これ、予習なしで行くと、ちょっと難しいかも。しっかり予習をして、細部まで楽しみましょう~♪
登場人物
松永大膳 松永久秀がモデル。足利家の家臣だったが朝倉義景と共謀し、足利義輝を殺害。天下を狙う。
松永鬼藤太 大膳の弟。
慶寿院尼 足利義輝の生母。謀反をたくらむ松永大善に金閣寺の最上階に幽閉されている。
雪姫 絵師雪舟の孫。雪村の娘。慶寿院に仕えていた。父雪村を何者かに殺され、倶利伽羅丸という刀も奪われたため、夫とともに仇を探している。大膳に横恋慕されている。
此下東吉 秀吉がモデル。実は真柴筑前守久吉。小田信長※の家来だが、信長を見限って大膳の家来になると言って大膳のもとにやってくる。実は慶寿院尼を救出に来た信長のスパイ。
加納之助直信 雪姫の夫。絵師。
十河軍平 大膳の腹心の部下と思いきや…
※今回、文楽の床本を元にしてあらすじを書いているので、信長ですが、歌舞伎では小田春長です。
あらすじ
雪姫捕らえられて「天井絵を描くか、自分の物になるか」と脅される の巻
京都鹿苑寺の金閣では、松永大膳が足利義輝を殺し、義輝の生母慶寿院尼や、慶寿院尼に仕える雪姫らを幽閉し、天下を狙う機会をうかがっています。
大膳は人質である慶寿院尼に天井に雲竜の絵を描くように要求され、雪姫に絵を描くか、自分のものになるか迫りますが、雪姫はきっぱりとどちらも断ります。
幽閉されている慶寿院尼が「直信か雪姫に天井絵を描かせるように」という要求をするにはわけがありました。大膳から奪い返した御旗を雪姫か直信に渡し、殺された足利義輝の弟慶覚に届けようとしていたのです。
大膳は大膳で、慶寿院尼は大事な人質。要求を無下にはできないのでした。
しかし雲竜の絵は、雪姫の祖父雪舟の秘伝。雪姫の父雪村が殺されて奪われた秘書がなければ描けないし、また直信という夫があるので、不義の誘いに乗るわけにはいかないと、雪姫はどちらの要求も断り、いっそのこと殺してくれと泣き伏すのです。
腹をたてた大膳は、雪姫の夫加納之助直信を殺すよう、弟の鬼藤太に命じます。
東吉登場の巻
そこへ軍平が東吉を連れてきます。東吉は、信長を見限り大膳を頼ってきたというのです。
「ご覧の如く四尺に足らぬ此下東吉、甲州山本勘助に比べては抜群劣りし小男」なんていうセリフがあります。1尺は約30㎝ですから、1m20㎝?ずいぶん小さいですね。小さくてすばしこく、猿とあだ名された秀吉のイメージでしょうか。
大膳と東吉は碁を囲みながら互いの腹の探り合いとなります。
碁の勝負と、雪姫の思いとが重なり合うの巻
さて、雪姫は考えます。慶寿院尼を救いたい。夫の命も助けたい。なんで大膳の言いなりになるものか、しかし、いやと言えば夫の命はない。
緊迫した碁のやり取りに、雪姫の思いが重なります。
昔、常盤御前は夫の仇の清盛に身を任せたのは子供のため。自分に子供はいないけれど、夫の命を救うため、大膳の意に沿うと決意し、
碁の勝負も拮抗している大膳のうしろにおずおずと立ち寄っていきます。
その気になってくれた雪姫に、大膳は大喜び。すっかり注意力が散漫になりその間に、負けてしまいます。
東吉、大膳の信用を得るの巻
カッと来た大膳は、碁盤をひっくり返して怒るのでしたが、東吉はにっこりと笑って
「すべて碁は勝たんと打たんより、負けまじと討つが碁経の掟」。
そして勝つべき碁をわざと負けるような追従軽薄なことは自分はしないと悠然というので、大膳も「なかなか頼もしい」と大いに納得するのでした。さらに東吉の才知を試そうと、碁笥(碁石を入れる容器)を井戸に投げ入れて、手を濡らさずに取ってみよと言います。
東吉は滝の水を樋に流しいれて、プカーンと浮いた碁笥を見事に取って見せます。そして碁盤をひっくり返して碁笥を乗せ、信長の首をこうやって血祭りにあげますよとアピール。さすがの大膳も、東吉の才知を認めざるを得ず、軍師として迎えることを決めるのでした。
雪姫、仇は誰かを知るの巻
大膳は、東吉を見送るとウキウキと雪姫を伴って「さて寝室へ♪」といざなおうとするのですが、雪姫は「抱いて寝る前に、天井の絵を描ければ望みをかなえましょう。でも、秘伝の書がないんですよねえ~」などとちょっとグズグズ。すると大膳は、龍の絵の見本を見せてやろうと、刀をさっと抜き放って、滝に映すと、アーラ不思議やな。滝の中に龍の姿がありありと浮かび上がったではありませんか。
な、なんと!雪姫は、驚きます。
なんとなれば、その刀こそ、祖父雪舟の名剣俱利伽羅丸。倶利伽羅丸は、朝日に映せば倶利伽羅不動の御尊体が、夕日に向かって映せば龍の形が浮かび上がるという不思議な刀でしたが、父が殺されて奪われたものだったのです。
ということは、大膳こそが父の仇!
