「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

当世流小栗判官~人間本来の生々しさ、歌舞伎本来のエグさを堪能♪

すごく面白かった。私の中では、最近見た澤瀉屋の芝居の中でずば抜けて面白かったし、最近見た「小栗もの」の中でもずば抜けて面白かったです。

前日飲んで4時間の浅い眠りで歌舞伎座に到着したにもかかわらず、観劇中、全然寝なかったというくらい、面白かった。イヤほんと。

これは、小栗判官と照手姫の恋と冒険のストーリー!です。もともとは説教節で、日本古来ある伝説の一つを歌舞伎化したもので、歌舞伎の作品の中でもスーパー歌舞伎になったり、そのほかいろいろな作品になっています。今回は、原作に比較的忠実で、さらに時間短縮のために、エッセンスは残し、無駄は省いたのが成功していたように思いました。

 

 

■登場人物

小栗判官 知勇に優れた武将 (猿之助
横山大膳 常陸の国を乗っ取る悪だくみ(猿弥)
浪七 小栗の元家来。忠義心あり(猿之助)←この二役がいいのよ
照手姫 小栗の許嫁。親の仇を討ちたい(笑也)
浪七女房お藤 (門之助)
胴八 お藤の兄(男女蔵
矢橋の橋蔵 ぼけぼけの小悪党(巳之助)
万屋娘お駒 小栗判官祝言の日に振られる(右近)
お槙 忠義と娘への愛に板挟みになる。もと横山家乳母(笑三郎
遊行上人 (歌六
遊行上人弟子一眞 (眞秀)

■あらすじ

小栗判官、暴れ馬を乗りこなすの巻

 常陸の国の領主は、小栗判官を娘照手姫の許嫁として迎え、ゆくゆくは後を継がせようと考えていました。

しかし、領主の弟横山大膳によってあえなく殺されてしまいます。横山大膳は、小栗をも殺して照手姫を奪い、常陸の国を乗っ取ろうと考えていました。

小栗を何とかして殺そうとしますが、知勇に優れているので簡単には殺せません。

 

そこで、鬼鹿毛(おにかげ)という馬に乗せてしまうことに。鬼鹿毛は、誰も手なずけることのできない暴れ馬の人食い馬でした。

 

ところが小栗判官は、いとも鮮やかに鬼鹿毛を手なずけてしまうのでした。

そして大膳親子の会話から、主の仇が大膳に間違いないことを知った小栗判官は、仇をとることを誓います。

  ★みどころ 暴れ馬もあっぱれ!

なんといっても暴れ馬を手なずけるところ。馬の動きがとてもリアルですし、馬は大きいので舞台上迫力があります。家来たちを蹴散らかして暴れる馬を、むちをたたいたり、手綱をひいたりゆるめたり、諭すようにぼんぼんと体をたたいたり、なだめながら隙をみつけて乗り、そして碁盤の上に馬と共に乗る猿之助のドヤ!顔がとてもいいですね。

お馬さんも、なかに二人はいっているわけですが、とても息が合っていて、殊勲賞をさしあげたいです!見得もしますよ♪

●照手姫をつかまえろ!の巻

照手姫は、危うく難を逃れ、漁師の浪七のもとにかくまわれています。浪七は昔お小栗判官の家来でしたから、小栗判官に対して大変な忠義心を抱いており、身命を賭して照手姫を守る覚悟。

ところが、浪七の女房お藤の兄、胴八は強欲な男、照手姫を見つければ褒美が出ると知り、なんとか照手姫を見つけようとします。浪七が昔小栗判官の家来だったことも知っていて、おそらく浪七を張っていれば、何らかのつながりがわかるだろうとやってきます。

そして、なんとかつかまえようとの悪だくみをする間抜けな3人組がチャリ場となっており、とてもおもしろいです。

しかし、最後には照手姫は胴八たちに見つかり、つかまってしまいました。胴八は、褒美をもらうために、照手姫を葛籠に閉じ込め、葛籠を担いで勇んで走っていくのでした。お藤は胴八の相棒と刺し違えて死んでしまいます。

  ★みどころ 志村けん降臨!?

