「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)引窓

 

こんばんは。9月も中日となりました。無事千穐楽まで何事もありませんように!

3部の「引窓」について。

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概況

 ■1749(寛延2)年 人形浄瑠璃として大阪竹本座初演。歌舞伎は同年8月京布袋屋梅之丞座で初演。

作者 竹田出雲、三好松洛、並木千柳。

登場人物

濡髪長五郎 相撲取り。人を斬ってしまい、捕まる前に母の顔を見ようと、母の住む里へやってくる。

 

お幸 長五郎の母。先妻の息子夫婦に気を使いつつ、幸せな生活を送っている。

南与兵衛 お幸の夫の先妻の息子。長五郎にとっては、異父兄弟となる。

 

お早 南与兵衛の妻。昔花魁だけあって、時々そんな風情が出てしまい、お幸にたしなめられる。昔から長五郎を知っていた。心優しい人。

 

お話

お幸は、質素でつましいながらも義理の息子夫婦と幸せに暮らしていた。

今日は、嫁と月見の準備にいそいそと。明日は放生会だ。※放生会というのは、捕らえられた魚や鳥を野に放ち殺生をいさめる行事。

お早(嫁)は、昔花魁で、与兵衛に見初められて結婚した。今でも時々花魁言葉が出てしまい、お幸に優しくたしなめられる。

この最初の場面だけで、この嫁と姑との良い関係がパッとわかるからすごい。

 

そこへ菰をかぶって長五郎がやってくる。突然、久方ぶりにやってきた実の息子を見てお幸はたいそう喜ぶ。お早も昔の知り合いでもあり、お早とお幸は大歓迎。久しぶりの再会を喜ぶ。長五郎は複雑な気持ち。すぐに発つという長五郎に、まあまあそう言わずと2階に上げるお幸だ。

義理の息子南与兵衛は、今で言えばいわば、警察官。亡き父(南与兵衛の父)の後を継ぐ、郷代官に取り立てられ、「母もさぞかしお喜び」と張り切って帰宅してきた。

 

与兵衛の出世に、これまた「でかしゃった、でかしゃった」と大喜びのお幸とお早だが、与兵衛の初仕事はお尋ねものの探索。そしてそのお尋ね者というのは、人相書きを見れば長五郎ではないか。

なんということだろう。息子に一体何があったのだろう。そして、実の息子への愛と義理の息子への義理と道理の板挟み。

 

人相書きを見てもお尋ね者が異父兄弟とは気づかなかった与兵衛だが、月明かりに庭の手水鉢に映った2階の人影は、なんと人相書きの人そのものではないか。

 

そうこうしていると、母お幸が居住まいを正して、与兵衛に、その人相書きを売ってくれないかという。

 

母は実の息子を守ろうとしているのだ。それならそうと言ってくれればいいのにと与兵衛は歯がゆい。

 

「母者人。あな、なぜものをおかくしなされます。私はあなたの子でござりますぞ。鳥の粟を拾うようにして貯めたその金を…」使うとは、なんでそんなことをするんだと声を荒げることはできない。

 

お幸にしてみれば「ちょっと見逃してよ」とは義理の息子には言い難い。爪の灯をともすようにして貯めたお金で人相書きを売ってくれという母の心を思うと与兵衛はつらい。

 

注)ここは、今回長五郎演じる吉右衛門丈も、与兵衛演じる菊之助丈にしっかりと伝えたといいます。

「僕は養子ですから義理の中の心情も少しはわかりますが、菊之助君にはその経験がありません。そこが一番難しいよと伝えました。(中略)お幸への「なぜ物をお隠しなされます」のセリフを、真心こめて言うようにと話しました」(ほうおう10月号より)

 

実の息子、長五郎にとっては、母を苦しめてしまうことに対する自責の念。

南与兵衛にとっては、どんなに母が喜んでくれるかと、勇んで帰ってきたのに、義理の母の気持ちと仕事の板挟み。

お幸は、義理の息子への気持ちと、実子への気持ちの板挟み。

お早も、おろおろ。

 

みんな心優しいだけに、みんな辛い。あなたが長五郎なら、与兵衛なら、お幸ならどうしますか。

 

さて、このお話は、この後どうなるのでしょう。それは歌舞伎座で見てね。

 

キーは引窓。引窓を開けるとまるで夜が明けたように明るい月夜が見えますよ。

 

長い人生の中で、何度も見てほしい「引窓」

「引窓」というお芝居は、ちょっと地味ですから、派手なアクションもストーリー展開もない。けれど、実に心にしみわたるお芝居です。

 

初めて見たときにはちょっと地味でよくわからないかもしれないけれど、一生のうち、何度も何度も「引窓」をみてください。何度も何度も見るうちに、自分も若さ一点張りから、だんだん年を経て、お早の立場から次第に長五郎の年齢になりお幸の年齢になっていくと、また感じるものが違うはずです。

今月の配役

今月は、濡髪長五郎が吉右衛門。南与兵衛が菊之助。お幸が東蔵。お早が雀右衛門

 

吉右衛門の悲しさ辛さ。菊之助の辛さ。真摯なやさしさ。雀右衛門の素直なかわいらしさがいいのです。そして、東蔵のお幸がもう泣けてなけてしょうがないです。

「でかしゃった、でかしゃった」と与兵衛の出世を喜ぶお母さん。長五郎がお尋ね者と知ってオロオロするお母さん。実の息子を愛するが故に助けたいと思う。けれどもそれはいけないことだと、また縄をかける。そして。。

オロオロと揺れ動くお母さんが、本当に泣けます。

 

以前傾城反魂香で北の方として演じた東蔵さんの「でかしゃった。でかしゃった」も、とてもよかった。私は東蔵さんの「でかしゃった」が大好きです。

 

9月3部の「引窓」。4時15分開演。1時間10分くらいだったかな。じっくりと堪能してください。何度も。何度でも。