もう何回もぢいさんばあさんは見ているのですが、今回はとどめ!という感じでした。
あらすじみどころは
仁左衛門、玉三郎の「ぢいさんばあさん」です。あまりにも素晴らしかったので、もうほかの役者での「ぢいさんばあさん」は見るのをやめようと思うほど。なので、あらすじ見どころと分けました。
あらすじとみどころはこちら
あまり年のことを言いたくないですが、仁左衛門78歳。玉三郎71歳です。もうすぐ72。
ということは、37年後の伊織とるんに実年齢は近いわけですが、どう見ても若い方がほんとの年齢ぽい。どちらも自然なんですが。どういうことだ!ううう、また時空がゆがむ!
楽天的でポジティブな伊織、仁左衛門
短慮なところはあったが、るんと結婚して落ち着き、穏やかな性格になっていた伊織。しかし、粘着質の同僚下嶋の嫌味に、ついカッと来て殺してしまう。そして37年間お預けの身となり、やっと我が家に戻り、最愛の妻と再会します。私ならただひたすら涙、土下座、許してほしいかなと思うけれど、伊織は違います。
「ああ。わしのうちだ。わしはついに帰ってきたのだ」そして曲がった腰で前のめりにパタパタと家じゅうを歩き回り、興奮するのです。るんと会って喜び合うところもまたいい。仁左衛門丈にこんなことを言うのは失礼ですが、すごくかわいい!
下嶋に向かって「そうだ、私はお前を好かんのだ」と言ってしまう単純でまっすぐな伊織。ポジティブで明るい伊織を仁左衛門が好演します。
凛として聡明なるんも伊織に対してはかわいい、玉三郎
若いときのるんは、もちろん美しくて、声も若々しく、弟の久右衛門が中村隼人ですが、本当に姉弟のよう。「短慮は身を亡ぼす腹切り刀」とくどくどと弟に説教をするのが、皮肉な運命を感じさせます。
るんは、不慮の事故で夫に会えなくなってから、一人で子どもを育てていましたが翌年疱瘡で亡くし、その後は奉公に出ます。そして2代にわたり立派に勤め上げて、きりっとした老女となっています。毅然とした老女になっても、伊織に対するときは優しさ、かわいらしさがあふれ出す玉三郎。そしてその姿の美しさ。
今までにるんを演じた他の俳優さんは、庭から縁側に上るときに、足元がおぼつかないオーバーなヨタヨタした演技をしていましたが、そのあたり、玉三郎は、小さな歩幅で品よく上がっていました。
るんほどの人であれば、そうするであろう上り方でした。籠から出るときもそうです。
足元がおぼつかなくても、るんほどの人であれば、なるべく最小限の力で歩幅を小さくして、みっともない様子にならないように動くでしょう。
若いときもぢいさんばあさんになったときも、あまりにも自然な二人の演技。ぴったりあった息。
ものすごくドラマティックというわけでもないこの話が見ている人を惹きつけ、鼻の奥をつーんとさせるのは、やはりにざ玉だからかなと思わされました。
他の配役
下嶋 歌六
下嶋というのは、確かに嫌味な奴ではありますが、天下の大悪党というわけではなく、今の世にもそこかしこにいるような「ちょっとしつこい男」です。伊織のことが気になるのは、ちょっぴりコンプレックスがあるのでしょう。妻が美しく聡明なのも、しゃくの種。ついつい突っかかっていき、余計な一言でますます嫌われてしまう。後で自己嫌悪に陥ってそうなタイプ。だから伊織から借金を申し込まれれば、貸してしまう。
しかしこれじゃあ、皆に疎んじられるよなあと、ちょっぴり同情心もわくほどに、鬱屈した性格をうまく演じていました。
久弥夫婦 橋之助 千之助
昔の伊織とるんを彷彿させるような、美しく賢い若夫婦。親の言いつけを守り、伊織とるんの家を守ってきました。その誠実で品のある雰囲気、出ていたと思います。
ぢいさんばあさんをにざ玉で演じられるのも、あと何回観られるかわかりません。
ぜひ劇場で、鼻の奥つーんとさせてくださいませ~。
あ。マスクの中が大洪水の方も多いようですよ!ハンカチもお忘れなく。