「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

糸桜~黙阿弥家の人々 ふたたび

観劇した。11月29日と30日でたった3回の公演で、もったいないような愛しい作品だった。

 

原作は河竹黙阿弥の孫である河竹登志夫の「作者の家」。河竹黙阿弥の作品を守ることをおのれの使命と信じて生きる娘の糸、その養子となった河竹繁俊、嫁のみつの話。

 

糸は波乃久里子で、とても久里子さんらしく生き生きと、地でやっているんじゃないの?と思わせるような演技でファンとしてはうれしい。

 

原作は、分厚い文庫本で上下巻だからかなりのボリュームだ。それをこの2時間ほどの芝居にまとめる齋藤雅文さん、本当にすごいなと。

 

すっかり感服して楽しく観終わって、楽しく食事をして帰宅したものの、いくつか気になるところもあったので、備忘録的に書いておく。

 

膨大な原作から作り直すから、当然カットするところが多いというか、逆にエッセンスだけ取り出して再構成するわけだけれど。気になったところは3点。

 

1.河竹登志夫

 

最初に河竹登志夫、つまり糸の養子となった繁俊の息子が出て、これこれこういう話が始まるよという。

観客はなるほどなと思って見始める。

この河竹登志夫という人は、繁俊の息子なんだけれど、長男ではない。長男は1歳になるかならずかで、関東大震災に逃げる中、亡くなってしまった。それは芝居の中でも出てきている赤ちゃんである。

その後、糸が亡くなりその3週間後に登志夫が生まれるのだ。登志夫はそのことに対してとても運命を感じている。最初に登志夫を出すならば、そのことが回収されてもよいのでは?そうでないと、そのことを知らない観客は赤ちゃんが生まれたところで、「ははーん。これが最初に出てきたあのおっさんになるのか」と思って見てしまい、赤ちゃんが死んで「え!?じゃあ、あのおっさんは?」ってならないだろうか。それでもいいと言えばいいのだが、「作者の家」では、糸が亡くなった3週間後に登志夫が生まれたことを、結構大切にして書いていると思うので、最初に登志夫を出すのなら、死んだのは登志夫の兄にあたる子で、その後赤ちゃんができて、糸の亡くなった後に生まれたということをなにがしかの形で分かるようにした方が良いのではないかと思った。

2.埋蔵金

埋めている金を掘り出して逃げるところがある。あれを芝居の中に取り入れるならば、あのお金は、何か災害があった時のために黙阿弥が考えて埋めておいたのだが、結局、家と同じで、どこか行方不明になってしまうというその悲しさをもっと出してほしかった。めちゃくちゃ悲しいではないか。

 

3東京の文化

カットといえば仕方がないが、「作者の家」で描かれているのは、関東大震災前の東京の文化が大震災で根こそぎなくなってしまうことだと思う。そんな風習があったのか。こんな風習があったのかと生き生きとした描写に驚いたので、少しでも入れてほしかった。こったいさんの最初の部分のように。