「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

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「道行再考」観劇レポート~古典と現代がつながった!

ゴールデンウィークが始まって早々、伊丹、神戸、大阪、京都と駆け足で巡ってきた。

目的の一つがこちら!4月29日に伊丹アイホールで行われた「道行再行」の観劇。

 

 

「道行再考」とは

「道行再考」とは、2019年にアイホールで行われていた「演劇ラボラトリー木ノ下歌舞伎プロジェクト」の「古典の現代化」の手法を学ぶ演劇講座の終了発表会としての演目。

このプロジェクトは、1年間学び、芝居を作り、2020年の3月、さあ、これからいよいよ「道行考」の舞台稽古にはいるぞ!というところでコロナ禍に巻き込まれ、上演できなくなった。

しかし、そのままでは終われないとメンバーたちは3年の間にブラッシュアップを重ねて、上演にこぎつけた。その名も「道行再考」。音は「みちゆきさいこう!」となる。いいんじゃない?

 

平家物語」の講座を受けたときの仲間が多くこのメンバーにいたというご縁で、私も観に行くことに。

平家物語」講座とはこちら。

「木ノ下裕一と読む平家物語」を受講して 202103~202209 - 「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

 

「道行再考」は、すべて古典からエピソードをピックアップして、実際にその地を訪れ、企画を練り、脚本を書き、演出をし、芝居へと完成させたもので、とてもおもしろかった。全体の構成は5つに分かれる。

何がおもしろかったかというと、その意図どおり、古典の世界が現実とリンクして、実際の土地が、情景が、登場人物が、目の前に生きて浮かんできたこと。古典の時代と現代が地続きになっている、変わらない普遍性が見えてくる。そんな芝居だったから。

 

私は関西の土地勘がないのだけれど、目の前に琵琶湖の風景が広がり、飛び回る鳥たちの姿が見えたし、大阪城の周りで働く人足たちに心が動かされたし、俊徳街道を上り下り、夕日をみなといっしょに観て祈ったように思った。

そして、どの魂も浄化されていってよかった。。

 

芝居もよかったのだが、さらに幸運なことに、2日目は須磨、3日目は京都をこのメンバーとともに歩くことができ、いわば「劇作家と辿る芝居の舞台の解説ツアー」を体験でき、このお芝居がいかに練られていて、実際の土地とぴったりと重ね合っていて、現実とリンクしているかを知ることができた。超ラッキー♪ 

実際の観光編はまた別稿で。

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一つひとつのエピソードについて。

平知盛の道行 

平知盛は、息子の知章を須磨の一ノ谷で亡くしている。知盛の霊は京都の町でさまよい、一ノ谷へと旅立つ。子どもを見殺しにしたと苦しみ、成仏できずにいた知盛。

知盛の嘆き、哀しみ、受容、成仏と流れるような構成だった。

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巴御前の道行 

平家物語受講メンバーにも絶対的な人気のある木曽義仲巴御前。その巴御前は、粟津の戦いで義仲に諭されて、戦場を去った。広大な琵琶湖のほとりでまださまよっているのだろうか?

この話を、琵琶湖の鳥たちに語らせてとても面白かった。悠然と空を飛びながら古くから伝わる平家物語を伝えながら現実社会を俯瞰して見ている鳥たち。

要所要所で流れる駅名のアナウンスがリアルで、大体の地理感を伝えてくれるとともに現実世界ともリンク。鳥たちは広い琵琶湖上空を滑るように飛びながら会話をするのだけれど、呑気なおっちゃんのオオバン夫、ジェンダー意識が強くてプリプリと怒っているカルガモなどキャラが立っていて楽しい。

そして、過去の初恋に思いをはせる旅人(人間)。そして巴!!自分の名前もわからなくなっている巴が自らを思い出す。巴の戦いは、こうでなくちゃね!というくらい凛々しくて、山吹と一緒になるというこの芝居ならではの最後もよかった。

琵琶湖には行ったことがないのだけれど、行ってみたくなった。一周200キロもあるそうだ。

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★二人の六条御息所の道行

能の葵上に出てくる六条御息所と、能の野宮に出てくる六条御息所が二人でてくるという設定が面白い。ほかのエピソードもそうだけれど衣裳は大体黒っぽくて簡素。このエピソードでは葵上の六条御息所が薄い青いストールを身に着けているのがとても効果的で美しかった。

 

