「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『息子』〜上質な短編小説を味わうごとく

 

『息子』は大正11(1922)年に発表された小山内薫の戯曲ですが、これは小山内薫のオリジナルではなく、イギリスのハロルド・チャピンの「父を探すオーガスタス」という作品の時代背景を江戸に置き替えたものだそうです。齋藤雅文演出も細かく丁寧でいいですね。

 

歌舞伎以外の演劇も数多く演じている白鸚の老爺が、なるほど似合うわけだと思いました。原作でのパイプが煙管、ウイスキー泡盛、肉とパンの食事が弁当に変わっていますが、パイプとウイスキー、肉とパンでも十分似合いそう。

 

そして、初演では6世尾上菊五郎の金次郎、4世尾上松助の老爺、13世守田勘弥の捕吏でしたが、今回は老爺が白鸚、金次郎が幸四郎、捕吏が染五郎。3代で、しかもこの3人だけの芝居という粋な配役。3代3人だけで歌舞伎座の舞台を勤められるという実力も実力ですが、とても幸せなことですね。演劇界でもなかなかないことではないでしょうか。

 

ボソボソ話す白鸚爺の声もはっきりと3階まで聞こえました。息子を堅気と信じている爺。息子は今はばくち打ちになっており、両親に会いに来たのですが、言い出せず。爺の言葉に思わず反応したり、思わず顔をそむけたりといった細かな感情表現やもらった弁当をガツガツ食べるところなどもリアルです。

 

「ちゃん」と最後に振り絞るように言って去っていく金次郎。

火の番の障子をぴしゃっと閉じる爺の悲しさ。いつまでも障子には爺の影がうつっていました。

 

個人的なことですが、「何いってやがんだ」といいう言い方だったり、とっつきにくい割には帰ろうとすると「これを飲むか」「これを喰うか」と言って、遠回りに止めにくるところなどが、父に似ていて、少しホロっとしました。

 

歌舞伎には、こういう珠玉の一篇の小説のような30分~40分程度の芝居はほかにもあります。ぜひ知っていただきたいです。以前上演した『吹雪峠』などもそのひとつ。2016年以降上演されていないので、またやってほしいなと思います。これも雪の中でのドラマでしたね。