14日は浄瑠璃を聞く会に行って来ました。
会場は、趣のある三越劇場です。
おはなし
吉坊さんの司会のもと、織太夫さんと藤蔵さんのお話。今回は新人ふたりが出ているということで、新人さんの話や御自身たちが新人だったころのエピソード、三越劇場との縁や、本日の演目の思い出など話は多岐にわたり、大変興味深かったです。
『絵本太閤記』から妙心寺の段
吉坊さんの演目の解説がはいります。噺家だから当然ですがとても話がうまくて、演目の内容がするりと頭に入ります。後ろに飾られた屏風は『摺箔金銀波濤図 屏風』(二曲一双 齋藤貞一郎) で新人二人の熱演を背後から応援します。
** 新人の竹本織栄太夫と鶴澤藤之亮。
織栄太夫、藤之亮共に、第30期の国立文楽劇場の文楽研修を終了した同期。昨年4月より、織栄太夫は織太夫に入門、藤之亮は藤蔵に入門し、7月に国立文楽劇場で初舞台を経験したばかりの新人さんです。織太夫さんが藤蔵さんとも話し合い、新人の二人が10年後20年後に新しい国立劇場の本公演を勤めることができるように研鑽の場を設けたいとの気持ちから企画した会なのです。そんな風に紹介されると、もうずっと応援しなければいけないですね!末永く頑張ってほしいものです。
そして10年後、20年後に「織栄太夫、藤之亮がはじめて1年足らずのときに聴いたんですよ。そのときはまだまだ下手でねえ。こんなに立派になって大したもんです」と自慢させてほしいものです。
新人さんの語りを聴くと、こう言ってはなんですが、いかに義太夫がむずかしいかということがわかります。でも、こういう場を通じて汗をかき、一日一日大切に練習に励んで、織大夫さんや藤蔵さんもきっと今のように上手になられたのでしょう。今日に至るまでの時間や努力を思うと頭が下がります。がんばれ。新人くんたち。会場の観客もみな、惜しみない拍手を二人に送っていました。
『絵本太閤記』尼崎の段
休憩をはさみ、これまた吉坊さんの演目解説のあとで。織太夫、藤蔵コンビの圧倒的な技術力で観客をうならせました。織太夫、藤蔵にとっても一段まるまる語れるのはなかなかない機会ということで、1時間近い熱演は見事でした。
絵本太閤記は、私2016年の文楽を観ていますが、このときの尼崎の段は三味線が前が藤蔵さん。切は清介さんでした。それまでは世話物ばかり見ていたのですが、この時の清介さんがあまりにもすばらしくて、その後、時代物も積極的に観るきっかけにもなったのでした。
【文楽】曽根崎心中・絵本太閤記 - 「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog
尼崎の段というのは、明智光秀(武智光秀)が信長(春長)を討ち、秀吉(久吉)に討たれるまでの13日間を描いたもの。
気丈な母は、主を裏切った息子が許せず、しかし光秀にとっては、主君とはいえ悪逆の限りを尽くした暴君を討ち取ったことは天下のため、確固たる信念のもとに反旗を翻したこと。そこのボタンの掛け違いが悲劇をよぶのです。
槍で突かれ、倒れる母さつき。涙ながらに妻操が光秀に、さつきが死ぬ前に改心するようにいいますが、光秀は信念を崩しません。
「やあ猪口才な諫言立て、無益の舌の根動かすな。遺恨を重ぬる尾田春長。もちろん三代相恩の主君でなく、我が諫めを用いずして神社仏閣を破却し、悪逆日々に増長すれば~」
と言いたてるところ。また、息子十次郎が帰ってきますが、すでに手負いで息も絶え絶え。息子を失う操(光秀妻)の
「十八年の春秋を刃の中に人となり、いつ楽しみの隙もなう弓矢の道に日をゆだね」から始まる、息子を失う嘆き。さらに十次郎の嫁初菊の夫を失う嘆き。
そして、母と息子の死に際に光秀が涙を流す大落とし
「さすが勇気の光秀も、親の慈悲心子ゆえの闇、輪廻の絆に締め付けられ、堪えかねて、はらはらはら
雨か涙の汐境、波立ち騒ぐごとくなり」
義太夫、三味線が乗って、息もつかせず最後までたたみかけていきます。
圧倒的な義太夫・三味線でした。