「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿 理知的な殿さまと、愛すべき忠義者の対決 

昭和15(1940)年が初演。てことは、割と最近の作品ということですね。作者は真山青果で、全10編の「元禄忠臣蔵」の中の5編目です。新作ですからセリフもわかりやすいし、おもしろいです。真山青果ってセリフが膨大なので、役者さんは覚えるの大変だと思いますけれど。

 

甲府徳川家の別邸御浜御殿が舞台なのですが、それって今の中央区にある浜離宮だそうです。散歩に行ったら、当時の「浜遊び」に思いを馳せてみたいですね。

 

1時間45分ほどの作品でしたから、15分くらいはカットされているかもしれません。

簡単なあらすじ

 

時は松の廊下の事件の1年後。舞台は、甲府藩主徳川綱豊の別邸、御浜御殿。次期将軍とも目されている徳川綱豊は、浅野家の再興と浪士の仇討ちとどちらが義にかなっているのだろうかと悩んでいます。そこに赤穂浪士富森助右衛門がやってきます。浪士たちの真意はどこにあるのか。二人の対面、そして探り合い、心のふれあい、緊張感の中にも最後の能舞台の背面の場は、いつまでも記憶にとどまる美しさです。

 

登場人物

徳川綱豊卿 五代将軍綱吉の甥。次期将軍を目されている。包容力と品格がある。

 

富森助右衛門 お喜世の義理の兄。老女からの手紙を持ってきた。そのついでにお浜遊びの見物を所望。ただしそれには理由があった。

 

中臈お喜世 綱豊卿のお気に入り。義兄の助右衛門に頼まれて浅野家老女からの手紙を預かった。

 

上臈浦尾 ちょっと意地悪。喜世が持っていた手紙を見ようとしつこい。

 

御祐筆江島 喜世の窮地を救う。祐筆とは、公私の文書の作成をした秘書のような役職。クールビューティーでかっこいい。

 

新井勘解由 綱豊卿の師。

 

第一幕 華やかな場面に、今後の展開がちりばめられる
御浜御殿松の茶屋

浅野内匠頭切腹をして1年後。

 

御浜御殿で、にぎやかなパーティーが繰り広げられています。そこで中臈お喜世が何やらセンパイたちにいじめられています。お喜世は、兄から受け取った手紙の中身を見せろと言われてもじもじ困っているのでした。そこを江島に助けられます。センパイたちは追い払われました。

 

その手紙は、浅野家の老女からお喜世を通じて綱豊あてに、浅野家再興の口添えを依頼するものでした。以前喜世は浅野家に仕えていたため、頼まれたのです。

 

手紙を読んだ江島から、実は綱豊の御台所からもお家再興の願いが出ていると告げられ「それなら願いはかなうかも」と喜ぶお喜世。

 

喜びついでにお喜世は、兄富森助右衛門から頼まれたお願いもします。それはお浜遊びをちょっと見物(隙見)してみたいということ。お浜遊びは、男子禁制のお遊びですが、江島は「少しなら」と快く許すのでした。

 

そこへ、パーティーでご機嫌の綱豊卿が千鳥足でやってきます。

 

隙見の話を聞くと綱豊卿は、今日は吉良上野介が来るので、その下見にやってきたのだなと察し、「隙見以上のことはしない」ことを条件に隙見を許します。

 

見どころ

なんということはない第1幕ですが、何かが起こりそうな予感がいっぱいですね。さらっと見ると、お願いついでに、物見遊山を許された兄という感じですが、実は兄助右衛門は、赤穂浪士吉良上野介の顔を確認するために来ました。そのことを察知する瞬間の綱豊の表情をお見逃しなく。

 

第二幕 殿様 助右衛門をじわじわ挑発して赤穂浪士の真意を探る
 御浜御殿綱豊卿 御座の間

 

綱豊卿が、さきほどのちょっと酔っぱらったお気楽な風情と違い、打って変わって引き締まった顔で新井勘解由に相談をしています。

 

それは、浅野家再興のこと。御台所からも浅野家老女からも(おそらくはほかからも)、浅野家再興の願いが届いています。それはそれで叶えてやりたい。しかし、浅野家を再興してやれば、もはや仇討ちはできない。本懐を遂げたいであろう浪士たちのことを考えると、簡単に再興に話を進めることはできない。赤穂浪士たちはどういうつもりだろうかと、悩む綱豊卿です。

