これも時代物の長いお話全5段の3段目なので、予習して背景押さえておこうっ!
しかし、特に前半は「暗い。寒い。哀しい」と3拍子揃っていますので、初めてみる歌舞伎としてはあまりお勧めしません(;^_^A だって、ヒロインの袖萩、ずっと泣きっぱなしですよ。
とはいえ、今回は中村家の追善なので、中村屋総出演。勘九郎が貞任の策略家の面と妻子を思いやって逡巡する気持ちを、うまく見せてくれると思う。それから美しい七之助の袖萩、そして勘九郎次男の長三郎クンがどれだけ力演してくれるかが注目ですね。
時代背景
平安時代末期。前九年の役で、源頼義と安部頼時が戦ったその後の話。頼義の息子八幡太郎義家と、義家を親の仇と狙う安部貞任、宗任。それにからむ配偶者、親子の悲劇のお話。
登場人物。前説にからめて
八幡太郎義家 対決 安部貞任・宗任
袖萩 平傔杖直方の長女。親の反対を押し切って、浪人者(実は安部貞任)と駆け落ちしたため、勘当されている。
平傔杖直方 後朱雀帝の弟環宮の傅役(もりやく)。環宮が行方知れずになったため、今日中に見つけられないと切腹をしなければならない。
浜夕 直方の妻。袖萩、敷妙の母。
敷妙(出てこない) 平傔杖直方の次女。八幡太郎義家の妻。
桂中納言教氏 実は安部貞任。弟宗任とともに、八幡太郎義家を親の仇と狙っている。直方に切腹するように告げ、確認に来る。
源義家 頼義の息子 敷妙の夫。
つまり、直方の娘二人は、お互いの夫が敵同士。
八幡太郎義家の妻になった次女は、「いいところにお嫁に行った」が、他方長女は、「親の言うことを聞かず、浪人と駆け落ちしたので勘当中。しかもその浪人が義家を仇と狙う人物だった」というわけです。
あらすじ。 (小声で本音)
・勘当された娘が父の大事を聞いて会いに来た
平傔杖直方は、御朱雀帝の弟環宮の傅役(もりやく)ですが、環宮が行方不明となったため、その責任をとって切腹をしなければなりません。今日はその期限の日です。
平傔杖直方には、娘が二人いました。姉娘の袖萩は、名もない浪人と駆け落ちしたため、勘当。妹娘の敷妙は、源氏の大将八萬太郎義家に嫁したので、ずいぶんと娘二人の境遇は違ってしまいました。
袖萩は、駆け落ちをしたものの、幸薄く、夫の黒沢左中は行方不明となっているため路頭に迷い、ついに盲目となってしまいました。幼い娘お君と手を携え、祭文を語って何とか生計をたてていました。そんな中、父に起こった大事を耳にし、勘当の身ではありますが、一目会いたいと実家に戻ってきたのでした。
・みじめで寒くて、辛すぎる
季節は冬。外は雪。ひもじい境遇の袖萩が容赦なく降る雪の中、お君に助けられながらようよう、這うようにして館に到着しましたが、戸の内には入れません。
人の気配に気づいた父平傔杖直方は、それが袖萩だと気づきましたが、勘当した娘においそれと会うわけにはいかぬと、かたくなに拒否。腰元たちに追い払うよう命じるのでした。
しかし、母はやはりそこまで冷たくはできず、「おあしが欲しくば、なぜ歌を歌わぬぞ」と祭文を語るように、いうのです。
(館に入れてあげて。)
戸の外で、雪にまみれながら、とつとつと境遇を語る袖萩。袖萩をかばい、雪から守るように手ぬぐいをかけてあげたり、撥をひろってあげるけなげなお君ちゃん。
父は、娘や孫に会いたい気持ちをグッとこらえ
「武士の家で不義をした女郎。たたきだすはまだしも親の慈悲。長居いたさばぶっ放そうか。」と怒るのです。
(いや。会ってあげてよ。雪降っているんだから。あったかいお風呂に入れて、おかゆでも食べさせてあげてよ)
嗚咽に次ぐ嗚咽。会いたい気持ちを押しとどめ、きつい言葉を投げつける父。お君のけなげな訴え。
(寒いから入れたげて)
「同じ姉妹でも妹の敷妙は、八幡殿の北の方と呼ばれる手柄もの。姉めはそれに引き換えゲス下郎を夫に持てば、根性までもゲス女め」