コントのような、楽しいシーンが続くので笑いっぱなしでした。特に矢橋の橋蔵を演じる巳之助が…!

ひげつらぼうぼうの間抜けな悪党役で、しかも杖をついてよぼよぼ登場。

「あたしゃ、去年は猿之助さんの代役だってやったんですよ~、これでも」とか

「先月だって、この舞台で梅王丸をやっていたのに」とか「猿之助さんに騙された」とか、ぼやいたり、黒御簾さんに違う違うと文句を言ったり、とにかく爆笑です。

私は、長い杖をついて入口を入ろうとして突っかかってしまう。出ていくときはまたちゃんと突っかかってしまうという、古典的なギャグに、こらえきれずに大笑いしてしまいました。(昔の映像では、そのようにしていなかったので、今回のは巳之助オリジナル?(笑))

志村けんが降臨したかと思いました。

実は、3部ナウシカでナムリス役巳之助が出ておらず、大いにガッカリしていたのですが、1部でこんな役で笑いをとっていたとは…と、なんだかその役の幅の広さに感嘆。

ニンってなあに?というくらい、巳之助はなんでもうまいですね。

  ★みどころ 猿之助の腹の底から絞り出す「かー!見下げ果てたお人じゃなあ!」というセリフ

やっぱり、歌舞伎の醍醐味の一つがこの「ぐああああ!」という腹の底からの怒りの表出ではないでしょうか。漫画だったら後ろに顔を中心に縦線が入って、「ぐああああああ!」となるところです。後ろに炎が燃え盛っていたり。

ちなみに、「見下げ果てたお人じゃなあ」ではなく、

「みーさーげーはーてーた、おひとじゃなああああああああ!」です。ごごごごご。

●浪七、死をもって照手姫を救うの巻

胴八は、照手姫をさらって船で鎌倉を目指します。「やっしっし~、しし、やっしっし~」と舟をこぎこぎ先を急いでいた胴八ですが、そうはさせてなるものかと後を追う浪七。船を追いかけることもできず、見晴らしのいい岩の上に立ち上がり、なんとしても取り返すぞ、と腹を切り、その怨念で船を引き寄せます。ついに胴八を切り殺しますが、あわれ浪七も死んでいきます。

  ★みどころ「やっしっし~」

もう、「やっしっし~。しし、やっしっし~」の場面が美しい。「梅ごよみ」でもそうですけれど、本舞台から花道にかけてすべて波。そこを「やっしっし~、しし、やっしっし~」と舟を漕いでいく様は、本当に美しいのですが、これは1階より3階のほうが堪能できるかもしれませんね。

  ★みどころ 引き戻し

切腹してその念で姫様を助けようと思うなんて、現代人にはさっぱり理解できませんが、それほど強い忠義心なのですね。それにしても切腹シーンがすごいです。岩の上で切腹をするとドバーっと血が流れて、岩を伝って滝のように下に流れ落ちていきます。引き戻された胴八と、組んずほぐれずの戦い、やっつけたかと思うと、まだ死なずに狙ってくる胴八との壮絶な戦いです。最後は胴八をやっつけ、自身は岩の上から逆さになって落ちていきます。

 

す、すごい!

 

最後の最後まで照手姫に「早く、早く、逃げて」と手のひらで合図をしている浪七が、哀れで胸が痛いです。

 

この泥臭い演技と迫力。これこそ澤瀉屋の真骨頂ですね。

●照手姫と小栗判官の再会の巻

 照手姫は、何とか逃げて、萬屋という宿で下働きをしていました。慣れぬ下働きにベテランさんからはいじめられる毎日。(ちょっとシンデレラっぽい)

 

そこにはお駒という娘がいます。今度祝言をあげるということなのですが、なんとその相手の名前を聞いて照手姫はビックリ!「相手の名前は小栗判官」というじゃあありませんか。

