『連獅子』と言えば、親獅子と仔獅子ががっぷり四つに組み、「さあ、がけを這い上って来い!」「待ってろ、父さん」みたいな力強いイメージを持っている方もいるかもしれません。実際そんな『連獅子』もあります。
が、しばしば優美で美しい連獅子を観ることができます。最近でいえば、2021年の仁左衛門・千之助でしょうか。そんな連獅子を今月も観ることができました。
2023年秀山祭での菊之助・丑之助の連獅子です。
もともと品があり、シャープな菊之助ですが、ここのところ、ぐっと太く厚い感じが加わっています。
息子の丑之助は、2013年生まれ。今年の11月でやっと10歳になる小学生です。彼も父親に似て繊細で神経質な印象ですが「手があればあるほど(ふりが複雑であればあるほど)喜んでやる」(2022年藤戸の間狂言を共演した米吉)というほど練習熱心でもあり、踊り好き。
そして演技力でも、『鼠小僧次郎吉』での蜆売り三吉、『盛綱陣屋』の小四郎(2022年)、『FFX』の祈り子(2023年)、と時代物も世話物も新作でもすべてに実力を発揮しています。恐るべし。
前ジテ。
今回の連獅子。とにかく月並みですが「美しい」の一言に尽きます。
前ジテの狂言師右近の出からして、圧倒される美しさで鳥肌がたちます。
〽峰を仰げば千丈の
のところでは、手首を柔らかく使って扇をひらひらと動かし、
〽雲より落つる滝の糸 そこはいずくと白波や
という情景が目に見えるようです。
当初、私はタイトルを「繊細で美しいガラス細工のような連獅子」と書いたのですが、ちょっとそれだともろい感じがするなあとおもって、ずっと考えていました(初日から(笑))それで、「どの面を切り取ってもどの角度から見ても美しく、もろくない!」ということで、タイトルはダイヤモンドにしました。実際今月は、西席、東席、センターと様々な角度から見ましたが、どこから見ても美しかった。
ところが、ダイヤモンドにすると、最高級になってしまってこれ以上よくなりようがない。そこで今後ダイヤモンドになるという期待をこめて、また変更して「宝石」としました。
ところで、がっぷり四つの印象といえば、夏の「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」の音蔵・音幸の『連獅子』は、前シテでオラオラとあおっているようなふりがあり、がっぷり四つでしたね。お二人は菊之助・丑之助の音羽屋のお弟子さんです。公演時期もほとんど一緒だったので、練習は一緒にやっていたのではないかと思うのですが、ずいぶん印象は異なるものです。
狂言師右近と左近は、親獅子が千尋の谷に仔獅子を突き落とし、駆け上がった仔獅子だけを育てるという故事を踊ります。
菊之助は、「さあ、こっちだ。来い。上って来い。来い。そのまま来い。大丈夫だ」と言っているように見えました。誇らしげに笑みさえ浮かべる親獅子の精。
そして、仔獅子。まっすぐに親獅子を見つめて、親獅子に向かって突き進む仔獅子。
踊りの手数が多いほど好きという丑之助くん。
くわっと目を見開いたり、まぶしそうに伏し目になったり(それは癖か?)、ただ手数をなぞるだけではなく、かなり表情豊かで驚きました。
初日には「丑之助~」という大向こうがかかりました。
間狂言。
初日に続き2回目、3回目と観劇のたびにますます脂ののってきた感のある彦三郎、種之助です。
動作、セリフ、ひとつひとつがより大きく、はっきりと、よりコミカルになっていて、観客からの笑いも拍手も回を追うごとに大きくなっていました。中日ごろに観たときは、1階にいた女の子が次第に身を乗り出すようにしていて楽しそうに見ていたのが印象的でした。
後ジテ。
仔獅子を待つ親獅子に、国立劇場の6代目菊五郎の像が重なります(あれは鏡獅子だけれど)。
小さな丑之助をおおらかに見守る菊之助は、時に柔らかく微笑み、包容力があります。公演中盤の後ジテでは、丑之助疲れが出てきたか少しハラハラする場面もあったのですが、そんなとき私は思わず親獅子を見てしまいました。するとそこには穏やかに微笑んでリードしてくれる親獅子の姿があり「ああ、この父についていれば安心なのだ」という気になり、ほっとしたものでした。丑之助にとってもどれほど安心な親の姿であったことでしょう。
Twitterやそのほかで日ごと報告される連獅子の様子にドキドキしました。うまく毛が上がらないときもあったり、合わない日もあったりしましたがその都度調整、さらにギアをあげることもあり丑之助くん、かなりの負けず嫌いでもあるのだなと再認識しました。
特に千穐楽はすばらしかったです。丁寧でひとつひとつの動作を確認しつつ、120%の力を出しきるような丑之助くん。精神力の強さも感じたひと月でした。
そして、孫の丑之助をこよなく愛した吉右衛門。今でも丑之助くんにデレデレの笑顔は忘れられませんが、きっと今月は天国から舞い降りてきてデレデレととろけそうな笑顔で見守っていることでしょうね。
今後、10年後、20年後の菊之助・丑之助の『連獅子』がどう変化していくか私も見守りたいです。
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