歌舞伎で石川五右衛門と言えば、『楼門五三桐』がよくかかりますが、今回はその前段からの話です!
2018年12月に国立劇場での石川五右衛門は、2回の幕間を挟んで、4時間10分! コロナ禍の今では考えられない時間ですね。今回の石川五右衛門は幕間なしで1時間15分ほど。
よくかかる『楼門五三桐』は、15分くらいですね。
今回、程よい感じです。
はじめの、五右衛門の出生にまつわる話は、今回次左衛門が最初に独白のような形でさらっと説明していますし、後半も2018年版とは全く違うものとなっています。今回の大詰めは、楼門五三桐から取られているので、さっそうとした五右衛門で終わるのもいいですね。
登場人物
次左衛門 武家の女性を殺して大金を盗んだ過去あり。その女性は子供をはらんでおり、斬られたことによる傷でそこから子どもが生まれた。自責の念に駆られた次左衛門は、その子を引き取って、友市と名付け育てる。泥棒となった友市、五右衛門を追い、改心させたいと思っている。
石川五右衛門 幼名友市。次左衛門に育てられたが、子どものころから手癖が悪く、12歳で奉公にでたまま行方不明に。今や石川五右衛門となり天下の大泥棒。
此下藤吉久吉 五右衛門の幼馴染。今や出世街道まっしぐら。
呉羽中納言 勅使。五右衛門の手下に足利家への勅書を奪われ、身ぐるみはがされる。
三好修理太夫長慶・三好四郎国長 足利家に謀反をたくらんでいて、御正印を狙っている。
あらすじ
次左衛門、五右衛門の行方を追うの巻
呉羽中納言は、勅書を届けるために足利館に向かう途中、五右衛門の手下たちに勅書を奪われ、身ぐるみはがされてしまう。
五右衛門は、呉羽中納言に化けて、奪った勅書を利用して天下を狙おうと考えているのだ。
あわれ、呉羽中納言は、あられもない恰好ですごすごと逃げていく。
「ああ。還御の道のマロ人が、かの五右衛門の手下にて、まろをマロがし引き剥がれ、マロにも衣裳と言いつるを、悲しやまろはマロ裸。はっくしょん!」
というセリフが笑いを誘う。
五右衛門の手下たちにまとわりつくのが次左衛門。息子として育てた友市がどうやら石川五右衛門らしいと知り、友市の母の形見の笛と、系図の一巻を手渡して説教して、真人間にしなければと思っている。どうやらこの追いはぎたちが、友市の手下のようだとわかり、五右衛門のところに連れていけと頼み、断られるが、後を追っていく。
此下藤吉、友市に気づくの巻
壬生村街道で此下藤吉久吉は、呉羽中納言、実は、呉羽中納言に化けた石川五右衛門一行に出会う。呉羽中納言と思い、深々と礼をするが、「友市や~い」と追いかける次左衛門に「友市?」と気になる久吉。次左衛門のもつ笛を奪い、五右衛門の行方をじっと見守る。
足利館で同窓会!の巻
足利館では、足利義輝が朝晩遊興にふけっている。勅使が来ると聞き、家来たちは何か処罰をされるのではと気もそぞろ。
三好修理太夫長慶・三好四郎国長が、呉羽中納言に化けた五右衛門一行を出迎える。呉羽中納言に変装している五右衛門は、義輝を諫め、太政官の御正印を返還するよう迫り、三好兄弟は猶予を願い出る。
―今回の短縮版ではあまりクローズアップされないが、実は三好兄弟は、足利家に対し謀反をたくらんでいるので、御正印を盗んで紛失の罪で転覆を狙っている。―
そこに現れたのは、接待役の久吉。人払いをさせて五右衛門と二人きりになると、「友市」と呼びかける。二人は実は幼馴染だった。「友市!」「猿之助!」と二人は幼名で呼び合い、なつかしがり、頬杖をついて、キャッキャと昔話や、これまでの身の上を語り合う。
久吉は五右衛門に次左衛門が入っている葛籠を渡す。ほのぼのとした別れかと思いきや、久吉が次左衛門から取った笛を吹くと、何やらカタカタと久吉と五右衛門の刀が音を立て始める。刀は足利家に伝わる名刀で、五右衛門の刀は足利家のものを盗んだものであることがばれる。久吉が追い詰め、妖術で消え失せる五右衛門。国長が後を追う。
