10月31日と11月1日に2日間のみ行われた十三代目市川團十郎白猿襲名披露記念歌舞伎座特別公演を皮切りに始まった襲名披露公演。11月から2ヵ月にわたり歌舞伎座で行われます。特別公演には私は行けなかったのですが、11月の昼の部、夜の部を観劇できましたのでご紹介。どちらも3階席からの観劇です。
久々の満席の歌舞伎座。新團十郎の幟と満員御礼の幟をみて感慨深いものがありました。
▲満員御礼。そして成田屋の紋「三枡」がたくさん。こんなところにも。
幕も三枡。とてもシンプルで品がありました。
まずは夜の部の感想から。
矢の根は登場人物も少ないし、口上も7人と少なくて、舞台せましと集り非常に盛り上がったと話題だった特別公演の口上に比べ、少し寂しい感じがしました。
矢の根
矢の根は歌舞伎十八番のうちのひとつ。豪快な荒事です。
曽我五郎が父の仇工藤祐経を討つために矢の根を研いでいます。そして大薩摩主膳太夫が持参した宝船の絵を枕の下に入れていい夢を見ようとウトウト。ところがその夢で兄の十郎が工藤の館でとらえられたというではありませんか。慌てて、兄を救うべく、工藤の屋敷へ急ぎます。
幕が開くと荒事の扮装をした五郎。派手派手しいですね。角前髪に車鬢、黒繻子に揚羽蝶を刺繍した着付けに仁王襷、そして筋隈。
▲歌舞伎座ギャラリーにて。矢の根
がっしがっしと矢の根を研いで、準備をする五郎。
今回五郎を演じる幸四郎の「襲名興行夜の部の先頭を切るのは俺だ。任せろ!」という気合が感じられました。(昼の部の最後勧進帳でも幸四郎が團十郎とがっぷり四つですので、同年代としてとても盛り上げているなあと感じます。)
「やっとことっちゃあ、うんとこな」という掛け声をかけてどっしと背ギバ。おしりからどんと落ちて座り、横になるところではその迫力に会場から「ほ~~」とため息が漏れていました。
幸四郎の声がちょっとかん高くて気になるのですが、気合は十分でした!
口上
という大御所たちがそろって、
12代目團十郎との思い出話や「当代は暴れん坊将軍とよばれたこともあり」(菊五郎)、「さぞかし立派な團十郎になってくれるものと期待して…習った先輩を大事にして…」(白鸚)「夏雄さんの家に遊びに行くと、小さい坊やがうろちょろしていて」(仁左衛門)「高みにのぼった團十郎さんの応援はもうやめて新之助さんを応援しましょう」(左團次)などと結構キツイコメントを次から次へと述べるのですから、新團十郎さんにかかる重圧も大変なものでしょうね。私だったらあれだけ言われたら、口上だけで縮み上がってしまいそうです。初日より17日の方が若干トーンダウンしていたような。
口上では、市川宗家由来のにらみも行われました。
にらみは筋書に寄れば
「ひとつ睨んでご覧にいれます」といって肩肌を脱ぎ、三宝を掲げ、右手を胸の前で握って、眼を剥き、客席をグーっと睨む。「バタバタバタ」というツケ打ちの音とともに、かっと見開いた目のひとつは中央、もうひとつは内側に寄っていて、見物はその目力に圧倒される
とありますが、
両目ともに内側に寄っている寄り目に見えました。
邪気を払う厄落としとして、江戸の人々はにらみを見ると1年無病息災で過ごせると信じたそうだから、しっかり睨んでもらってコロナを追い払ってほしいものです。
助六
助六は、さすがに華やかでおおらかで江戸歌舞伎らしい演目です。次から次へと出てくる登場人物がどれもキャラが立っていて楽しめます。
團十郎の助六のいなせなこと。花道の出では、これでもかこれでもかというほどかっこいいアピールが続きます。そして菊之助揚巻、梅枝白玉の息をのむような美しさ、胸のすく揚巻のたんか、松緑意休、新之助福山かつぎ、そして意休の子分のくわんぺら門兵衛(仁左衛門)や朝顔仙平(又五郎)のこっけいな悪役ぶり、白酒売りの新兵衛(梅玉)、通りがかりの通人(鴈治郎)、助六の母満江(魁春)など、次々に個性的な登場人物がでてきて絡んでいきます。
粗暴のように見える助六ですが、実は友切丸という刀を探しているため、相手かまわず喧嘩をふっかけて刀を抜かせて詮索しているのです。この友切丸詮索というストーリーに吉原の芸者たちの華やかさやキャラの面白さ、衣裳の豪華さが色を添えて助六という芝居を面白くしています。
衣裳や小道具についてはまた書きたいと思います。
観劇をしたのは初日と17日。
2020年に行うはずの襲名披露が延びてやっとこぎつけた今回。とにかく無事に最後までやり通せますように。そして襲名興行がきっかけで歌舞伎界全体が盛り上がるといいなと思います。
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周辺の様子