「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

忠臣蔵~花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)

11月は、忠臣蔵をやってくれるのか!ただしこの時期「通し」というわけにはいかず、4段目だけか7段目だけか、なんて思っていたところ、「ダイジェスト」で「超高速」なんて話が漏れ聞こえてきたものですから、「ナンカヤダナ…」という気持ちでおりました。

しかも、4段目も、7段目もないというので、いったいどんな忠臣蔵なのかと思っていました。

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花競忠臣顔見勢

幕が開ければ、とても面白かった。「超高速」とか「ダイジェスト」などの言葉からくるイメージとは異なるもので、ていねいに作られ、役者たちもていねいに演じていました。

 

当初は、図夢歌舞伎のようにダイジェストで全部やろうとしたようですが、忠臣蔵が余りにも完成されており、ダイジェストにすることで屋台骨が崩れてしまうということでそれをやめたということです(若手歌舞伎役者リレーインスタライブで猿之助語る)

 

わかるー!

 

忠臣蔵って、序段から討ち入りまで全部通すと丸2日かかる長編。その本編が魅力的なものだから、そこにまつわる外伝もたくさんできました。四谷怪談もそのひとつ。

そのたくさんのお話の中から討ち入り前の4日からのお話を選んで、コンパクトにまとめて上演したのが今回の「花競忠臣顔見勢」です。義士たちにも当然ながらそれぞれの人生があり、討ち入りの前にはいろいろな別れがありました。

ベースとなった演目

「花競忠臣顔見勢」には、ベースとなった演目があります。明治4年に河竹黙阿弥が作った「四十七刻忠や時計」。通称十二時忠臣蔵。先日、昭和に上演された十二時忠臣蔵の映像を、ちょっとだけ観る機会がありました。場ごとに、すーっと時計が出てくるのです(笑)。後討ち入りまであと何時間ってわけです。臨場感あふれますよね。

 

そんな下敷きがありながら作られた今回の作品。もちろん時短で、さらに絞ってという2時間。演じるのは花形若手役者たち。支えるのは猿之助幸四郎

これからの歌舞伎界を背負っていくぜいという、志と気迫が現れていました。

 

作品の流れ

序幕 一場鶴ケ岡八幡宮社頭の場、二場桃井館奥書院の場

 

序幕は、もともとの忠臣蔵と同じ!と思いきや、早くも高師直に斬りつけ!しかも斬りつけるのが塩冶判官ではなく、若狭之助?あれ??と思うと、実はそれは若狭之助の夢であったというところから始まります。

第三場 稲瀬川川端の場

討ち入りの日を前にして兄に別れを告げに来る赤垣源蔵。「徳利の別れ」というスピンオフ作品を踏まえています。結局兄には会えずに、雪の中、龍田新左衛門と目的地へと向かっていきます。龍田新左衛門は後からも出てきますよ。妹は槌谷邸に仕えるお園です。

第四場 芸州候下屋敷の場

大星由良助は、塩谷判官の妻である葉泉院のところに討ち入りを告げに行くのですが、そこに敵のスパイがいることがわかって、とっさに嘘をつきます。本当は「討ち入りがようやくできます」と真実を言いたい。でもスパイがいる以上、討ち入りする気はさらさらないと言わざるを得ない。葉泉院には激怒されるわ、位牌で打擲されるわ、本心は違うと言いたいけれど言えないツライ場面です。ここは「南部坂の別れ」というスピンオフ作品がベースです。

第五場 芸州候下屋敷の場 門外の場

由良助は、下屋敷の外で清水大学に出会います。清水大学は高師直の家来で、由良助の本心を探りに来ました。これもまたうまくかわす由良助。そこに屋敷の中から出てきた葉泉院。由良助が渡した一巻が四十七士の連判状であるとわかり、本心をわかってくれたのです。そこに現れた女スパイお梅。戸田の局がお梅に一撃を加え、由良助は無事高家に企てを知られることなく、去っていくのです。

大詰め 第一場 槌谷邸奥座敷

槌谷主税は、高師直のお隣に住んでいます。お隣さんでありながら、義士たちの味方。仇討ちは今か今かと待っているのです。お園(兄が義士の龍田新左衛門)に「兄から何か連絡はないか」と聞いたり、晋其角からそこはかとなく、「そろそろ」の予感を感じ取ったりして気もそぞろです。「槌谷主税」は、上方。東京では似たような「松浦の太鼓」という作品があります。

