観劇パスポートなるものを松竹がこの9月に初めて販売した。
松竹歌舞伎会会員のみの限定サービスなので、「初めての歌舞伎を楽しもう」というブログに書くにはふさわしくないかもしれないが、このパスポートを買う前、相当私は逡巡したので、なぜ迷ったか買ってどうだったかを書きとめておきたい。
■観劇パスポートとは
歌舞伎座の秋の会員特別企画として売り出されたもの。松竹歌舞伎会会員限定で、24000円で初日から千穐楽まで2階席の1等席、2等席を何度でも観られるというサービス。
■パスポートを買う前の懸念
・懸念その1 値段
1ヵ月見放題24000円。
普段私は3階A席の1列目を何とかとるために、チケット売り出しには相当の熱量をこめている。1階でいくら良席をとっても、前に座った人の如何で舞台は見えなくなってしまう。だからどうしても1列目にこだわりたいのだ。
3階席1部から3部全部買うと16500円(2022年9月現在)。
24000円だと出費が増える。ただ、一通り見た後でお代わりをすることがある。2等席で1回お代わりをすれば元は取れる。
1等席を買う人であれば、2回分で元が取れてしまう。
しかし、お代わり行けるかどうかもわからないのに、24000円の出費はどうなのか。
・懸念その2 申し込み方法
観劇パスポートは、該当月の1ヵ月前くらいに申込が締め切られる。
各観劇日の申し込みは、該当日の1週間前から電話による申し込み!
これがネック。電話面倒だなあ。
つまり一般のチケット売り出しも過ぎて、日々過ぎて、観劇日の1週間前になるまで、日々松チケを見ながら、ああ、また席が減ってしまった。ああ、1列目はすでになく、後ろの方しか空いていない!なんてこともありうるのでは。
「ああ、もはや3階席を今から取ろうと思ってもいい席はない!」ってなことになるのではないか。
・懸念その3 公演中止と払い戻しの場合
全公演の50%が中止となったときは払い戻しをしてくれるという。え。7月みたいに最後の1週間ほど中止のときに払い戻しはないの?(ちょうど8月の購入を考えているときが7波ピークだったので、ここにもだいぶひっかかった)
そんなわけで、だいぶ悩んだが、秀山祭だし、今回ごひいきの播磨屋種太郎クン秀之介クンの初舞台でもある。寺子屋の日替わりは幸四郎と松緑の両方みたいし、となるとお代わりの可能性は強いかなとも考えて、1度でもお代わりできればいいと思って、ギリギリで申し込んだ。
■買ってよかったこと
今の私は、ものすごい多幸感にあふれている。10月は国立劇場もあるのでパスポートは買わないつもりだったが、あまりにもハッピーだったので10月も買ってしまった。
金銭的に元をとれるかという視点だけではなくていいことがたくさんあった。
何がよかったか。
・席がよい
当たり前だが、3階より圧倒的に2階席の見え方はいい。PDFを150%にしたくらいの体感である。声もよく聞こえ、香りもする。寺子屋ではいろは送りのときのほんのりとした線香の香りが漂って来た。(1階の5列目くらいまでだと舞台の檜の香りとかもしますね…)
センターブロックもいいが、東席もまたすばらしくよいのであった。
・桟敷席を経験できた
2階の桟敷席なんて一生ご縁がないと思っていたけれど、体験できてよかった。
・いろいろな席から楽しめる
センターブロックだけではなく、花道上。東席。西席と様々な席から楽しみ、この芝居はこちらからの方がいいなとか、お!この席からはこんないいことがあるのかといろいろ楽しめた。東席西席も、舞台寄りとそうでない席とどう違うのか、あれこれ試してみたい。(まだ西席にも行っていないし、西や東の一番舞台寄りとか行っていない)
・マナーが良い
観劇パスポートは、パスポートを買った本人のみで、当然隣同士2枚とか買えないわけなので、おひとりさまが多い。おしゃべりも少なめ。マナーもいい。チケットの発券は木挽町広場のチケット売り場で身分証明書と歌舞伎会のカードを見せ、さらに入場の時もその二つとチケットを提示するので、人に譲渡はしにくい。
2階はとても快適な空間なのだ。
・案外観に行けた
当初、おかわり1回くらいしか行けないかなと思っていたのだが、思ったよりずっと行けた。それには理由がある。
演目が詰まらなくてはいくらパスポートを持っていてもわざわざ行く気にはなれないので、そういう点では役者さんたちには感謝したい。
