「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

錣の会 素浄瑠璃の会 錣太夫 藤蔵


▲竹本錣太夫(左) 鶴澤藤蔵 お二人ともかっこえ~~~!

2月23日 錣の会主催「第3回 素浄瑠璃の会」に行って来た。(紀尾井小ホール)
第2回に引き続き、今回もすごく聞きごたえのあるパフォーマンスを披露してくれたお二方。
パンフレットは、今回はがっつりとお二人の気合の入ったお写真も入り、インタビューあり、見どころ(聴きどころ)がくわしくあり、詞章も別にあり。大変ありがたかった。
熱演後のアフタートークもまた楽しい。

摂州合邦辻 庵室の段のあらすじを簡単に。

継子に恋慕する玉手御前。父合邦は怒り狂い、玉手を斬る。しかし最後にそれが恋慕に見せかけて継子二人を救うためだったということがわかる。が、玉手は死に、最後に自らの身をもって俊徳丸の病を救うというまた大変なお話。


その謎解きは、継子の俊徳丸と次郎丸の関係にある。
次郎丸は長男でありながら、後継ぎを俊徳丸と定められたことを怨み、俊徳丸殺害を計画。玉手御前はそれを察知。俊徳丸を病気にして表舞台から去るようにすれば俊徳丸を救える。また、次郎丸の計画を事前に夫に知らせれば、次郎丸は切腹か処刑されてしまうだろう。それも避けたい。そこで玉手御前は俊徳丸に毒を飲ませ、顔を崩して逃す。最後に斬られてしまうが、玉手御前にとってそれも計画通り。というのは、寅年、寅の月、寅の刻に生まれた女性の肝臓の生き血を飲ませるとその病気は治ると聞いたからだ。玉手御前の生き血を飲ませると、俊徳丸はたちまち元気に治るとまあ、そういうお話。

さて、そこで玉手御前の恋心は嘘だったのかという問題がある。ウソで俊徳丸に迫ったというのが一般的(?)なのかな。
だが、錣太夫さんは、恋をしていたのは本心だという。
摂州合邦辻は1773年大坂で初演され、作者は菅専助、若竹笛躬。当時の作者は、玉手御前が本気で俊徳丸に惚れているという前提で書かれてはいないという。当時摂州合邦辻は、まったく人気がなく長らく上演されなかったそうだ。それが、明治を過ぎ、昭和となり自由恋愛が花咲くようになり、恋心が本当であるという解釈が出て人気がでたとのこと。

なかなか面白いと思った。作者の思惑から外れて、時代の解釈が変わって人気が出るなんて。作者もさぞかし泉下で驚いていることだろう。

今でも玉手御前が完全に俊徳丸に恋愛感情を持っているという解釈がすべてではないと思うが、錣太夫は、その気持ちで語る。

確かに、今の時代の感覚で聴くと、忠義のみであそこまでやるのは違和感がある。義理の息子とはいえ、年の離れた後妻だから玉手御前19歳、俊徳丸16.7歳、(しかもイケメン(笑))となれば、恋したとしてもおかしくはない。
好きになり、しかし義理の親子の関係であるから心の奥底にしまっておこうと思っていたのかもしれない。でも俊徳丸を襲う計画があることを知ってしまい俊徳丸を救うためにできることがある、、と考えるのも妥当だ。

それにしても、激しい玉手御前。俊徳丸に色気で迫るわ、俊徳丸の許嫁の髪の毛をつかんで引きずり回すわ、腹かっさばいて生き血を出すわ。

義理の息子に懸想をしたと知って、怒り狂う父合邦は尼になれと迫るが

「モせっかく艶よう梳きこんだこの髪が どうむごたらしう剃られるもの」

というときの色っぽさ。

今までの屋敷風はもう置いて、これからは色町風 ずいぶん派手に身をもって、「俊徳様に逢ふたらば、あっちからも惚れてもらふ気」
の時の「気」は、気もちがいっぱいこもったこの一言に気合を入れる「気!」だった。強く叫ぶでもなく、さらりと言うでもなく、でも「気!」っと。

藤蔵さんの三味線は、静かなときの「テン」は空気を貫くように響き、激しいときは岩も砕けよとばかり。

母が慟哭
「ほんにこの子が生まれたは寅の年の寅の月寅の日の寅の刻、世間へ沙汰をせぬものと世の教へをば大事ぞと」のところの激しさ
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏のあとからは、もうもう

父も慟哭
「まままま待ってくれ待ってくれ。娘やい。とても生きぬそちが命、臨終正念未来成仏、仏力頼む百万遍、この人数で操る数珠の、輪の中で往生せい」

そのあたりから、

庭に波打つばかりなり 

から最後に至るまで

派手派手にウォーイとアゲアゲでいく。

最後は、「太夫さんは一段語ってヘロヘロですから、あともう三味線のリズムに乗っかって、段切まで」一気に語る。
圧倒的な三味線。
ここを、十代目竹澤弥七は「かかあ天下を発揮して亭主を尻に敷く」と表現した。三味線弾きをかかあに例えてだが、そのようにすごい派手派手な幕切れなのだった。

そのあとのトークで、「本日の出来は50点」と錣太夫さんが言っていて、ビックリ!え~~~。

藤蔵さんは多人数の登場人物の弾き分けなどについても語っていた。

同じ女性でもお姫様と娘では袖の長さが違うので、歩き方も変わるからテンポを変えるとのこと。お姫様はもっちゃりと弾くそう。撥つかい、指の使い方もすべて違うそう。もっちゃりとは。。!

また藤蔵さんといえば、掛け声がトレードマークのようになっているが、昔からそのような三味線弾きの方はいらっしゃったのに、今は周りを見てもあまりおらず、自分は絶滅危惧種だとおっしゃっていた(笑)。

終わった後にすぐまた聴きたい。何度でも聴きたい。そんな素浄瑠璃の会だった。