雪姫は大膳に襲い掛かりますが、残念無念
「天下はもとより王位をも臨む大膳、匹夫連れが敵などとは小賢しい女め!」と足蹴にされ、逆にとらえられ、桜の木に縛り付けられてしまいます。
ああ、しかも、夫、直信も縛られて軍平に連れていかれてしまいました。
東吉は「ご主人を狙う女、なぜ細首を打ち召されぬ」と刀を抜きますが、大膳はそれを止めます。
「なぜとは無粋。あの縛られた姿をみよ、雨を帯びたる海棠桃李、桜がもとに括り付け、苦痛を見せたその上で、抱いて寝るか成敗するか、二つ一つはまあ後ほど」
なんとまあ、卑劣でいやらし~~~~!(歌舞伎ではここまでのセリフはなかったです)
雪姫、花びらを集めてネズミを描くの巻
雪姫は、木に縛られ、ただ心細く一人でいます。夫が通っていきますが、見かわすばかりの涙声。
悔しくもがいても何もできません。
そのうち雪姫は祖父雪舟のことを思い出します。雪舟は、昔絵が好きで絵ばかり描いていたので師の僧が戒めにお堂の柱に縛り付けられました。しかし流れる涙を足でネズミの絵を描いていたところ、ネズミが生きて出て、縄を食いちぎってくれたというのです。
そのことを思い出して「私だって、絵描きのDNAを受け継いでいるわけだし!」と足で桜の花びらをかき寄せかき寄せかき集め、筆はなくても爪先を筆の代わりに、一心にネズミを描いたところ、うれしやネズミが出てきて縄を食いちぎって消えていきました。
東吉の正体とは!の巻
自由になった雪姫を見つけた鬼藤太が雪姫の行く手を阻みますが、東吉の手裏剣に討たれます。
え?なぜ東吉が?
実は東吉は、真柴久吉。慶寿院尼を救うために信長に放たれたスパイだったのでした~。
雪姫は鬼藤太が持っていた倶利伽羅丸を取り戻し、直信の連れていかれた舟岡山へと救いに向かいます。
けなげだー。つおい女、スキー。
しかも力強く駆け出す花道で、ちょっと刀を抜いて、お化粧を直し顔を整えるところが最高!にかわゆい。
東吉、慶寿院を救出するの巻
一方、東吉、もとい久吉は、大膳の家来と大立ち回りを繰り広げ、桜の木を登り(何せ猿のようにすばしこいテイ)、幽閉されていた慶寿院尼の元にたどり着き、見事救出に成功します。
そこへ援軍、小田信長の軍勢も押し寄せます。大膳は必死に応戦するところに軍平が現れます。なんと味方と思っていた軍平も小田家の家臣でした。
大膳、万事休す~!
久吉も姿を現し、大膳に、いずれまた正々堂々と戦おうと告げ、大膳も受け入れ、さらばと別れていくのでした。
おしまい。
見どころ
鹿苑寺金閣。セリが上がったり、下がったり~
京都の金閣寺って行ったことある人は多いと思います。知っている場所が舞台だと、気分も上がりますね。上がるのは気分だけではありませぬ。セリが上がったり、下がったり、演出がダイナミックですよ。横に立つ桜の木は変わらないから、なんだか変だけれど(;^_^A
そして、きらびやかな舞台。美しく舞い散る桜、美しい姫、憎々しい悪役、救いの騎士とまあ、てんこ盛りにそろっている舞台です。姫を救う騎士という図柄でないのもいいな。最後の大立ち回りも花四天がそろってきびきびと楽しい。
三姫のひとつ 雪姫の魅力
とらわれの身となる雪舟の孫の雪姫は、歌舞伎の中での三大お姫様の一つに数えられる女方の大役です。雪姫の魅力は、囚われの身となるだけではなく、どうしたら危機を打破できるか、考えて、自分で判断して行動できる女性だということです。大膳の一方的な横恋慕に拒否するものの、夫を救うために大膳の要求をのむ。けれども簡単には身をゆだねないぞ。
そして縛り付けられてからも、どうやったら脱出できるか脳みそ振り絞って考えて、行動する。最後は夫を救いに駆け出す。でも顔を整える女心も忘れない。なかなか素敵な女子ではありませんか。
慶寿院尼の福助
2018年の金閣寺では、慶寿院尼として福助が病後8年ぶりに登場。観客からはうぉおおおという言葉にならないような歓声があがり、劇場一杯に感動が広がりました。今回再び慶寿院尼として出られる福助。4年たってさらに演技の幅が広がってできるようになっているのではないでしょうか。普段のリハビリの努力に頭が下がります。
碁の勝負は…
余談ですが、舞台の上では、碁は本当に勝負しているらしいですよ。あまり勝負に夢中になってしまい、セリフが飛んでしまった役者さんがいたとかいないとか…。さて今回の役者さんはどうかな…(笑)
2023年秀山祭の金閣寺レポート