山伏に身をやつした義経、弁慶一行が奥州をさして旅するところ安宅関で富樫に見とがめられ、義経を打擲して安宅関の通過を許されるのは「勧進帳」と同じですが、なんとその後弁慶は、木に縛り付けられ、えーんえーんと泣き、その後大立ち回りの末、番卒たちをやっつけ、その首をボカスカ引っこ抜いて大きな桶にバンバン入れてかき回すという、奇想天外な筋立てです。
思わず「勧進帳」のパロディかと思いきや、実はこちらの成立のほうが先。豪放磊落な弁慶の姿、その衣裳、立ち回りも含め、明るく、おおらかに楽しみたいものです。
あらすじと見どころ
「勧進帳」を見たことのある人もない人も楽しめると思います。見たことがある人は、「勧進帳」と同じところと違うところを探して楽しめますし、見たことのない人は、純粋に、このおおらかで豪快でユニークな演目を楽しめると思います。首で遊ぶというところが悪趣味と感じる人もいるかも。
義経一行が山伏姿となって奥州を目指しているという情報が入り、安宅関では、「山伏でも天狗でも、いっかな通すものでもない。油断すな!」と、斎藤次祐家をはじめ番卒たちの間に緊張がみなぎっています。
そこへしずしずと義経と家臣たち一行が登場します。
一行は、義経とばれずに関を通るために、強力の恰好をさせて通ることにします。
武蔵坊は、遅れているけれど、「あいつは大柄で目立つからいなくてちょうどいい」と。
一行は、東大寺建立のためといって、通ろうとしますが疑われ、つかまりそうになります。
そこへ登場するのが弁慶です。毬栗頭に紅隈、緋色の衣裳と、なんだかストラップにしたいようなかわいい弁慶です。もちろんりりしいけれど。
疑いを晴らすべく、勧進帳を読み上げる弁慶。のぞき込もうとする斎藤次祐家や番卒を振り払ってごまかし、さらに疑われそうなので、義経を金剛杖で打擲というところは、こうして書くと「勧進帳」と同じですが、振りや衣裳が全然違うので、面白みが増します。(斎藤次は、眼鏡をかけて中をのぞこうとしますよ)
さて、この打擲で、富樫は弁慶の忠義心を意気に感じ、通行を許します。しかしまだ疑っている斎藤は、弁慶をとらえると、松の木に縛り付けてしまいます。意外とあっさりとお縄になった弁慶は、一行を遠くまで逃げおおせるまでの時間稼ぎに、自らお縄になったのです。
縛り付けられた弁慶を置いて、義経一行は先を急ぎます。
こっけいな見張り役の運藤太、鈍藤太に「やいやい坊主、名を名乗れ」と小突き、打たれ、ワーワーと泣く弁慶。「わしは弁慶ではない、根っからの山伏」とワーワー泣いて見せるのです。そして、「先ほどの山伏どもはどこまで行ったであろうか」と運藤太、鈍藤太に聞きます。
一里ほど。と言われると、ちょっと考えてまだ早いなとつぶやきます。
しばらくしてまた、どれほど行ったであろうと聞くと、「三里ほど」と運藤太、鈍藤太。
それならもうよい加減だわいと、声の調子が変わります。
「よい加減とは?」と聞く運藤太、鈍藤太に、「後から行く(追いかける)のに」とすっくと立ちあがり、いきなり縄を引きちぎり、「武蔵坊弁慶だー」と名乗り、番卒どもを次から次へとやっつけます。
番卒どもとの大立ち回りも大掛かりで鮮やかで楽しいです。
観客が立ち回りに夢中になっているうちに、舞台の大道具は変わっています。
舞台中央に、大きな桶。
舞台中央に移り、番卒たちの首をぶんぶん引っこ抜く弁慶。舞台上に、ゴロゴロと首が転がります。
藤太たちが出てきて、おどけた様子で「お掃除じゃ、お掃除じゃ」と首で遊び、ボンボンと桶に投げ入れます。
そこへ出てきて桶の上に乗った弁慶は、
「いずれも様のおかげを持ちまして、この大役を務めることができました」と口上を述べ、
「吉例に倣い、芋洗いをご覧に入れますれば。やっとこなっとうんとこせ」と、悠然と桶をかき回すのでした。
外国人が見たら、「アンビリーバブル」とまゆを顰めるかもしれないこの演目。コロナでインバウンドが少ない今だから上演されるのかな。と思ったら、7月の2部もご存じ鈴ヶ森。足や手が切られて、バンバンすっ飛ぶ趣向があります。インバウンドに期待できない今だからこそできる演目、これからも出てくるのかな?
いやいやそろそろコロナも収束、早くインバウンドも復活してほしいものですね。
2021年6月大歌舞伎1部
御摂勧進帳 11時開演