実は、お駒の家には横山家に伝わる大事の重宝「勝鬨の轡」があり、それを知った小栗判官は、それを手に入れるために結婚を承諾したのでした。

その日、小栗判官はお駒の家を訪れて、照手姫が下働きをしていることを知り、大いに喜び、お駒との祝言は断ります。

  ★みどころ かわゆす照手姫

照手姫が、物陰から「え?小栗様?え?結婚しちゃうの?うそでしょ」とハラハラドキドキしながら、見ているところがかわいいです。

●お駒、小栗に祟るの巻

しかし、納得できないのがお駒。そりゃそうだ。祝言を上げるはずだったのに、急に断られて理由が「許嫁がいたから」と言われて納得できるわけがありません。

 

いやじゃ、いやじゃと泣くお駒。母お槙は、実は横山家に勤めていた乳母でした。そのため、勝鬨の轡も密かに隠し持っていたのです。そして、照手姫の乳母でもありました。

お槙にとっては、お家への忠義が勝りますから、娘のわがままを押さえるしかない。しかし娘はいうことを聞かない。そこでついにお槙は、お駒を殺してしまうのです。

う~んという展開ですが、役者さんの熱演により、違和感は感じません。まあ、いかにも歌舞伎らしいし。このへんあっという間。

お駒は恨みをもち、幽霊になって小栗にたたり、小栗は皮膚病となり、足腰がたたなくなってしまいます。

  ★みどころ ハラハラドキドキ三角関係と忠義と親子の愛のみつどもえの行方は?

小栗と照手姫の愛が、強かったともいえるけれども、母親、ツラ…。忠義を通せば親子愛はたたず。悲しやなア。お駒ちゃん、哀れ。

●小栗、熊野の遊行上人のもとへ行くの巻

小栗は、ボロボロの身体になって、照手姫とともに熊野の遊行上人のもとを訪れます。そして熊野の湯を浴びて傷が治りました。

 

いざ、横山大膳を討ちとりに行こうと思っても、常陸は相当遠いぞ。ところが護符の馬があら不思議、空を駆け巡ることのできる天馬となって、目の前に降り立ちます。すっかり元気になった小栗と照手姫は馬にまたがり、常陸の国を目指して空を駆けていくのでした。

  ★みどころ 眞秀くんを先頭に、坊主の群舞がかわいいっ!

お目目クリクリの眞秀くんは、まるで一休さん!よくとおる声と、天性の明るさでオーラ抜群!坊主軍団の先頭に立ってしっかり踊りを見せてくれます!「軍団の中の一人」ではなく、センターで、軍団に負けず存在感を出しているところがいいですね♪

  ★みどころ 飛んだよ。笑也。初日で1000回目の宙乗り

なんと初日で、笑也は1000回の宙乗り達成だそうで、すごいですねえ。そして小栗と照手姫の宙乗りは、最も美しい宙乗りと言われていますが、特に今回は、お馬さんの動きがとても自然で、本当に天を飛んでいるよう。とても美しかったです。ブラボー。

●横山大膳討ち取ったりの巻

あっという間に、常陸の国に着いた小栗と照手姫。ついに宿敵横山大膳を討ちとったのでした。

くるりと全員後ろを向いて、正面に向き直り正座。

「本日はこれぎり~~~~」

これがまたいいんですよね♪

■まとめ

猿之助の小栗、浪七の二役、どちらもすばらしかった。腹の底からとどろく声、全身の毛穴から血と汗が噴き出してくるような演技でした。

 

血がドバーっと滝のように流れたり、逆さになって落ちて行ったり、腹の底からの怒りだったり、愛だったり忠義だったり。

人間本来の生々しさをこれでもか、これでもかと見せてもらったような気がしました。一方で、コミカルな部分も十分あったので、途中でほっとしつつまた後半の怒涛の流れに身を任せていくことができました。

ハッピーエンドだし、複雑すぎて迷子になることもないし、子どもから大人まで、初心者から通までおススメできる演目でした。