松也の自主公演「挑む」が終わってしまったときは残念だと思ったけれど、こんな形で一歩成長した舞台を見せてくれるとは。。
ざっと感想を。
松也は一般家庭から歌舞伎界に入った父を早く亡くし、後ろ盾を亡くした中、苦労して今がある。莟玉も、上村吉太朗、澤村國矢、市川蔦之助もまた一般家庭出身だ。河合雪之丞も、一般家庭から澤瀉屋に入ったものの、今は新派へ。右近は母方の曽祖父が6代目尾上菊五郎というとんでもないルーツがあるものの、一応父親は清元のお家。鷹之資は富十郎の長男であるが早くに父を亡くした。
▲6代目尾上菊五郎
そんな面々が集って、ひと月新橋演舞場で初日から千穐楽まで観客をうならせたということ、それだけでも痛快だ。松也、莟玉、右近以外は、実力は折り紙付きでも、チラシにもなかなか顔が載ることもない。
しかし、努力を続けていると必ず日の目は出るのかな。
三日月宗近 （松也） 今回は初演出の松也。がんばったなあ。人外の雰囲気がとてもよく出ていてよかった。すーっとしていて人間のようで人間にあらず。ただ心がないわけではない。義輝の刀であった宗近が、義輝を手にかけなければならない苦悩がよく出ていた。
小狐丸/足利義輝 （右近） 右近は足利義輝と小狐丸の二役かと思っていたけれど、義輝が「よい義輝」と呪いをかけられてダークサイドに堕ちている「悪い義輝」といるので、まあ、3役という感じ。それがひっきりなしに変わるから相当忙しいお役で最後の最後まで大変。役者として大変力があると思う。
義輝は宗近の苦悩がわかっておらず、無邪気な様子、きょとんとしたところがまた泣かせる。最後は、自ら呪いを断ち切り、「よい義輝」となって運命を引き受けてくれた。
ラスト手前の軍との大立ち回りでは、歌舞伎らしいゆったりとしたタテ。トンボを切り、宙を舞い、鮮やか。そしてラストの宗近と義輝との一騎打ちではスピードアップ、奏でられる音楽は美しく悲しい、スピード感がある戦いなのにまるで踊っているようなふたり、回る盆、そして最後はさながら知盛のように仰向けに後ろにジャンプして義輝は果てた。
同田貫正国/松永久直 （鷹之資） とにかく型が美しい。そして声がいい。声が。お父さんの富十郎さんも声がよくとおって、いい役者さんだったけれど、もっと高めのボイスだった。似ているとは思わないけれど「声がいい」だけは遺伝なのか。
また同田貫だけではなくて、弾正の息子松永久直役がとてもよかった。満座の中で恥辱を受ける息子。そしてその後弾正を説得に行くとき、すでに腹を切っているってすごくないですか？そりゃ鬼気迫る説得になりますわね。
異界の翁・異界の媼 （澤村國矢/市川蔦之助） いずれも一般家庭から歌舞伎役者になって、実力は兼ね備えているものの大きな役にはなかなか恵まれない二人だから、こういう役はうれしいし、なによりまざまざと実力があることを見せつけてくれる。
髭切/紅梅姫 （中村莟玉）・膝丸（上村吉太郎）この二人が、五郎十郎を思わせる兄弟というのもいい。弟の名前を忘れるって？それは原作にもあるエピソードなの？そのへんはよくわからないけれど、いいチームワークでかわいかった。血気に逸る膝丸を制する兄。紅梅姫もかわいかった。
▲曽我五郎十郎の衣装が飾ってあった
琵琶の演奏。通常の歌舞伎であれば大薩摩が出るタイミングでの琵琶。女性奏者。後ろは通常の大薩摩のときのようにシンプルな浅葱幕。と思いきや、照明と風がおこることによって、見事に荒々しい風景のような、心象風景のような背景となった。浅葱幕がこんな表情を変えるなんて。
また、琵琶という楽器のすばらしさ。日本は素晴らしい固有のものをどこまでどんどんと捨てていってしまうのだろう。着物、織物、歌舞伎、邦楽、少しでも残していってほしい。琵琶を聞きながらそんなことを思った。
CGなどに頼らずアナログに寄りつつ、照明などでの工夫、2階や3階にまで時間遡行軍が来てくれる演出もうれしかった。
カーテンコールの写真OKなどは、盛り上がってずいぶんとひと月楽しめた。この日も歌舞伎がはじめてですという観客も多かった。刀剣乱舞ファンで今回の歌舞伎刀剣乱舞が楽しめたのであれば、普通の歌舞伎も全然大丈夫だと思うので、これを機会にバシバシと歌舞伎座に通ってほしい！
私はゲームの刀剣乱舞を全く知らなくて楽しめたのだけれど、ゲームを知らない人も歌舞伎を知らない人も楽しめる内容だったようなので、両方知っていたら今日の私の2倍も3倍も楽しかったのだろうと思う。今後も続いて新たな客層をつかんでほしい。
▲これがわかりやすくてよかった。ピンボケだった
配信があったのもよかった。
また追加があれば書き足します。
