こんにちは。宗像陽子です。2019年團菊祭昼の部のしょっぱなにかかる寿曽我対面について、ご紹介します。
■概況■
1676(延宝4)年1月江戸の中村座で初演。
現在は、明治期に河竹黙阿弥が整理した台本による。
47分ほどの、演目です。おめでたいときに出る演目なので、お正月や今回のような襲名があるときなど、頻繁に出ます。
■登場人物■
工藤祐経(松緑) 頼朝の部下。富士の裾野で行われる狩場の総責任者を命じられた。
曽我十郎祐成すけなり (梅枝)工藤祐経に父親を殺された。冷静沈着。
曽我五郎時致ときむね (萬太郎)時致の弟。元気がある。
小林朝比奈(歌昇) 兄弟を工藤に会わせる。
大磯の虎(右近) 傾城
化粧坂少将(米吉) 傾城
鬼王新左衛門(隼人) 友切丸を持ってくる。
■本当の話■
1193年、源頼朝が富士の裾野で大がかりな狩りをした。工藤裕経も参加。その時に、曽我五郎時致・祐成兄弟に、父親の仇として討たれた。若い兄弟が、艱難辛苦の果てに仇討ちをしたということで、語り継がれた。
■あらすじ■
簡単に言うと、親の仇に会った だけのお話です。
もう少し詳しくみてみましょう。
・工藤祐経が富士の狩場の責任者に抜擢されたとのことで、大名が集まって来ます。
大名たちは、それぞれ衣裳の色が違って、居並ぶ姿も美しいですよ。
一人ずつのセリフで、祐経が星のごとくいる大名の中で選びだされ、狩場の総責任者として地割から人夫の駆け引き諸事万端、引き受けられたこと。つまり頼朝から相当の信頼をうけたことが語られます。
もう自分たちは、肩を並べることはできないね。
飛ぶ鳥を落とす勢いに、たてつくのはこっちの損。
おひげのチリでごまをすり、
その日その日を安楽に、栄耀栄華に暮らすのが、その身の徳と申すもの。
とか
あちらへべったり、こちらへべったり、昔からいう内股膏薬
祐経殿へおべっかに
今日のまどいに参りし我々
もはや祝儀の時刻なれば、
あれなる席へ連なって
憎まれ口でも
聞きましょう
なーんて言っているんですね。
ちなみに工藤の役は、必ずその時の座頭が演じます。今回は松緑が、ゆったりと貫禄のある工藤を見せてくれます。工藤は、仇とはいえ、実に立派な人です。
・美しい女性がふたり。これは、工藤に呼ばれてきた傾城ですが、実は五郎、十郎の恋人です。
・小林朝比奈が登場。猿隈という独特の隈取。ピエロのように、おかしみのある役ですが、他の大名のようにおべんちゃらを言ったりせず、仇である若者二人を、工藤に引き合わせます。
・五郎十郎が花道より引き出物の島台をもって登場。
大名たちの掛け声が朗々と響きます。化粧声といいます。
「あーりゃー、あーりゃー」役者へのほめことばで、なんともおおらかです。敵なのにほめるの?というような疑問は感じなくてよいです。暫という舞台でも、この掛け声は見られますが「あーりゃー。こーりゃー。でっけえ」ですが、対面にはなぜか「こーりゃー」はありません。
美しい浅葱色の着物を着ていますが、二人は貧乏で苦労をしてやっとここまでたどり着きました。
大名たちは、また揶揄しますよ。
傘もかぶらずのそのそと
我々どももはばからず
行儀作法も知らぬ奴
みつからなりもそがそがと
貧乏じみた胴震い
がたがた物でこのところへ
出てきた二人のあのなりは
みじめなざまではござらぬか
何とおとっつあん。吉例の通り、ひとつ笑おうか
おお笑え、笑え
そして、大名たちは皆
はははははははははは
と笑うのです!
これに対して、工藤も、鷹揚に若者二人を迎えます。
自分が殺してしまった河津三郎に似た面差しの二人の青年を見て、もしや…と思うのです。
そして、殺してしまったときの状況を語ります。
・次第に弟の五郎は頭に血が上ります。それを兄の十郎が、必死で止めます。五郎は荒事といって、荒々しい様子を表しますが、十郎はなよやかな和事の所作です。ぴたと手で五郎を制するときに指の先まできれいですよ。今月は、女方として心境著しい梅枝が、十郎。その美しさはやはり女方ならではですね。
弟五郎は、萬太郎クン。梅枝と萬太郎、二人は本当の兄弟です。
・五郎は、気持ちがはやって、早く工藤を討ちたくてたまらず、ドスドス暴れまわります。持っていた三方をグシャっと壊してしまいます。
早く仇を討ちたいのは山々ですが、工藤は諭すようにいいます。
もし、今仇を討っても、すぐにお家を再興はできないよと。
なぜならば、家の重宝である友切丸が、今だ紛失中だからです。それでは家を再興することはできません。
きーー!悔しい!
そこに家来の鬼王新左衛門が登場。友切丸が見つかったと、持ってきました。
よし、これで仇を討てるぞ!とはやる五郎ですが、工藤は、ちょっと待てと。
いまは大事な仕事(狩場での責任者)があるから、それが終わったら討たれようと、二人に切手を渡します。これは狩場への通行手形。パスポートのようなものです。それがあれば狩場に入れるから、あとでそれをもって討ちにおいで。討たれてやろうというわけです。なんと懐の深い。
そして全員が絵面の見得で終わります。
※絵面の見得とは、芝居の幕切れに各人、絵のような美しい姿で静止するものです。曽我対面では、工藤を鶴に見立て、兄弟と朝比奈を富士山に見立てて、ポーズが決まったところで幕となります。
■見どころ■
・対面は、歌舞伎のおもちゃ箱だ!
筋というほどの筋もないが、それぞれのキャラクターが際立っているので、それを楽しもう
座頭がつとめるおおらかで懐の深い工藤。
血気盛んな弟五郎
和事の所作がなよやかな兄十郎。
美しい傾城ふたり。特に大磯の虎は、女方のトップ。品があり、最高級の傾城です。今回は米吉・右近がつとめており、とても美しいのでこちらにもご注目ください。
おかしみのある朝比奈。
キャラクターがはっきりしていますね。色彩も美しく、歌舞伎の様式美にあふれています。また、対面はよく出る演目なので、何度も観ることになるかと思いますが、その都度違う俳優さんで違う雰囲気を味わえます。
・曽我物は、派生作品があるので、今後のお楽しみにも!
助六という面白い芝居がありますが、それも実は五郎です。兄の十郎も戦うのが苦手なはんなりした兄さんで出てきますよ。十郎と言えば、はんなり。五郎と言えばけんかっ早いと覚えておくと、わかりやすいですよ。
余談
小道具として使われる三方ですが、駅弁の箱などに使われる経木製で、小道具方が毎日新しく作り、予備にも1個用意しているそうです。「歌舞伎歳時記」より
今月の「寿曽我対面」は、幕見で見るなら、1000円です。やっす!
10時半売り出し 11時から11時47分まで上演。
10時半過ぎると、お立見の可能性もありますので、10時前をめどに行くといいですよ。GWはすごく混んでいたけれど。
初めて歌舞伎を観る外国人の方にも大ウケだった「寿曽我対面」の記事はこちら!
20日に、「寿曽我対面」で一幕見ツアーを行います♪