「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)のエピソードや感想など♪

 

『岡崎猫』は45分ほどですが、もとは長いお話の中の一部分です。
そのお話というのは長く上演の途絶えていた鶴屋南北原作の『獨道中五十三驛』。先ごろ亡くなった市川猿翁が1981年に復活させました。そしてその中の「無量寺」の部分をピックアップしたのが今回の『旅噂岡崎猫』です。

あらすじは、若い夫婦、由井民部之助とお袖と赤ちゃんが旅の途中で無量寺に泊まります。そこにいたおさんという老婆は実は猫の化け物でした。

恐怖の惨劇が繰り広げられるのですが、どことなくユーモラス。それは鳴り物がちゃかぽこちゃかぽこと楽しいこと、猫のぬいぐるみや着ぐるみが出てくるからでしょうか。


今月の1部は『岡崎猫』の後が『超歌舞伎』とあって、先日日曜日に観に行ったときには、隣も前の列もズラリと親子連れでした。小学生と思しき女の子が隣だったので『岡崎猫』が終わったあとでこっそり「怖くなかった?」と聞いたら「面白かった♪」と答えていました。ほっ。

やゑ亮健闘

猫に操られて翻弄されるおくらちゃんの動きに目を奪われます。

エクソシストポルターガイストのように、化け猫に操られたおくらちゃんはとんぼ返りをしたりクルクル回ったり、ブリッジ歩きをしたり、逆立ちをするわけです。その極意は自分の意思ではないということ。しかも女方ですから、その体の線もくずさぬようにみせなければいけない。化け猫の動きに合わせて足を上げたり腕を上げたりするところもあり、化け猫との息の合ったところも見せなければいけません。なかなか難しい演技を要求されます。

後述する坂東八重之助の「影の名優」では、化け猫がとりついたところだけ八重之助が吹き替えをしていましたが、今回のやゑ亮は前半のおくらちゃんも演じるフルバージョン。声もはっきり、幕見席までよく聞こえました。(私は幕見席で1回、2階席で2回観ました)、大健闘ですね。

巳之助の思い

先に書いたように2代目猿翁が復活させた『獨道中五十三驛』は人気が高く、1981年の復活後は何度も上演されました。そして2014年に四代目猿之助新橋演舞場で主演。その後2016年には地方巡業でかかりました。その時に主役を四代目猿之助ダブルキャストで演じたのが坂東巳之助。今回化け猫役だった巳之助くんです。

巳之助を指名したのは四代目猿之助で、「松竹も新作歌舞伎『ワンピース』での活躍ぶりを認めて賛成してくれた」と語っています。そして猿之助は巳之助を指名した理由について、本人の能力のほかにも「変化舞踊の得意な家である坂東家にとっても役に立つことと思う」と語っていました。↓

spice.eplus.jp

鶴屋南北から猿翁、猿之助、そして巳之助へと内容は変わりつつも今回「岡崎猫」が受け継がれて私たちは舞台を観ることができています。想いがつながったのだと思います。なかなかすごいことですね。

今月の巳之助くんは、澤瀉屋や坂東家、いろいろな思いを抱えて舞台に立っていることと思います。

婆のしぐさや猫のしぐさがうまいです。我が家では猫を飼っていますが、そう!そういうしぐさする!水を飲んでいたと思ったら急に何か耳をピンとたててあたりの様子を伺ったり、しきりに前足で顔をこすったり、獲物を弄んだり。ちなみに巳之助クンは猫は好きだけれど猫アレルギーだそうです。

 

大詰めでは十二単を着た化け猫が由井民部之助と戦い、ついには宝剣によって倒されます。十二単を着た化け猫って、よくそんな設定を考えますよね(笑)。そういう歌舞伎のばかばかしさも好きです。

 

『獨道中五十三驛』では、最後化け猫は宙乗りで飛び去っていくそうですが、今回それはなし。

せっかく『超歌舞伎』用にロープはってあるんだから宙乗りすればよかったのになあ。残念。

立師・坂東八重之助『影の名優』

この芝居の躍動的な振り付けの元になったのは、17世市村羽左衛門(今の楽膳さんの父)についていた坂東八重之助が作ったものです。今YouTubeで「坂東八重之助」で検索をすると「影の名優」というNHKのドキュメンタリーを観ることができますので、ぜひご覧ください。44分。昭和38年作。

www.youtube.com

今、歌舞伎座で観られる『蘭平物狂』や『義経千本桜』の「小金吾討死の場」の美しい大立ち回りも八重之助が作ったものです。『鈴ヶ森』で、白井権八に足や手がちょん切られる雲助たちや、『白浪五人男』の最後の弁天小僧と捕り手たちの大立ち回りなども八重之助が作りました。

どれも(芝居の筋なんて忘れても笑)いつまでも心に残るとても美しい立ち回りです。(鈴ヶ森は、美しいというか面白い)

『岡崎猫』で猫に翻弄されるおくらちゃんをやるやゑ亮くんは、17世羽左衛門の孫である9代目坂東彦三郎についているお弟子さんですから、八重之助の孫弟子ということになるでしょうか。

 

ちなみに「影の名優」は昭和38年の作品なので、若き日の菊五郎が丑之助の名前でちらっと出てきます。また番組中八重之助がかわいがっていた銀之助ぼっちゃんは現在の團藏さんです。萬次郎さんもいますね。ぜひご覧ください。

 

いろいろと書き連ねましたが、肩も凝らずに楽しめる『岡崎猫』です。どうぞお楽しみください。

 

あ!筋書の上演記録には今回の記録しかないので初演みたいに見えますが、実は上記のように、『獨道中五十三驛』は何度も上演されており、その中での『岡崎猫』のみの上演は今回が初めてということですね。

20日より、筋書にも当月の舞台写真が入りました。

f:id:munakatayoko:20231224142031j:image