 

新井勘解由は、よくそこに思い至ったと綱豊卿の心根に感涙します。しかし、最近の大石内蔵助の放埓ぶりを見ると、やる気があるのか気にかかる、という勘解由に、綱豊卿は「それこそ仇討ちの志がある証拠である」と言い切るのでした。

 

その後、富森助右衛門が案内されてきます。隙見を許されて吉良上野介の顔をこっそり確認するつもりで来たのに、綱豊卿のもとへ来るようにいわれ、狼狽しつつ、綱豊卿のいる御座の間にやってきます。

 

近くまで来るように言われても、敷居を跨がず、心の内を見せない助右衛門に、綱豊卿は次々と挑発するのです。

大石内蔵助を田舎侍だとか、浪士がぼんやりしているうちに吉良は米沢に帰ってしまうのではないかなどなど。それでも助右衛門は、挑発に乗りません。

 

そこで、浅野家再興の話を持ち出したところ、ついに敷居をまたいで、綱豊卿の前に進み出ます。そして、綱豊卿は助右衛門の真意を悟り、満足して出ていきます。

 

そこへ、吉良上野介が到着したという声を聞き、斬りつけようと感情の高ぶる助右衛門。

 

しかし、喜世はそれを止め、今切りつければお家に迷惑がかかる。あとで吉良が能を舞うので、そこで討てばいいと告げます。

見どころ

御座の間での見どころは、なんといってもセリフの応酬。綱豊卿はなんとか真意を知りたいとあの手この手で、助右衛門を挑発しますが、助右衛門は何とか冷静を保ち、敷居を跨ぎません。ついに感情が理性を越えて、敷居をまたいだのは「浅野家再興」の話が出たとき。そこで綱豊卿は、浪士たちの本心を悟るのです。

 

第二幕 殿様VS助右衛門 第2ラウンド ただし助右衛門完敗 御浜御殿能舞台の背面

能舞台の裏で、助右衛門は槍をもって吉良を狙って忍びます。それらしき人が渡り廊下を通ったので、襲う助右衛門。しかし顔の覆いをとると、それは綱豊卿でした。

綱豊卿は、吉良の命をとるだけで仇討ちがすむわけではないと叱責。軽はずみに感情に任せてゴマ塩頭の汚い頭を斬ったところで何になる。供えたところで何になる。真の復讐とは本分を尽くし、至誠を尽くすことだと説くのです。

 

そして「道に踏み迷うたやつがいる。阿呆払いとして追い帰してやれ」と江島に告げ、能舞台へ向かっていくのでした。

見どころ

この場面は、能の舞台が始まるということで、厳粛な雰囲気の中、能装束に身をまとった綱豊卿が見ものです。助右衛門との立ち回りは、圧倒的に強くて立派な綱豊卿と、哀れでちっぽけな存在だけれど、忠義者でまっすぐな青年助右衛門との対決です。

 

見ている方も息が詰まるような緊張感あふれるシーンの連続ですが、なんだか今の世の中にはない忠義心などに、心が洗われ、背筋が伸びるようなお芝居です。

 

今回は、綱豊卿が梅玉梅玉って、情のある殿様とかってピッタリなんです。本人も大好きなお芝居とのことですので、楽しみですね。

また助右衛門の松緑。これまたまっすぐで忠義者で不器用という助右衛門にぴったりではありませんか。初役というのが、意外な気さえします。

 

お喜世が莟玉。御祐筆江島が魁春。新井勘解由が東蔵で、なんだかいい配役ですねえ。楽しみです。

 

ちなみに阿呆払いって、つまんで追い出されるくらいかと思ったら、

「両刀を取り上げ、また、裸にして追放した刑」ですって。綱豊卿、きびちい!

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歌舞伎座3階花篭で、先月後半に展示されていたのは助右衛門と綱豊卿の衣裳。今月前半までは展示されているかな?

 

しかし、観劇後にふっと「吉良の命を取るだけで、仇討ちがすむわけではない」という綱豊卿の言葉の意味ってどういうこと?と思ったら、こちらを読んでね。

munakatayoko.hatenablog.com