「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『伊勢音頭恋寝刃』観劇レポ 

前半コミカルで後半シビアな『伊勢音頭』。

簡単にだまされて折り紙も刀もだまし取られる情けない男が菊之助。あなた、さっき桜丸を思って泣いていたのに~~。というのは歌舞伎あるあるでして。

こちらの菊之助はいかにもニンで、しょうもない優男なんだけれどもまあ品があってこなしが美しくて、見惚れます。えっさっさ~。

 

その後、追っかけで、大蔵、丈四郎、林平が密書をめぐって抜きつ抜かれつ、追いつ追われつ。廣太郎、吉之丞、歌昇というどちらかというと真面目トリオがデッドヒートを繰り広げます。客席降りまであって、1階は大いに盛り上がっております。

 

とはいえ、ちょうど私の後ろで観劇をしていた方が、「あらあら!お地蔵さんに」「まあ!おほほ」といちいちコロコロとすごく楽しそうに笑うんです。大うけで、すっかり私まで楽しい気分になってしまいました。「衝撃的な話だと思っていたのに、こういう風に楽しませてくれて、ねえ」なんてお隣の方と話していて、ほのぼのしました。

 

今回珍しい太々講の場が出て、ちょっと長く感じてしまいましたが、青江下坂の由来がわかる場面でした。

 

大詰は、幸四郎の福岡貢が圧倒的。私は幸四郎がいろいろ演じる中で『伊勢音頭』の福岡貢が一番好きかもしれません。(後半ね)

きりきりと万野に追い込まれていく貢。そしてついに不本意ながら万野を斬ってしまいます。その後は妖刀青江下坂に引きずられるように、次々と人を斬っていく。それがスローモーションのように、のどかな鳴り物が響く中、殺人が粛々と行われていく、その芸術的な美しさといったら。

 

その他、今回よかったのはお岸の新悟。美しくて目が離せません。古市油屋店先の縁切りの場では、憂いを秘めてじっと万野と貢のやり取りを聞いているお岸。藤色の着物が似合い、とても美しいです。

お紺が縁切りをすると、「えー」というふうに長くて細い首を傾けてじっとお紺をみやります。目を伏せる。じっと見る。目を伏せる。それだけで「お前、それはいいすぎ」「なぜそんなことを」「どうする気であろう」「なんとかして止めてあげたい」といった様々な気持ちを表現しています。

 

かわいそうなお鹿ちゃんは彌十郎。大柄で馥郁としてかわいらしいのに、かわいそうな最期を遂げます。

 

作品の構成としてはあちこち突っ込みどころはあるのですが、すべて大詰めの貢がぶったぎってなぎ倒してくれたという印象でした。