六条御息所と言えば、光源氏の正妻の葵上に嫉妬して生霊になってしまったコワーイというイメージの人。でもどうなのかな。この二人が人力車に乗って嵐山を行く。嵐山あたりは私もよく知っているから団子屋や天龍寺あたりの混雑を思い浮かべながら観る。そして、源氏物語の歌を詠みつつ光源氏をただ愛しただけなのにという六条御息所にいつしか共感を覚えていた。人力車にのって現代と源氏物語の世界を行ったり来たりするのが楽しかった。最後は穏やかな読経を聴きながら、二人手をつないで火宅の門をくぐっていけてよかった。

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★芦刈の道行

こちらもまた、重くもあり笑い飛ばす軽やかさもあり、歴史のあちらと現代を行き来する物語。後で聞けば、大阪の歴史博物館というものは「全然大阪の歴史を語ってないじゃん!」と憤然たる思いになるしろものらしい。

江戸初期の人足、芦刈人、遊女、かわた、野宿もの、朝鮮人。歴史の教科書に大阪城豊臣秀吉は載るけれど、どれだけの幾多の名もなき人たちが大阪をつくってきたか、すべてなかったことにしていいものか?と疑問を投げかける脚本。意義ある脚本だと思った。シテとワキの少しお年を召した俳優さんもステキ。特にシテの俳優さんのコロコロと転がすような声が美しく、最後蝶々として舞って去っていき、重いテーマだったけれど清らかなはかなさの残る幕引きとなった。

よーし。今度大阪行ったら、大阪歴史博物館行って観たろう。

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★俊徳―スティグマの道行

スティグマって何?ググったら、「差別」や「偏見」だって。このエピソードでは、蘆刈に引き続き、さらに弱者がどんどん出てくる。対人恐怖症、ハンセン病患者、虐待を受けていた人、拒食症、ひきこもり。まるで現代の縮図のよう。

 

俊徳丸伝説は、長者の息子が義母の呪いで失明するが、恋仲の娘の助けで四天王寺の観音様に祈って病が治るというもの。ここからたくさんの伝説が生まれ、歌舞伎では「摂州合邦辻」となった。

 

俊徳とユタカは、玉祖神社から四天王寺までマップで観ると徒歩で3時間近くかかる道のりを歩いていく。俊徳は、ツライ過去を思い出しながら、フラッシュバックに耐えながら西の四天王寺を目指して進む。四天王寺につくとすでに多くの人が待っていた。被虐退者、拒食症、ひきこもりの霊たち。心優しき霊たちは、語り、聞き、癒し癒され、夕日が落ちるのを待つ。

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四天王寺のホームページを見ると、西門石鳥居は、古来、極楽の東門にあたると信じられていたと書いてある。お彼岸の中日には石鳥居の向こうに沈む夕日を拝し、極楽浄土を観想する日想観が行われているそうだ。

昔は夕日が沈む方角は海で、まさに西方浄土だったのだろう。

見えたり見えたり。手を合わせる俊徳たちの頬が夕陽で赤く染まる。どれだけ多くの人が沈む夕日に極楽浄土を観てきたことだろう。

今、生きているみんなに、俊徳の物語が届きますように。

 

★エピローグ 知盛の道行の後半部分。

たくさんの霊たちが集まってきた。六条の御息所、芦刈の女、巴、俊徳、どんどんと霊が集まって、西(極楽浄土)へ向かう船に乗っていく。

知盛が力強く碇を突き上げる。皆の頬が夕陽で赤く染まる。

西へー。

 

幕となりました。

 

平知盛の道行という一つの脚本を前半と後半に分け、「道行再考」の最初と最後に分けて配置したことで、5つのエピソードが最後にひとつの壮大な物語としてまとまったのがとてもよかった。

★みな魂が救われた

休憩もなく、2時間超えという長いお芝居だったが、テンポもよく飽きもせずだれもせず、最後まで見届けることができた。コロナで3年もの間、熟成させる時間ができたということが、この作品に大きな力を与えたのか、3年前の作品がどんなものだったか知らないから何とも言えないけれど、とにかく心が洗われるよい作品を観ることができてよかった。琵琶の古風な音色や鉦や太鼓などの音もリズミカルで、クラシックなBGMもよかった。

みな魂が救われたのが、ありがたいな。四天王寺の日想観にも行ってみたくなった♪

 

そう。土地勘がないから、色々知ることができたのも楽しかった。

みなさん、ありがとう!

 

翌日は須磨へ!続きます

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