョンのようでした。(平成11年の国立劇場のものは未確認)
美しい傾城清川と、端正な安珍、どっしりとした落ち着きのある尊秀とかわいらしい童子たち。そして珍しい二人の女後見も、てきぱきとした仕事ぶりでした。