(いや、お父さん。それは絶対言っちゃあかんやつ。)
袖萩は、それにこたえて「お父さん。そんなゲス野郎ってわけではないの。ちゃんとした武士だったの」と言って本名の入った証拠の書入れを見せたのが、これがまたとんだ逆効果。
娘の夫が単なる浪人者ではなく、敵方の安部貞任であり、しかも直方切腹の理由である環宮をさらっていったのも安部貞任だとわかってしまったのです。
・救いようのない展開
もーあかん。父も母も、戸外に袖萩を残したまま、家の中に入ってしまいました。
残された袖萩は、持病の癪を起し、お君に介抱されていると、さすがにお母さんが見るに見かねて打掛を渡すのでした。
(入れてあげてよ。あっためてあげてよ)
そこへ袖萩にとって、さらなる災難。貞任の弟宗任が、父を討てといって、懐剣を渡しに来る。ついでに、お君のほかにもう一人いた子どもの千代童が死んだと告げるのです。
(これでもか、これでもか)
父を討つなんて、そんなことできるわけなかろう?直方切腹の刻限に、袖萩は懐剣で胸を突くのでした。
(あーあ。)
直方も切腹。剣を腹におったてながら、
「親の大事と駆け付けしは、さすがはわが子。さりながら貞任と縁組むからはしょせんこの世で許されぬ。未来で必ず親子の対面。声なりともよく聞いておけ」
と初めて心情を吐露するのです。
(死んで花実が咲くものか)
切腹の確認をしに来たのは、桂中納言教氏。実は安部貞任であり、袖萩の夫であるのです。
「袖萩とやらんも死なずばなるまい。けなげなる最期の様子。天聴に達すべし」と言い放つも、一瞬苦渋の表情が垣間見えます。
安部貞任宗任兄弟も義家を親の仇として狙っているのであって、一言で悪者と片付けるわけにもいかない。いろいろ辛そうです。
・八幡太郎義家登場
桂中納言教氏は、お君に顔がばれないよう去ろうとしますが、そこで八幡太郎義家登場。ここで、敵同士がやっと対面となります。
中納言の恰好をしていた貞任、バレていないと思っていましたが、義家にはしっかりバレていました。
本物の桂中納言になり替わっていたこと、潜伏していた宗任と白旗など使って、やり取りをしていたことなど、すべてお見通しだったのです。
バレたからには、親の仇・義家と勝負しようといきり立つ貞任。
ここでぶっかえり!貞任!ぶおー!本性出したー!
しかし義家はそれを押しとどめ、それより妻子に言葉をかけてやれというのです。
二人の姿を見て、刀を振りかざしつつも恩愛の涙ハラハラハラ。思わず袖萩とお君を、涙ながらに抱きしめるのでした。
(最後に心が通じてよかった…涙)
宗任もやってきます。義家を討たんと、勇ましく現れますが、それを制するのは貞任でした。
ひとまずこの場は、おさめます。ぶっかえっていた荒々しい武士の様子から、しゅるるると品のある公家の様子に戻り
「この場はこのまま別るるとも、」
「またの再会なすまでは」
「貞任、宗任」
「八幡太郎義家」
「さらば」
「さらば」
となって幕。割とこういう終わり方は多いですね。さらばー。さらばー。
前半は、暗くてどうなることかと思いますが、後半は思いのほか、ぶっかえりもあり、心の通う場面もあり、前半で寝てしまった人もお目々が覚めることでしょう。
2021年2月 歌舞伎座での配役
第3部 17:30~
袖萩 七之助
安部貞任 勘九郎
安部宗任 芝翫
娘お君 長三郎
平傔杖直方 歌六
浜夕 東蔵
【追記】
身も蓋もない書き方をしてしまいましたが、2021年2月の袖萩祭文は、とてもよかったですよ。その様子はこちら。
また、演出には、お家の型によって違いがあり、上記に書いたような演出ではない場合もあります。ちなみに、2021年2月歌舞伎座での中村屋の型では、お君ちゃんが袖萩の頭の上に手ぬぐいをかざして雪を避けるといった演出はありませんでした。