『極付幡随長兵衛』(きわめつきばんずいちょうべえ)をご紹介します。
作者 河竹黙阿弥
初演 明治14年
配役
幡随院長兵衛 吉右衛門
実在の人物。町奴(派遣労働者)の親玉で、人望があつい。
以前から旗本奴(旗本で大名になりそこねたゴロツキたち)白柄組とは何かというと喧嘩になるのを長兵衛がなんとか抑えていた。特に水野と長兵衛は、もめていたので一触即発状態。今回も…。
水野十郎左衛門 染五郎
旗本奴白柄組の親分。旗本であるが、以前から町人奴たちと揉めていたため、長兵衛にはイライラ。
唐犬権兵衛 歌六
長兵衛の弟分。
あらすじ
●村山座舞台の場
・江戸村山座で「公平法問諍(きんぴらほうもんあらそい)」上演中。旗本奴白柄組が乱入、いちゃもんをつける。
・見かねて客席より登場するのが幡随院長兵衛。そして旗本奴をやっつける。
・それを白柄組の水野と近藤が見ていた。
●花川戸長兵衛内の場
・長兵衛の家では、白柄組の仕返しを心配している。
・水野家の使いがきて「長兵衛を酒宴に招きたい」とのこと。
・死を覚悟の上で、長兵衛快諾。
・弟分が身代わりを申し出るも、拒絶。
・妻・子・子分と別れて水野の屋敷へ
●水野邸座敷の場
・水野邸で歓迎されるも、竹刀での勝負を挑まれ難なく打ち負かす。
・お酒をわざとこぼされ、衣服を乾かす間にと、風呂を勧められる。
●水野邸湯殿の場
・水野と勝負。家来に後ろから刺されて絶命する。
見所
・劇中劇
まじめにやっている役者たちが、邪魔をされて「えっとどこからだっけ?」とか「またか」とあたふた
・幡随長兵衛の出てくるところ
劇中劇を見ていた客席から長兵衛が喧嘩を止めにはいる。その演出のため、本当に客席から出てくる。これがかっこいいんだ!
・血気盛んな奴たち。
・行けば殺されるとわかっていながら
町奴の親玉としては逃げるわけにはいかない。
死地に赴く長兵衛。ここはなかなか現代人としては理解しがたいところだが、「町人との喧嘩で死ぬよりは、旗本と喧嘩死ぬなら上等!」と死地としては申し分なしと喜んでいるとも言える。
・息子長松と女房お時とのわかれ
みな長兵衛が死ぬとわかっている。わかっていないのは長松のみ。長松がかわいくて泣ける!
・せっかく新調したばかりの羽織
死地に赴くにあたり、あつらえたばかりの羽織を着ていく。しつけが残っていて、それを取る妻のしぐさがいとおしい
・湯殿での立ち回り。
文句なしのかっこよさ。
♪余談♪
その1 その後、どうなる?
ここで終わりですが、通し(さいごまでやる芝居)ですと、仕返しの場があるそうです。
また、長兵衛、水野ともに、実在の人物です。1657年7月18日、万随院長兵衛が水野を遊里に誘い、断った水野を侮辱。怒った水野が長兵衛を惨殺したという記録があります。
このとき水野は無礼打ちとして無罪。しかし7年後、行いがよろしくないとのことで、母の実家蜂須賀家にお預かりとなり、その時の無作法により、切腹を命じられたそうです。
その2 外題は、どうして?
題名の「極付幡随長兵衛」
名前は幡随院長兵衛なのに、なぜ院が抜けているの?
歌舞伎の世界のタイトルは必ず奇数です。だから院をとってしまいました!変なところに律儀で、変なところはざっくりとしてますね!
ちなみに極(きわめ)というのは鑑定書。折り紙つきとか極め付きとか今でもいいますね。
本当の、とか最高級の といった意味です。
「本当の長兵衛の話」「最高のストーリー」といった意味もあって極付となっています。
その3 お墓はどこに?