「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

八重垣姫の一途な恋が 『本朝廿四孝』~十種香・奥庭

『本朝廿四孝』は、長いお話。十種香とそれに続く奥庭はその中の一部なので、背景を押さえておきましょう!

 

登場人物。前説がらみ

出てこない人も含めて登場人物。前説がらみ。

武田信玄(出ません) 武田勝頼の父。

敵対関係↓にあるのが
長尾謙信 八重垣姫の父。

 

・偽の勝頼(出ません) 
武田信玄の家老の息子だったが赤ちゃんのときに取り換えて勝頼として育てられた。武田家に将軍足利義春暗殺の疑いがかけられたときに、信玄に切腹させられる。

・八重垣姫 
長尾謙信の娘。幼い時に武田勝頼の許嫁と決められている。会ったことはなくとも勝頼が描かれた絵を毎日見ては恋心を募らせてきた。しかし、切腹したと聞き、哀しく十種香をたき、供養をしている。

・腰元濡衣 
偽勝頼の恋人だった。偽勝頼の冥福を祈っている。謙信館にはいり、諏訪明神の法性の兜を取り返す機会をうかがっている。

・花作り蓑作 
実は、本物の勝頼。花作り蓑作として、謙信の館に入り、謙信の館にいる足利義春の子、松寿君を陰ながら守っている。

 

簡単なあらすじ

武田信玄の息子武田勝頼と、長尾謙信の娘八重垣姫の物語です。許嫁だった武田勝頼が、切腹したとの報を受け、悲しんでいた八重垣姫ですが、実は生きていたことを知ります。

八重垣姫の父長尾謙信は、新しく館に入った花作り蓑作が勝頼だったことを知り、家来に蓑作を殺すよう命じます。(ここまでが十種香)

八重垣姫は、勝頼に危険を知らせるため、諏訪法性の兜に祈り、狐のパワーを得て、諏訪湖の凍った湖の上を渡って行きます。(奥庭)

 

詳しいお話。見どころを混ぜて

十種香

 切腹した勝頼を想い、悲嘆にくれる八重垣姫と濡衣

まだ会ったことのない許嫁武田勝頼が描かれた掛け軸を朝な夕な見て、恋しあこがれていた八重垣姫。勝頼は切腹して死んだと聞かされ、悲嘆にくれています。
中央の座敷をはさんで、上手側には八重垣姫。
一方で、下手側でも濡衣が、手を合わせて祈っています。

実は死んだのは、偽の武田勝頼です。濡衣は、偽勝頼の恋人でした。

そして、八重垣姫は、死んだのが偽の勝頼とはまだ知りません。

二人は、同じ「武田勝頼」のことを思っているけれど、八重垣姫が思っているのと濡衣が思っているのは別人で、でも両方一応勝頼で…とええ~い。混乱するわい!というのが、最初の場面です。そこを押さえておくと、わかりやすいですよね。

 

 どっこい生きていた勝頼

 

その中央の座敷に来るのが、花作りの蓑作。実は本当の勝頼です。左右の部屋から自分を思っての嘆き声が聞こえます。

 

「あの泣き声は、八重垣姫よな。わが名を呼びし、勝頼を誠の夫と思い込み、弔う姫と
弔う濡衣。」
〽不憫ともいじらしとも、いわん方なき二人が心と、そぞろ涙に暮れけるが
「我ながら不覚の涙」
〽襟かき合わせ立ち上がる

思わず自分の身替りになって死んだ偽の勝頼のことを想い、涙を流すのでした。

 

 八重垣姫。果敢な恋のアタック

 

蓑作を初めてみた八重垣姫は、びっくり。「あの、絵に描かれた勝頼さまそっくり!」
思わず縋り付いて泣きますが、蓑作に冷たくされます。

蓑作は自身が勝頼とバレるわけにはいきませんから、
「勝頼とは覚えなし。お粗相あるな」とわざと冷たく突き放すのです。

 

八重垣姫は、もう必死。
濡衣に、蓑作は以前から知る人なのかと聞き、違うと言われると、じゃあ二人はいい仲なの?あやしいと疑い、それも違うと言われると、知り合いでもなく、恋人でもないなら、何とか自分と間を取り持ってくれと頼むのです。お嬢様のまっすぐ感がすごい。そしてその顔は、つややかで美しい…。


