今月は、すっかり静かな歌舞伎座になってしまったわけですが。これがちょっと残念に思っている方も多いはず。
そこで、昭和5年4月歌舞伎座の「連獅子」印象記~龍土太郎 から、当時の連獅子を観ている観客の様子を、引用してみますね!
親獅子 幸四郎
子獅子 三津五郎
親獅子に突き落とされた子獅子が、駆け上ってくる
前略)舞台では喜び狂う親獅子は、子獅子の胸元を両手でつかむとなめるように誉めそやし、まだそれでも飽き足らずに子獅子を転がしておいて、その体の上を肩で宙返りを打って、じゃれつくあたりは、如実に獣物の本能を表現し得ていた。
ともすれば今までに「大和屋!!」の掛け声に「高麗屋!!」の掛け声が圧倒され気味であったのが、ここに至って場内割れんばかりの「高麗屋!!!」の賞賛の声、弱い方に加担するのが人間の情、僕、思わず涙が出た。
(中略)
ひらり、ひらひら翼を王手、ともに狂うぞ面白き
の歌いっぱいに親獅子と子獅子は、それぞれに胡蝶にじゃれ狂いながら、本花道を這入ってい行った。
「大和屋、たまらねぇぞ、畜生!!」「高麗屋、丸の内!!」場内は、沸き返るようだ。
(中略)
~宗論、大薩摩が終わる~
大薩摩が済むと、テテン、テテンとお囃子の太鼓から「イヤ、イヤ、イヤ」と太鼓と鼓が這入る。
もう僕は、なんとはなしに身内がゾクゾクしてきた
「高麗屋!」
「大和屋!」
「シッ!百姓!」
俄然、見物は沸き返って、鳴り物の音がまるで遠くの方に聞こえてきた。
(中略)
実にも上なき獅子王の勢い、靡かぬ草木も無き時なれや
の唄の間に、先ず親獅子が台の上でその白頭を大きく振ると、親を見習う子獅子は、本花道の七三でその赤頭を大きく左右に振る。
(中略)
もう見物は有頂天である。
お囃子連中も「イヤ」「ハオ」と必死である。
(中略)
親獅子は立ち身、子獅子は左足を投げ出してかがんだ見得をすると、チョンと木が這入って、
獅子の座にこそ直りけれ
と唄い終わる。
「高麗屋!」
「大和屋!」
見物は血を吐くように怒鳴っている掛け声の間に、スーッと幕が下りた。その幕が下りる瞬間の快さ。
(※「演芸画報」昭和5年5月に掲載されたものを国立劇場上演資料集に転載。)
全文紹介したいくらい、役者たちの踊りっぷりも見事に文章で表していて素晴らしいのですが、その場の臨場感たるやすごいですね。そして、当時の観客の熱狂ぶり。大向こう、掛け声のすごさに驚かされます。
役者が踊り、観客が呼応し、お囃子連中も高ぶっていき、化学反応で素晴らしい舞台が出来上がっていく。
これが本来の歌舞伎だったんですね。
さすがにコロナの前であっても「畜生!」なんて掛け声をかけたら白い目で見られますから、今ではこのような情景はあまり見られなくなっていましたが、この熱はなんだかうらやましい。もしかしたら獅童さんの「超歌舞伎」が、その熱を引き継いでいくのかもしれませんね。
歌舞伎はこれからどう変化し、どう進化していくのだろう。楽しみに観ていきたいです。
ところで、今月の演目はすべて動画配信されていますので、もし見損なった方はぜひ、ご覧になってください。もちろん連獅子もみられますよ!