あわてふためく足利家の大名たち、そこへ、葛籠が宙を舞い、飛んで行く。
「葛籠背負ったが、おかしいか」
「ううむ!」
「馬鹿め。ははははは」
五右衛門は、悠然と空を飛んで行く。
楼門で勝負!の巻
五右衛門の生まれを示した系図の一巻は、白鷹がくわえて飛んで行った。それをまた追いかける左忠太、右平次。南禅寺では、五右衛門が景色を見ながら
「ぜっけいかな、ぜっけいかな」
と悠然と煙管を吹かしている。
そこに鷹が飛んでくる。自らの素性が書かれた一巻を読み、五右衛門は自分が大内義隆の落胤であると知り、天下を狙うという野望を抱く。
五右衛門は討ちかかってくる左忠太、右平次をかわし、山門の下にいる巡礼と対峙する。手裏剣を放つと柄杓で受け止めるその巡礼は久吉だった。
見どころ
さまざまな五右衛門ものから、見どころをチョイスして再構成しているので、飽きずに楽しめる。
呉羽中納言に変装する五右衛門。
これは、気品のある本物の呉羽中納言とは違い、泥棒のうさん臭さ(2部の河内山みたいに)が出ていてほしい。が、私が見たときは幸四郎の品が良すぎて、本物の呉羽中納言のようだった。むしろ本物の呉羽中納言のお役をやってほしいと思ったほど。
五右衛門と久吉のキャッキャとした昔話
なんとも心和むかわいい場面だ。幼馴染だったふたりが、再会を喜び、これまでのお互いの身の上を語り合う。
何と言っても葛籠抜け宙乗り
コロナでしばらく中止となった宙乗りだが、宙乗り解禁になった今年からはガンガン出てます。3月は、1部の新・三国志と、この3部で宙乗り。
一言で宙乗りと言っても、1部の宙乗りとはずいぶん趣きが違う。1部は、落ち着いた美しい宙乗り。死んで、魂が天国に行く宙乗りだから「厳か!」という感じ。一方、五右衛門の宙乗りは、葛籠抜けというやり方だ。ふわふわ飛んでいる葛籠がパカンと割れて中から五右衛門が出てくるという手法が意表を突く。そして、大泥棒がまんまとお宝(御正印)をせしめて、「ばーかめー」とルパンさながらに悠然と飛び去っていくのだから、なんとも小気味がいい。
最後は楼門五三桐
最後は、楼門五三桐とほぼ同じなので、楼門五三桐を見たことがある人にとっては「こういう話だったのか」と納得できるのではないだろうか。がーっと上がって行くセリ。下には久吉の姿が。対峙する二人。そして幕。
人気者の石川五右衛門。大河ドラマ(再放送)の五右衛門は残念ながら死んでしまったが、歌舞伎座ではまだまだ力強く生きている。
役どころ(役者)
呉羽中納言(大谷桂三)
今回6度目の呉羽中納言だそうだ。身ぐるみはがされて笑いを誘うが、「天皇より遣わされた勅使としての品格を心掛けている」そう。2018年の国立劇場の筋書に、「脱がされた後に杓だけそのまま持っているよりも『松の木の枝が折れたようにして持つようにしたら』と吉右衛門に指導してもらい、そのようにしている」と書いてあった。今回もそのように演じているだろうか。
此下藤吉久吉(錦之助)
めちゃくちゃイケメンだった。こんな格好いい久吉います?
錦之助もお役の幅が広くて、頼もしい。(1月のあのハチャメチャなお役を思い出し)
石川五右衛門(幸四郎)
呉羽中納言に変装しているときが、品が良すぎると書いたが、一方で、五右衛門に戻ってからは、太い声で立派な体躯となり、吉右衛門もさぞかし喜んでいるのではないかと思われた。昨年3月、吉右衛門最後の舞台を見たが、最後欄干に足をかけるところで少しよろめいて、ハラハラしたことを覚えている。まだ昨年のことなのに、今吉右衛門はいなくなってしまった。
幸四郎は、さすがにがっちりと足を踏ん張り、「ここはお任せください」と言っているようにも見えた。「後は任せたぞ」と天国で言っているのかどうか。