大胆な申し出に濡衣も「我折れ(あきれた!とんでもない!)」とつぶやきます。

このあたりの八重垣姫が、本当に恋に一途でかわいくてたまりません。

 

そこで、濡衣は、仲立ちの条件として「法性の兜を盗み出すこと」をあげます。

それを聞いて、「あ!やっぱり、蓑作は勝頼様なんだ!」と察する八重垣姫。


なぜなら法性の兜は、武田家と長尾家の間で「返せ」「返さぬ」のトラブルの元となっていたからです。あれを欲しがるということは、長尾家ねというわけです。

 

蓑作はそれでも正体を明かしません。八重垣姫は、つれない勝頼の態度に嘆き、「見間違えるものか。夫であるからにはなんでも相談して納得させてくれればよいものを」と迫りますが、蓑作は譲りません。ついに、八重垣姫は「どうあっても勝頼様ではないのか」と嘆き、「勝頼様でもない人に、言い寄ったとは恥ずかしい」と死のうとします。

その気持ちに心打たれ、濡衣がついに、蓑作の正体を明かします。
ついに八重垣の粘り勝ち。恋の成就かと思いきや。

 

 謙信登場

やっと勝頼と八重垣姫の気持ちが通じ合ったところに、謙信登場です。

塩尻に向け、書状を持っていくよう蓑作に命じます。その後、謙信はすぐに家来白須賀六郎と原小文治を呼びつけ、蓑作(勝頼)の後を追うように命じるのです。

勝頼、危ない!

 

八重垣姫は、勝頼に危険が迫っていることを知ります。

せっかく勝頼が生きていることがわかり、心が通ったところだったのに、もうお別れとは!何とかと命乞いをするものの、謙信は聞く耳を持たないのでした。

この後、どうなるのでしょう。

 

2021年2月歌舞伎座でかかる本朝廿四孝は十種香のみだと思いますが、この後気になりますね。それは奥庭で。

奥庭

塩尻に陸路で行った家来たちよりも早く勝頼に会うためには、湖を渡っていくしかありません。とはいえ、歩いては間に合わない。氷も張り始めて船も出ない。

「ええ。つばさが欲しい羽が欲しい。飛んで行きたい、知らせたい」という有名なセリフはココで出ます。

こうなったら神頼みだと、庭に祀られている法性の兜に祈りをささげます。兜を手にして、池を見ると池に映った自分の姿はなんと狐になっているではありませんか。

狐のとりついた八重垣姫に、もはや怖いものはなし。

 

〽夫を思う念力に 神の力の加わる兜。勝頼様に返せとある諏訪明神の御教え

 

狐の力を借りて、凍った湖を渡り、勝頼に危険を知らせに行くのでした。

 

 八重垣姫の、恋に一途なところが、けなげでかわいい。

手をかえ品を変え、濡衣と蓑作の間を詮索。そして、仲を取り持てと大胆な提案。さらに
勝頼に身の危険が迫っていることを知ると、なりふり構わず危険を知らせるために行動!

なんともまっすぐで、純情で、けなげで、かわいくて、そのためにとても強い八重垣姫です。

 

三姫のひとつ

八重垣姫は、自分の心に素直で、とても生き生きとしていて魅力的な姫様ですね。
歌舞伎のお姫様役の中で、むずかしくやりがいのある3つの役は「三姫」と言われていますが、そのうちの一つが八重垣姫です。
あとのふたつは「鎌倉三大記」の時姫と「祇園祭礼信仰記」(金閣寺)の雪姫です。

概要

1766年(明和3年)1月大阪竹本座で初演された人形浄瑠璃。ちなみに文楽では狐がバンバン飛び交うので、こちらも大変見ごたえがあります。機会があればぜひ見てください。

作者 近松半二・三好松洛・竹田稲葉・竹田小出・竹田平八・竹本三郎兵衛ら。

 

2021年2月の配役

2021年2月は

第1部 しょっぱなですね。10時半開演

八重垣姫 魁春

武田勝頼 門之助

濡衣 孝太郎

長尾謙信 錦之助

という配役です。

 

2月のほかの演目についてはこちら。

munakatayoko.hatenablog.com