今日は、表参道の太田記念美術館へ。明日で終わる「広重おじさん図譜」の後期を、前期に引き続き観てきた。(明日まで)
た、楽しい。。
いかにも浮世絵!という浮世絵も好きだけれど、広重のこの味わい深い漫画のような浮世絵も楽しい。
楽しいおじさん
東海道五十四 五十三次大津
旅先で腹を立てたおじさんが大暴れしていて、周りのひとになだめられている。それをぼんやり見ている人や、構わず大津絵を買っている人などがいい構図で配置されている。
五十三次之内 袋井
街道の真ん中にまっすぐこちらを見ているおじさんがいる。そういえばこういう視線はあまりない。おじさんはまっすぐこちらを見ていて、私が見られているよう。おじさんが妙にリアルでとてもいい。
五十三次之内四日市 三重川
突風が吹いてきて、飛ばされた笠を追いかける旅人のおじさん。向こうでは反対を向いて合羽を翻しているおじさん。あわてるおじさんが絵から飛び出してきそうだ。びゅ~びゅ~という風の音まで聞こえてきそう。
五十三次吉田 御油
留女に引き留められるおじさんは困ったような顔。2階からは女たちが笑って見ている。
道中膝栗毛参宮道白子
馬から落ちた瞬間のおじさん。どうしてこんな絵を描けるのだろう!
構図が、おじさんを中心に円形になっているので、より落ちた瞬間のスピード感がクローズアップされているような感じだ。
江戸名所道戯尽九 湯島天神の台
おそばがひっくり返って、武士の頭にぶちまけられた。ちょうど助六の意休みたいに。武士は怒っているけれど、町人たちはぷふふと笑っているよう。
そんな絵なのに、とても緻密で色も鮮やかで美しい。どんな顔で彫り師は彫っていたのやら。
歌舞伎に関係する絵
草摺引き
和田義盛の酒宴の際に曽我五郎の草摺(甲冑の胴から吊り下げられた腰から太ももまでの下半身を覆い、防護するための部品 【刀剣ワールドより】)を小林朝比奈が引っ張り、引きちぎってしまったという話。
でもここで描かれているのはそんな絵ではなく、五郎が壊れた鎧を和田義盛に修理に頼んでいるなんともほんわかしたパロディの絵。
錣引き
屋島の戦いで平景清と源氏の美尾谷十郎が格闘して、景清がつかんだ美尾谷の錣が切れたという話。
こちらも、広重の手にかかれば、平景清と美尾谷十郎が兜と錣を商人に買い取ってもらっているという絵になっていて、楽しい。
狂筆蝙蝠寿の姿見
助六・意休・揚巻が出てくる。でもこれもゆるーいタッチ。蝙蝠と寿は、めでたさの象徴だそうで(蝙蝠がめでたいとは知らなんだ)着物や髪型に蝙蝠がデザインされていたり、背景の木に「寿」という字が隠されていたり。鈴ヶ森の絵にも壽の字と蝙蝠のデザインが。
石川五右衛門
ちょうどこの絵か作られたころ、四代目市川小団次の石川五右衛門が大ヒットしたそうで、作品の中で五右衛門は「大当たり」といううちわを持って、何やら揚げ物を揚げていた。
忠臣蔵三段目
加古川本蔵が師直にわいろを渡すところ。これも役者絵ではなくて、シーンは忠臣蔵だけれども、顔は普通のおじさん。
五右衛門も忠臣蔵も、曽我兄弟も、誰でも知っていて、シーンを描けばみんなすぐピーンときて、パロディならなおのことワッとウケる。そんな時代なんでしょうね。
どの作品のおじさんも表情豊か、個性さまざま。
髪の毛の一本一本(胸毛まで書かれているおじさんも!)細かな着物の模様の超絶技巧も素晴らしく。浮世絵は絵だけじゃなくてそれを彫って擦っているから、すごい技巧なんです。
風景は海から空へのグラデーション、水平線近くの夕闇迫る茜色など色彩もとても美しく。
また、全体を見て見過ごしそうなおじさんを、わざわざクローズアップさせている展示の仕方もよかったな。
とても楽しめた。この展覧会の図録はなし。中山道広重美術館の冊子はあり。(今回の展示の絵が20点以上掲載あり)
明日まで。