「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

素浄瑠璃の会 錣太夫 藤蔵

23日(水)、錣の会主催 素浄瑠璃の会に行って来た。
藤蔵さんの熱演三味線が大好きで、文楽の時は人形もあるのに三味線をガン見をしてしまい、それは一体いいのか悪いのか。聞きほれてしまうのでイイも悪いもないと思うものの素浄瑠璃の会なら、思う存分ガン見ができるのだ。勢い込んで行って来た。

太夫さんは、襲名披露のときにパンフレットに金色のサインペンでサインをしていただいたのが思い出。それ以来、ちょっと意識して見ている。

演目は、ひらがな盛衰記 松右衛門内より逆櫓の段。がっつりとお二人の熱演が目の前で繰り広げられて、至福の時だった。しかも演奏終了後、トーク付き!贅沢の極みであった。

 

 

チラシもパンフレットもシンプルで。

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このチラシ。8月の種之助の踊りの会のチラシを思い出すような。パンフレットもシンプルながら逆櫓のあらすじ、演者の語る聴きどころ、錣太夫さんインタビューなどあり、無駄がないうえにとても読みごたえがあった。

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特に詞章までコピーまでしてくれてありがたや。私は以前の文楽のひらがな盛衰記のときの床本を持って行ったのだけれど、何もない人にとってはとてもありがたいことだったと思う。

ひらがな盛衰記。松右衛門内の段、逆櫓

松右衛門実は木曽義仲の忠臣である樋口次郎兼光と、義父権四郎との心の通う物語。

今回どんな演目にするかと考えたときに、錣太夫さんは、摂州合邦辻、すしやを候補に挙げたそうだけれど、藤蔵さんの意見が通って、ひらがな盛衰記になったという。その心は、「錣太夫さん、権四郎にぴったり。見てみたい」。

一途で孫思い、家族思い、人情味ありつつ曲がったことが嫌いの権四郎、確かに錣太夫が語ると、胸がぎゅーっと絞られて(汗もギューッと絞られる(笑))切なさが身に染みてくるよう。

〽権四郎の涙を老に噛みまぜて
〽身も浮くように泣きければ

といったところでは藤蔵さんも
「お~~~!」とも「ほ~~~!」ともつかぬ声を出し、二人で気持ちを一つに。

「お!う~~ん」
「は!」
〽見かわす顔と顔
のところでは、
「あお~あおあおあお!」
とエンジンフル回転。

 

また 逆櫓の段では
〽つなげる手舟の渡海造、

〽乗り戻さんと思ふ時

〽退く汐にもぢかうて、船に過ちある時は

のところでの流れるような三味線

 

そして、船をこぐ
やーっしっし、やっしっし。やーっしっし、やっしっし
のところの美しい旋律が心に残る。

今でも脳内駆け巡るやーっしっし、やっしっしだ。

トーク

義太夫は喉で語るのではない。体を楽器として腹で語る。ということは知識としては知っていたけれど、あの熱演のあとわずか10分の休憩のあとでのトークとなれば、抱いていたイメージは、汗ダクダクで声はガラガラ、息づかいはぁはぁ(笑)の、「お相撲さんの取組後のインタビュー」だったけれど、実際は全く違った。

太夫さんは、憑き物がとれたようにすんと落ち着いて、さっぱりとされていて、そして、声はとてもおやさしく深く、よいお声であった。

 

はー、本当に義太夫の声の出し方は普段の声の出し方と全く違うのだなあと妙に納得してしまった。

そして、あれだけ汗をかき、顔にしわ寄せ、口角泡を飛ばし、襟もとまでグショグショになって熱演をしていた錣太夫さんの、トークの時に見せる素顔はといえば、ちょっと恥ずかしそうにしながら、藤蔵さんに突っ込まれっぱなしのかわいらしい(といっては失礼だが)しころんだった。

 

三味線弾きは、すべて地を覚える

当初2月の小劇場の楽屋で素浄瑠璃の会の練習をする予定だったが、コロナのためできなかったとか、実は藤蔵さん右手の人差し指を傷めていたとか。それでどうしてあんな演奏ができるのか、本当に不思議だ。

太夫さんにとって藤蔵さんとは、道案内をしてくれる三味線弾きでとてもやりやすいそう。

三味線を弾く人はまず全部言葉を覚え、言葉の意味、音、語りを覚え、完全に頭に入っていないと、一旦ズレたときに戻れないそう。一方で太夫さんは、三味線を覚えることはない。

お互いに力を出し合ってひとつの完成形を作る、ジャズに近いような文楽太夫と三味線の関係だ。

糸が切れたら恥!

2月の公演中、「藤蔵さんの糸が切れた!」という投稿が多かったことに触れ、ついに藤蔵さん自らそれは違うとの説明があった。

演奏による糸の傷みはとてもはげしい。そこで三味線には糸蔵と言って、ある程度クルクルと巻き取って収納してある部分がある。「ほら」と藤蔵さん、三味線の糸をびよーんと引っ張ると、びよーんと長々と糸が出てきた。
「糸が切れたりする前に、糸を出して繰るのです。本当に糸が切れたら三味線弾きの恥です!」
とのこと。擦り切れた部分はクルクルと繰って、新しい糸の部分を出し、続けて演奏をするのだ。

「糸が切れた!」という投稿は、投稿本人にすれば熱演のあまり糸が切れたといういわば誉め言葉だったのだが、ご本人にとってはそれは誤解で、もし本当であれば恥でしかないということで今回丁寧な説明があった。

さらにチャレンジ

「まだ60歳にもなっていない。チャレンジを続けたい」と力強く語る藤蔵さん。7月には静岡でチャレンジングな会を催すようで、これでまた楽しみができた。

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