1部の寺子屋の源蔵と松王丸の日替わり、初舞台、3部の仁左衛門の由良助、藤戸の菊之助、そして脇を固める人たちの活躍に引き寄せられ、何度も観たいと思った。
・仕事のモチベーションアップにつながった
また、これは恥ずかしながら自分の個人的な話。仕事があるからそんなにいけないと思ったのだけれど、1演目だけ観ようとか、明日また観たいからなんとか今日頑張ろうとか、仕事のモチベーションアップにもつながり、意外と見ることができてしまった。私がフリーであることも大きいけれど。
・芝居の理解が深まった
何度も何度も違う角度から見ることでとても勉強になった。理解が深まった。特に寺子屋。
ぜひ学生にはもっと安い金額で見せてあげてほしい。後ろの席など、まだまだガラガラなので。
・幕見的楽しみ方も
電話さえしてしまえば、当日もし行けなくても金銭的なダメージは全くない。また予約をしておけば演目のうち一つだけ見るというのもOK.幕見と同じ感覚だ。もちろん、気軽にポンポン予約して、ぽいぽいキャンセルはよくないのは言うまでもないけれど「せっかく予約したのに、あああ!行けなくてお金損したぁ!」ということはない。
・もはやいつでもタダで見放題感覚
もはや、もとを取ったと思った瞬間からあとは「いつでもタダで見放題!!」的な王侯貴族になったような感覚。
当初の懸念であった予約の取り方。これは初日が日曜に重なったこともあり、初日の予約だけは電話がつながらずかなり焦った。しかしその後はほぼいつ電話をしても通じて、対応も悪くなかった。
・金銭的ダメージは少なかった
通常、もう一度観に行きたい、でもお金が…、どうせなら1階で…、いやそれは…など、だいぶ「時間」と「お金」の間で行ったり来たりするが「時間」のことだけ考えればいいので精神的に楽。また、今月は行ける時間はすべて歌舞伎座に集中しようと決めたおかげで、文楽や遠征などはすべてやめた。おかげで、かえって節約できたという面も!
・フォロワーさんに会えた!
大体、2階席にいるのは同好の士。「もしやお近くの席かも!」とツイッターでつながっていた方と確認したらお隣だったりしてご挨拶など。笑ってしまうのは、推しが同じで、一番よく見える席を狙ったところ、お隣同士だったなど。常々お会いしたいなあと思っているフォロワーさんと会えるのは楽しいこと!
また、歌舞伎友達さんにもよく会ってしまうので「お互い好きですねえ!」と笑ってしまう。
■まとめ 今後への期待
・悪状況と表裏一体ではあるが、継続希望
とってもよかった観劇パスポート。別名感激パスポート。ただ、これは今のガラガラな空席状態であるからよかったという残念な面と表裏一体で、人気があれば電話で予約を取るのも大変だろうし、そもそも売り出しと同時に売り切れとなるような状況なら観劇パスポートなる存在も生まれないわけで。
痛しかゆしではありますが、1月以降もできれば続けてほしい。コロナ禍が落ち着き、団体客などを受け入れるようになっても、少ない枠でもいいから継続をしてほしい。
もともとチケットを早めにとれるゴールド会員が3階の良席を買い占めてしまい、歌舞伎を初めて観る一般の人が売り出しの時にはすでに安いチケットがないという状況を何とかするために作られたという面もある観劇パスポートだと思われ。
その意味では大成功ではないかと思う。事実私が3階席を買わなかったことで、少なくとも3席は空席が生まれたはず。
寺子屋など、難しい古典と言われているものを、何度も何度も観て理解が深まる人が増えるのは歌舞伎の未来を考えることへのヒントにもつながると思う。
・学生にはぜひ学割を
そして、2階席の後方2等など、まだまだガラガラなので、ぜひ学生さんたちに何度でも見に来られるような安い学割チケットを販売してあげてほしい。
・できれば当日申込も受け付けて
前日5時までの予約受付なので、当日も席が空いているなら販売してほしい。【追記:2023年6月現在から電話の締め切りは前日4時になっています】
―――
こういう記事は、10月の観劇パスポート売り出し前に書けるとよかったのですが、すでに10月の売り出しはおしまい。その後、どうなるかは全く未定です。
もし今後も(いずれにしても襲名興行後になると思うので来年の話になると思うが)売り出されるようなら、御自身の働き方の状況などと比べて、購入の参考にしてください。
とにかく後1週間。どれだけ行けるかわからないが、私にとって忘れらない夢のようなひと月となったことは、間違いありません。