「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

『与話情浮名横櫛』~切られ与三 人が恋に堕ちる瞬間を目撃

 

▲右は見染の場。左は源氏店の場ですね。

死んだはずだよお富さん

春日八郎の歌う「死んだはずだよ、お富さん~」。軽快なテンポの歌だから小学生(私)でも意味もわからず歌っていたし、日本中歌っていたなあ。

歌詞を改めて読んだらストーリー追っていておもしろかった。

 

「もし、ご新造さん、え、おかみさん、え、お富さん。いやさお富、久しぶりだあなあ」というセリフ。少しずつじりっじりっと寄っていく仁左衛門の姿。かっこよすぎる!

 

ああ!なつかしい!昭和の昔は、みんなよく真似をしていたし、何かというとセリフも言っていたし、歌っていたし! 日本中が切られ与三とお富さんは大好きだったんじゃなかろうか?

 

とはいえ、ここ何年かでも3回は切られ与三を見ているのだ。それなのにこんなに「うぉーーー。なつかしい!これだよ、これこれ。これが与三郎だ!お富だ!」と感じたことはなかった。やはりにざ玉は、計り知れないすごさがあると思う。

 

4月の夜の部。2回みた。2回とも3階から見る予定だったが、客席降りがあるとわかり、下界へ降り立つ。

持っていた3階チケットは秒で売れた。

ストーリー

若旦那が、木更津の海岸でお富という女で出会い、二人は恋に堕ちる。しかしお富は木更津あたりの顔役赤間源左衛門の妾。手を出しちゃいけない人ですね。

 

若旦那与三郎にはバックグラウンドがあって、伊豆屋の若旦那ではあるけれど本当の子どもではない。伊豆屋に子どもがいなくて養子になったのだが、その後実子ができてしまい、与三郎は弟に家督を譲る気持ちになり、放蕩三昧となっていた。

 

与三郎とお富の2人は密かに会うようになるが、それが源左衛門親分にバレ、与三郎は体中34カ所の刀傷をつけられて簀巻きにされて放り出される。お富はほうほうのていで逃げ出し、海に身を投じるが、通りかかった多左衛門の船に助けられ、その妾宅で暮らす。

 

与三郎も命をとりとめていたものの、すっかりぐれて小悪党。蝙蝠安というやくざの先輩のあとについてゆすりに行った家が、お富の住む家だった。

客席降り

いやあ、久しぶりでうれしいっ!コロナ禍で客席降りは自粛されていたけれどね。仁左衛門与三郎も「最近お上からお許しが出てね、こっちの道を行けるようになったんだ」みたいなセリフもあり(意訳)、きゃ~~~ですね。

私は客席降りがあると知り、即取った2等席2列目。目の前をにざ与三郎が通っていきました。。。ぽっ…。

恋に堕ちる瞬間とは

2人が恋に堕ちるのが木更津海岸見初の場で、この場はあまりかからないからこそ、また今回は見逃せなかった。

お互い知らない同士の二人が次第次第に近づいて、とんとぶつかり、はっと顔を見合わせる。お富は、恋の百戦錬磨の年増の女だろうけれどそれでも「悪くないね、この男」という感じ。「いい景色だねえ」って。男のことを言っているのよね。

与三郎は、お富の美貌に完全にぽ~~~っとなってしまい、お富を見送る際に、着ていた羽織がするすると落ちてしまうのにも気づかない。

 

だんな!と金五郎が落ちた羽織を拾って埃を払い、着せてやろうとすると「知ってるよ!」という子供じみた言い方をするけれど、さっと羽織ると裏返し。

この時の羽織も、するすると落ちるというのは、ぼんぼんならではの絹のいい仕立てのモノという設定だからというから憎いではないか。

赤間源左衛門別荘の場

いろっぽくてたまらん。寝間に入った後も、ぼーっと影が映るから客席でみる皆さんが一様にオペラグラスでじーーーー。

それは単なるのぞきでは…と思ってしまうほど、ふすまの向こうの色ごとがダダ洩れてヤバい。

しかし、そんな幸せもつかの間。親分が帰ってきて、与三郎は散々な目に合ってしまう。お富の逃げ足が速いのも、さすが。

源氏店の場

これがまたまた色っぽくてたまらん。大体お富という女が、わかっているだけでも源左衛門の女であり、それから与三郎をたぶらかし(寝間にひきずりこんだからね!)その後多左衛門の妾宅にもぐりこんでいるのだから一筋縄ではいかない。

でも色っぽくて粋で、かっこいい姐さんなんですな。こういう玉三郎は絶品です。

お富が湯屋からかえってくると番頭の藤八が雨宿りしている。それを親切心で家の中に入れて、そこで藤八はこのチャンスをのがすものかとなんとか口説こうとするのだけれど、粋にいなして全く相手にしない(けれど、自尊心を傷つけない)感じがほんとにかっこいい。

藤八なんてさんざん遊ばれて、化粧までされちゃって、ぺたっと畳に座ってお富にされるがまま。ぺたっと座っていて白い足袋の裏がこちら向きに見えていてなんだかかわいい。

 

そこに来るのが蝙蝠安と与三郎。

かれこれするうちに与三郎は、このいなせな姐さんがお富だと気づいて、件の「もし、ご新造さん、え、おかみさん、え、お富さん。いやさお富、久しぶりだあなあ」

となる。

原作の結末

お富は与三郎の家来の観音久次の妾となり、九次が切られてその血を飲むと与三郎の傷が全部治るという結末で、さすがにそれはもうお腹いっぱいという感じ。

今は与三郎とお富が、手に手をとってハッピーエンド。

にざ玉の演出ではこうなったそうで、それで結構でございます。はい。