ようやく戦いの音が聞こえてきて、喜ぶ槌谷です

大詰め・高家奥庭泉水の場・元の槌谷邸の場・花水橋引き揚げの場

高家の庭では、降りしきる雪の中、激しい戦闘が繰り返されます。隣の槌谷邸ではハラハラと事の推移を見守ります。大鷲文吾が状況について報告し、お園は兄の活躍に喜びます。

 

無事志士たちは本懐を遂げることができました。

それぞれの役者たち

 

顔世御前(葉泉院)と大鷲源吾を演じた右近。達者だし、面長の顔が何をやっても美しい。

赤垣源蔵を堂々と演じた福之助歌舞伎座舞台のど真ん中で存在感を出しました。

大星由良之助の歌昇。「本当は、本当は…」そのときの空虚な目が、見ていてつらかったですね。

槌谷主税 隼人 大富豪同心で演じていたときのような鷹揚で品のある殿様の風情が出ていました。

猿弥演じる晋其角の最後の「塩冶どのはよい家来をお持ちじゃのう~」というセリフがウケました。塩冶が猿弥としか聞こえなかったので(笑)。狙ってましたね、絶対(笑)。

足利直義とお園 新悟 品格のある足利直義と一途なお園。とてもよかったです。

 

 

今ではあまりウケない?忠臣蔵

 

いろいろな外伝があるということはそれだけ忠臣蔵が面白いということでもあります。

てか忠臣蔵面白いなあ。もう少し忠臣蔵を皆さん愛してくださいよ。と私は思う。

 

隣の家の息子が12月14日生まれと知って「お!討ち入りが誕生日ですね」といっても、お母さんにきょとんとされたり、訳知り顔で「結局浅野内匠頭が短気だから悪いんじゃん」とか「討ち入りって復讐でしょ。バカみたい。家族や何もかも犠牲にして」とか言う輩とか。そんなことを言う人ばかりの世の中は好きではないんです。

 

「〇〇まだ来ないの?」と問えば「未だ参上仕りませぬ!」

やっと来たら「遅かりし、由良助」

 

とパッと会話に出てくるような世界が好きなんですよ~。

大事な人が頑張っていることを応援する物語

 

そうそう先日、某配信で某若手役者さんが言っていたことがとてもよかった。

こういう意味のことを言っていたんです。(そのままではないです。こういう意味のこと)

 

忠臣蔵の世界って、復讐だの忠義などを嫌がる人が多いけれど、通してみると、家族の話がたくさんある。本懐を遂げたことで、義士だけではなくて家族たちも喜んでいる。それは「敵討ち」と見てしまえば、今の価値観にそぐわないかもしれない。

しかし、たとえば誰かが目的に向けて頑張っていて、家族みんなが応援するストーリーって今でもたくさんあると思う。

 

受験や資格試験でがんばるとか、箱根駅伝や甲子園、オリンピックでがんばるとか。家族や恋人は、一生懸命応援するし、結果が出れば自分のことのように喜ぶだろう。「忠臣蔵」は、そういうこと。

ただの復讐劇、忠義ものということではなく、何か目的があり、そこに至るまでの艱難辛苦を超えて到達する、それを回りの恋人や家族が応援しているという視点で見てもいいのではないかな。とのこと。それなら現代でも通じますよね。

 

本当、そうだと思いました。だからやっぱり感動してしまうし、よくできたお話なんです。

 

あるいは、上司のとんでもないミスを部下たちがなんとかフォローしていく話と見てもいいかも。とにかく、現代に通じるところもあるので、煙たがらずに見てほしいな。

 

今回の花競忠臣顔見勢を見て「なんだろ。本当の忠臣蔵も見てみたいな。どうなっているのかな」と思った人は、12月に文楽で「仮名手本忠臣蔵」をやっていますよ。ぜひ。と書きたかったのですが、すでに終わってしまいました(;^_^A

 

江戸時代の名題下の役者、中村仲蔵の出世実話物語も忠臣蔵の話です!テレビでやります。ぜひ! 残念。これも、先週終了してしまいました!情報遅くてすみません。

 

また必ず忠臣蔵はかかりますので、ぜひ観てみてくださいね。

と思ったら、2月に元禄忠臣蔵があるではないですか。これも外伝の一つ。面白いですよ。お楽しみに!