私は常々「歌舞伎はある程度予習しておいた方がいい」と言っているのですが、それは何も「原作を読んでおけ」とか「解釈をしておけ」とか「本は3冊読んでおけ」とか言っているわけではないのです。
今度見るのが、たとえば昼の部であれば、何をやるのか。
(1)それは昼の部全部を使って一つのお話をするのか(通し)
(2)それとも、長いお話の中の一部分(見取り)と、別の長いお話の一部分と、まったく関係ない踊りなのか
(3)長いお話の一部分であるなら、どの部分なのか
くらいはわかっておいた方がいいよ。ということなんです。どうすればよいかといえば、当日チラシの裏を読むだけでもよいですよ!
通常の演劇であれば、当然一つのストーリーで昼の部。同じお話を夜の部でもう一度という流れですが、歌舞伎はそうではありません。この大前提がわかっていないと、
「ちんぷんかんぷん」になってしまいますよね。
ということで、前置きが長くなりましたが、今月の昼の部は(2)であり、重要なポイントは(3)です。
『義経千本桜』と言えば有名ですからどうせ初めての歌舞伎を観るならこの昼の部にしよう。そして義経千本桜の予習をしておこうと思っても、あまり予習にはなりませんし、今回の『時鳥花有里』を観て、よっしゃ!義経千本桜ってこういうものなのね!と思ってしまうと大変な間違いになってしまいます。
「時鳥花有里」は義経千本桜の、どの部分かというと「大物浦」の場と「四の切」の間です。
知盛が碇を抱いて海に沈んだのを見届けて、大和を目指す義経一行というシチュエーションです。
あまり出ない演目ですが、2022年4月にも上演されましたので、これからはちょくちょく出るのかしらん?
「きれいだなあ~。以上終わり」でいいと思います。
軽やかな傀儡師の舞踊、華やかな白拍子たちの舞踊と長唄を目と耳で楽しみます。
義経は、自分の運命を嘆き、家臣(染五郎)が励ますところに傀儡師と白拍子一行が現れます。
今回は義経が又五郎、義経の家来鷲尾三郎が染五郎 この二人がせりから登場。
最近染五郎クンがグングン背が伸びていて、よく隼人と見間違えてしまいます。
顔も美しく、手足も長く、見栄えがします。
傀儡師が種之助。踊り達者な種之助が、今年の浅草歌舞伎の『流星』同様、お面を使って義経、弁慶、静御前、知盛を踊り分けました。
白拍子が孝太郎、左近、米吉、児太郎です。美しさで目を見張るのが左近、米吉。児太郎は美しくもあるのですが、貫禄があってそれはそれで魅力です。孝太郎はベテランの味で観ていて安心です。
左近クンは、最近女方でキレイと言われるのが「まんざらでもない」らしいので笑、どんどんほめて伸ばしましょう!
『上州土産百両首』のあとの華やかな舞台がうれしいことでした。