先日も、
2023年に新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』『マハーバーラタ戦記』での演技が評価されたものです。
その舞台は、どちらもこの素顔からは全く想像ができないほど鬼気迫る怪演でした。
一般家庭から歌舞伎界に入ったため、常に脇役、女方であるため、腰元などその他大勢のお役が多かったのですが、菊之助さんがこの二つの芝居に抜擢。才能が花開いたのです。今日は贈賞式に菊之助さんも姿を見せ、芝のぶさんの様子を見守ったそうです。
壇上に上がった芝のぶさんは、手に持った紙を読み上げました。どこぞの政治家などが紙を持ってスピーチをしていると「そのくらいのことも自分の言葉で言えないのか!」と腹のたつものですが、芝のぶさんの場合はセリフのプロですからあれだけの量のスピーチを覚えられないなんてことはありえません。
自分で文を考えて、一言一句、万が一にも間違えたくなくて、それだけ魂を込めたスピーチであったから、紙を持って読んだのですね。そして途中からはぶるぶるとその手は震えていました。
最初、このスピーチの概要を書こうとしたのですが、それだけの想いをもって読んだスピーチであるので、全文書き起こしました。
中村芝のぶのスピーチ全文
「中村芝のぶと申します。この度はこのようなはれがましい賞を頂戴し、夢のようでございます。
読売新聞社様、選考委員の皆様、まことにありがとうございました。
昨年は非常に心に残る年でございました。
そうなりましたのは、尾上菊之助若旦那様が『新作歌舞伎ファイナルファンタジーX』『マハーバーラタ戦記』という素晴らしいお芝居にて、私を大変大きなお役に異例の抜擢をしてくださったからでございます。
2019年の『風の谷のナウシカ』が最初のきっかけであったとは思うのですが、私が自力では気づくことができなかった一面を見出してくださり、引き出してくださったと感じております。忘れられない年となりました。
そして大きなプレッシャーの中、なんとか最後まで大役を務めることができましたのは、2本の芝居の出演者の皆様やこの芝居の制作に携わったすべての方々の力があってのことであり、すべてのお客様や親族、お友達の温かいご後援のおかげ様と存じ、重ねてお礼を申し上げます。
そして入門してから今日というこの日まで、文字通り、手取り足取り芝居や踊りを教えてくださり、まるで家族のように大切にしてくださった亡き芝翫旦那様、今の福助若旦那様、現芝翫親方様、梅彌先生、大奥様や若奥様、ぼっちゃんがた、兄弟弟子の皆さん、中村流の皆さん、かわいがってくださった亡き勘三郎旦那様、それからこんな私を受け入れ、優しく厳しくはぐくんでくださいました歌舞伎の諸先輩方、同輩、後輩の方々、歌舞伎界のスタッフの皆さま、国立劇場養成所の皆様、松竹株式会社の皆様、心より感謝申し上げます。
これを機に歌舞伎界は申すに及ばず、日本の伝統の存続に少しでもお役に立てる役者となれますよう、これからも精進していく覚悟でございますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。」
感謝の心を美しい言葉でつづる
とにかく感謝感謝。どれだけの人に感謝を言っても言い尽くせない。そんな気持ちがあふれていました。飾ったり、奇をてらったスピーチではなく、言いたいことは「感謝」といたってシンプル。また、書き起こしてみると、非常に言葉が美しいことにも気づきました。(歌舞伎役者って、芝のぶさんに限らず、とても言葉が美しいです)
ここに至るまでの芝のぶさんの歩んできた道を考えたら、じーんと泣けてしまいました。
願わくば「異例の大抜擢!」ではなくても、力のある人であれば一般家庭から出てきた人でも主役をはれるようなそんな歌舞伎界になるといいなと思います。(あ。今月は鶴松くんが野崎村でお光ちゃんという主役を演じましたね)
www.youtube.com芝のぶさん。本当におめでとうございます。
そして芝のぶさんを知らない皆さん。ぜひ芝のぶさんの芝居を観てくださいね。それはもう綺麗ですし、役によっては迫力満点、鬼にも蛇にもなるすごい役者さんです。