「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『神田祭』 にざたまの奇跡

昨日は千穐楽の前日。2部に行ってきた。

奇跡のにざたま。これを奇跡と言わずして何を奇跡と呼ぶのか。

もちろん歌舞伎界には、にざたま以外にも大御所はいっぱいいる。そしてそれぞれ素晴らしい演技を見せてくれる。白鸚吉右衛門菊五郎。みな素晴らしい。
でも、50年もたちゃ、おのおの少し体形が変わったり、足腰が弱ったりしている。これはもちろん批判ではなくて、あたり前のことで、年をとれば腰も痛くなろうし、膝も多少ガクガクするだろうし、息も切れるだろう。その中で、みなさん新たな境地を見せてくれている。

たとえば菊五郎なんかは、今では「親父様」と呼ばれて恰幅のいい存在感がある役者だけれども、昔の菊五郎の美しさと言ったらそれはもう、今の菊之助だってかすむくらいだ。でも今の菊五郎菊五郎も魅力的なので、いいのだ。(何を言っているのだ)

時はうつり、物は滅びるし、人は老いるし、いずれ死ぬ。それが自然の摂理ってものだ。
でも、にざたまの3年前の『神田祭』を見たかい?

あれには驚いた。あんまり驚いたので書いたブログがこれだ。

munakatayoko.hatenablog.com

47年ぶりに二人で演じた『神田祭』が若々しくって、色っぽくて、私には「時」とはなんだろうとしか思えなかった。その「世界観」に驚いた。

そしてそれからまた3年がたって、初演から50年。さらに二人は若々しく、色っぽく、変わらず私の目の前に立っている。

「時」とはなんだろうと思わずにはいられない。初演から50年たっているのだ。50年といえば、オギャーと生まれた子が50歳になる年月だ(当たり前)。そこで変わらず。いやむしろ進化しているかもしれない。私は50年前の神田祭を見ていないが、見た人によれば
「昔はちょっと『片岡孝夫でござい!』『玉三郎だ。どや!』っていうギラギラがあったような気がする」そうだ。主観だから何とも言えないけれど、そうかもしれない。

 

今はどうか。そういう気負いは感じない。そこにいるのは流れるように美しい、ただの鳶の若い衆と芸者ではないか。(書いていて思ったけれど、「流れるように美しい」ってなんだよ?でもそんな感じだから、イキママで)

 

3年前は3階席と4階席で。今回は3階席と1等席で。どこから見ても美しい。何が美しいかというと、止まっているときだけではなく、動いているときの裾の乱れさえ美しい。

例えば浮世絵で、着物の裾の動きが美しく描かれているように、玉三郎の動きが美しい。

玉三郎を見る仁左衛門の視線、指の先、仁左衛門を見る玉三郎の視線、まっすぐ見るとき、ナナメから伺うように見るとき、指の小さなクルクル動き、微笑み、すべてが美しい。どの瞬間も完璧な絵だ。

それは、偶然の産物ではなく、すべてが計算しつくされている美しさ。例えば玉三郎は、踊りで手ぬぐいを振ったときに一番美しく手ぬぐいが波打つ重量を調べたうえで糸を選んで注文するという話を聞いたことがある。

昨日のクラブハウスで、大向こうの堀越さんが、中村達史さんと仁左衛門玉三郎について熱く語っていた。仁左衛門については
「ドラマチックにお芝居を組み立てる。ドラマ性を大切にしていると思う。その物語をご自分なりに立体的に組み上げるように、緻密に型の工夫について考えたりセリフの言い方を精密に組み立てる。突っ込んでやる。
突っ込んでやっても、不思議にくさくならない。あの品格はすごいな」とおっしゃっていた。

50年前は、3男坊だった仁左衛門仁左衛門を継ぐとは思われなかったし、一般家庭から養子としてはいった玉三郎がそれほど歌舞伎界の重鎮となるとも思われなかった。どちらも50年後にこれほどの大きな俳優になるとはだれも思わなかった。。らしい。

 

だから奇跡のにざたま。
時代が産み落とした奇跡。

まさにそうだ。お二人の話は、ほかにもいろいろ語っていてうなずきっぱなしだった。が、何せクラブハウスの話をそのまま書くわけにはいかないので、書かないけれど、要するに同じ時代にいる限り、見られる限り、見るべきだよねということだ。激しく同意するしかない。

 

しかし、神田祭で残念なことはたったひとつある。見ているときは気づかなかったが、仁左衛門の声が聴かれないことだ!「顔よし、声よし、姿よし」の仁左衛門の声!

悪人のときは、地獄の底から絞り出すような声。

気のいいぼんぼんのときは、ふわーっと高い声。

それが聞こえないのは誠に残念だが、それは「お染久松」で堪能したからよしとする。

 

そして私は久々に筋書も買った。(写真入り)

お写真も買った。

そして、しらたまやで初めてテイクアウトをしてみた。持って帰るのに、ぐちゃぐちゃにならないか心配したが、きちんと包装してくれて、まちの広い袋に入れてくれたので大丈夫だった。

 

本当に心があたたかくなる幸せな一日だった。

 

ところで本日、27日は千穐楽。4月の歌舞伎座の演目が発表となり、ビッグニュースが飛び込んだ。
4月の歌舞伎座で、にざたまの『桜姫東文章』が出るということだ。

興奮しすぎて書けないので、いずれまたそれについては。