「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

泥棒と若殿 松緑と三津五郎の不思議な縁♪

不思議なものだ。

 

原作を読んだ。あまりにも今月2月歌舞伎座で演じる松緑と巳之助にぴったりな(そして、とてもいい)芝居じゃないかと、びっくりした。

あまりにもピッタリなのであてがきなのかなと思ってしまったほど。

 

山本周五郎がこの作品を書いたのは、昭和24年だというからもちろん松緑や巳之助にあてがきの芝居ではない。松緑も巳之助も生まれていないもの。それでもこんなふうにストンとはまることもあるのだなあ。

 

読んでいて、松緑の声が聞こえるようだったし、目をまん丸くして驚いたり、素直な心を見せたりする純粋な伝九郎のセリフの節回しが松緑独特の言い方にはまっていた。

 

で、思わず笑ってしまったのだった。ところがこの芝居は松緑にとってはとても思い入れのある芝居であることを知って、笑ったことを恥ずかしく思っている。

松緑三津五郎

 はじめて松緑が泥棒を演じたのは2007年歌舞伎座團菊祭で、相手は坂東三津五郎だった。聞くところによると、当初松竹から言われた配役は、三津五郎が泥棒で、松緑が若殿だったそうだ。年齢から言えば、その方が合っている。(松緑32歳・三津五郎51歳)

 

ところが、二人で読み合わせているうちに「これは逆のほうがいいんじゃないか」ということになり、入れ替えたそうだ。こうして、若くはないけれど三津五郎の若殿と松緑の伝九郎というコンビができた。

 

松緑三津五郎は、この芝居を二人であれこれ工夫しあい一つ一つ作り上げた。松緑はそのことに関してとても三津五郎に感謝している。そして三津五郎から「あれは、お前としかやれないな」と言われて、自分が認められたようでとてもうれしかったという。

 

その3年後の2010年にもこの二人で演じている。(巡業)(松緑35歳 三津五郎54歳)

しかしながら2015年2月21日に三津五郎は亡くなった(あ!もうすぐ命日なのね)

 三津五郎死後、軽いノリで「お前と俺で、あの芝居をやろう」と言って来た役者がいたが松緑は断った。そして、もしまた自分が伝九郎をやるとすれば、相手は三津五郎の息子である巳之助しかいないと決めていた。(このあたりのことは松緑ブログ916に書かれています)

松緑と巳之助

 そんな思いを巳之助も知っていたのか、今回の話が来た時には「よし。来たか」という思いで受けて立つ。巳之助32歳!松緑46歳

むしろ、三津五郎よりも巳之助が若殿のほうが、年齢的にはちょうどいい。

松緑は巳之助に「お父さんの若殿は素敵だったけれど、君にはまた違った君の魅力があるんだから、お父さんの若殿をベースにしながらも、決して意識しすぎないで君の若殿を作ってほしい」と伝えたそうだ。2世松緑の孫、そして辰之助の子どもであるプレッシャーをさんざん感じてきた松緑らしい、心配りのある言葉だと思った。

 

そんな「泥棒と若殿」。2月の歌舞伎座1部の「十種香」のあとでかかる。大人気のにざたまの2部、中村屋連獅子の3部に比べて地味なせいか、客入りは悪い。

 

別に予習も必要ないし、しみじみといい芝居なので、ぜひたくさんの人に見てほしい。

 

白塗りの若殿の姿をみて、三津五郎にそっくりで驚いた。今まで巳之助が三津五郎に似ていると感じたことがあんまりないのだけれど、今回は横顔などがそっくりで、そういう風になっていくのかなあと感慨深かった。

 

「泥棒と若殿」

お家騒動に巻き込まれて、お化け屋敷のように荒れ果てた屋敷に幽閉されている若殿松平成信は、もう食うものすらなくて、「このまま死んでしまうのか、それもまあよい」と思っている心が荒れた青年だ。そこに、入った泥棒「でんく」。泥棒に入ったものの、屋敷の中は、すっからかんで取るものはないし、空腹で今にも死にそうな青年が目の前にいるばかり。こうして出会った二人が、心を通わせていく話だ。

 

最後はしんみりして、少し悲しいけれど、成信も伝九郎も、出会ったことで心は救われたはずなのだ。自分ほど不幸な人間はいないと思っていたはずの成信も、世の中には自分の知らないことが山ほどあり、自分にもやるべき使命があることを知る。伝九郎もやりがいを知る。それは幸せなことだよね。

 

というわけで、心が清らかになる芝居です。

 

NHKでタイミングよくドラマ仕立てで放送

ところで、うれしいニュース。

NHKで30分番組でちょうど「泥棒と若殿」をやるそうだ。

「誰かに話したくなる山本周五郎日替わりドラマ

二日目2月19日 午後7:00~7:30

https://www.nhk.jp/p/ts/P88XMLJ258/

 

ぜひ見てほしい。そして、面白かったり興味がわいたら、歌舞伎座ものぞいてみてほしい。

豪華絢爛な衣装や派手な隈取ばかりが歌舞伎じゃなくて、こんな芝居もやっているんだって知ってほしい。

 

ココからは未見の人は読まないでほしいけれど。

 

個人的に言えば、ちょっとBLみが強いような気がしてもう少し抑えてほしいと思った。例えば友達と二人で観に行って一人が「こりゃ、BLだ」と言っても「え。そりゃ考えすぎだよ」ともう一人が言うくらいの微妙なバランスにしてほしいと思ったのだが、これは全く個人的感想なので、共感は得られそうもない。特にラスト。

 

で、原作では全くそんなじゃないのに、と思って帰ってから原作を読みなおしたら、そうでもなかった(笑)。同じ本でも舞台になると生々しくなっちゃうのだろうか?BLじゃないです。たぶん。