「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

七之助を堪能「十六夜清心」 歌舞伎座3部観劇レポ

十六夜清心は、序幕、二幕目、大詰めとガラリとキャラ変するところが面白い。

 

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序幕は、遊女十六夜に入れ込んだことが発覚し寺を追われる清心と、その清心を追って廓を抜け出す十六夜の出会い。清心を追って暗闇の中やってきた十六夜の草履の鼻緒がつっと切れる。こよりを作って直して歩きだすけれど、また切れてしまう。そのときのふーというため息。好きな男にも会えず、お腹には子どもがいるし、廓を逃げ出したからには帰るところもない、途方にくれてつくため息がなんとも悲しい。

 

その後、清心と出会うことができ、二人は心中を決意、川に飛び込むが清心は泳ぎが得意で生き延びる。

 

清元「梅柳中宵月」に乗っての二人の動きが美しい。

 

そんな序幕は、運命に翻弄される十六夜哀れ、清心哀しみたいな感じなのだが、生き残った清心が求女と出会い、50両奪ったあたりから、おやおやー?

雰囲気が変わってくる。故意ではないとはいえ人を殺めてしまった清心、良心の呵責から自害をしようとするも、お腹をさすっては逡巡、ちょっと突いては「あいててて」。なかなか死ぬこともできないときに、お寺の鐘がゴ~~~ンとなる。

 

「しかし、待てよ…。知ったのは、お月さまと俺ばかり…」と人相がかわり、清心ダークサイドに真っ逆さま。こうなると俄然面白くなる。

 

さて、十六夜は?

 

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溺れかかったところを白蓮に拾われ、こちらも命拾い。二幕目は、白蓮妾宅の場だ。

白蓮に清心のことを話すときの胡弓の音の美しさ、もの悲しさよ。

 

その後、十六夜は剃髪をして白蓮にいとまをもらい家を出るが、箱根の山中で身を持ち崩した清心と劇的な出会い(ここはかかりませんでした)をし、二人でゆすりたかりの悪党コンビ誕生。そして大詰めの場では、かつての恩人のところにゆすりにやってくる。

 

清心 幸四郎

十六夜 七之助

白蓮 梅玉

白蓮の妻お藤 高麗蔵

 

これは、十六夜役者をたっぷりと堪能できる演目だ。

女郎→ 恋する女、七之助

囲い者→ 囲われたものの別れた男を忘れらない影のある女、七之助

剃髪して家を出る→ 美坊主!!っぷり!な七之助

ボサボサ頭→  あばずれっぷり!ゆすりっぷり!もはや、清心さえころがす太いおなご、な七之助

 

というわけで、桜姫もかくやとばかりに変貌していく女、十六夜を見事に演じきれる女方のための演目。。そんな十六夜を演じる七之助を堪能した。

 

一度は姉妹の契りを結んだ白蓮の妻お藤にも、まあいちゃもんつけて、お藤がイライラわなわなしているのをしり目に、プカ~と煙管の煙をくゆらすところなんざ、本当に憎らしくてすてき。

煙管をお藤にねだってぴしゃりと断られると、白蓮にねだって

「毎晩飲んだ昔の煙管、あたしゃ昔を思い出しますよ~~」

だって。お藤、ワナワナ。

 

その後、

「もしもし姐さん、あたしゃ、お前に坊主にされたんだよ~~」とタンカを切る。

 

白蓮が大泥棒とわかった後は、お藤に

「姐さん、いざとなったら(いっしょに)板の間でも稼ぎましょうかねえ」

なんて。

板の間って何かと思って調べたら

「銭湯や温泉などの更衣室でものを盗むこと」ですって。そりゃあ、お藤もカーっと頭に血が上るだろう、と言っても、夫の白蓮さん大泥棒だったわけだが。

 

幸四郎も、美しい坊主清心から、鬼薊の清吉へ。でもなんだか大悪党というより、十六夜の尻の下に敷かれているじゃん?的な小物感も出しつつ、笑いもあり、最後は歌舞伎らしく捕り手につかまり、見得にて、よろしく~。

大変おもしろく観た。

 

概況

初演は1859年(安政6年)2月江戸市村座

作者 河竹黙阿弥

【鑑賞は1月17日】