「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

今回絶品! 猿之助を堪能 義経千本桜 ~川連法眼館(かわつらほうげんやかた)

義経千本桜」は、前の年にできた「菅原伝授手習鑑」、翌年の「仮名手本忠臣蔵」と並んで三大名作と言われています。作者はいずれも竹田出雲、三好松洛、並木千柳の合作。

 

川連法眼館は全五段の長ーいお話のうちの四段目の最後の切の場面なので通称「四の切」と呼ばれています。とっても人気のある作品なのは、ストーリーの面白さ、早替わりやスピード感のある演出、美しさなどの見どころが多い故。
 
義経千本桜は、源平合戦にまつわる長いお話の中で、主人公は変わっていきます。二段目は平知盛、三段目はいがみの権太、そして四段目は狐が主人公です!


登場人物


 
源義経  平家との戦いで源氏に貢献したものの頼朝に疎んじられて、ただいま逃走中。 吉野山の川連法眼の館にかくまわれている。以前、伏見稲荷で初音の鼓を静に渡し、静を佐藤忠信に託した。
 
静御前  義経と別れていたが、吉野にいると聞き、忠信と共に会いに来る
 
忠信 静のボディーガードとしてついていた。はず。
 
川連法眼 義経が幼い時に育てていた阿闍梨の弟子。身をもって義経を守る覚悟。
飛鳥   川連法眼の妻。


それまでの話


 
義経と別れた静御前は、いったん京都にもどったものの、吉野に義経がいると聞き、忠信と一緒に義経のもとへと急いでいます。
 
実は、静御前を託した忠信は、子狐が化けたものでした。なぜ狐が忠信に化けているかと言えば、静の持っている鼓は、子狐の親の皮で作られたものだったのです。静が持っている鼓を慕って、子狐は忠信に化けてついてきたのです。


あらすじ
 


幕が開くとそこは川連法眼の館。
川連法眼というのは、鞍馬山義経若き頃、幼名牛若丸を守り育てたお坊さんの弟子。
会議で頼朝の味方と伝えてきたけれど、わが身に替えても義経を守ると決意を妻飛鳥に告げます。(ここ、従来と変わっていましたね。わかりやすくなりました)
 


義経登場。忠信と話がかみ合わない


 
そこへ忠信(本物)が義経に挨拶にやってきます。
 
義経は、恋人の静のことを忠信に託していたので恋人の安否が気になります。
「静はいかがいたせしぞ」と聞くのですが、忠信は「は?」といぶかしげ。
 
忠信が言うには、八島合戦のあと、母が病気になったというのでずっと、本国出羽に帰っていたというのです。頼朝と義経の不仲が決定的になったと聞き、せめてもう一度義経に会おうと思って来たんですけれど、何か?
 
というわけです。
 
義経は怒りますが、忠信にはわけがわかりません。
 


そこに静、登場。ますますおかしい深まる謎
 


「忠信は、どうした?」と今度は静に聞く義経
さっきまで一緒にいたのに、と見まわして、忠信をみて、あ、なーんだ。ここに来ていたのですか。もう、さっさと先がけてきてしまうなんて自分勝手なこと…。と静。
 
ますます訳がわからない忠信です。

 
初音の鼓を叩いてみれば 


ここらでやっと義経も、あれ?ここにいる忠信は、静とともにいた忠信ではないのかなと気づきます。
静も、忠信をよくよく見れば、
「そうおっしゃれば、どうやら小紋の模様も違うてある」と考え込む。
 
忠信が二人いることを不審に思った義経は、忠信を詮議するため、奥に連れていくよう申しつけ、静にはもう一人の忠信が偽物だったら命を奪うように言って短刀をわたします。
 
静が鼓を打ち鳴らすと、鼓の音に誘われるようにもう一人の忠信が登場します。
 
この時、揚幕から「出があるよ!」という声がかかります。
 
ドロドロ~っという太鼓の音とともに忠信の登場です。やはりコイツ怪しい!と静は感じ、斬りかかります。
ピュアな狐忠信の愛情にしんみり
 
静に責められ、ついに忠信は真実を語り始めるのです。
 
狐言葉といって、ちょっと妙ちくりんなイントネーションです。笑わないでくださいね。
なんと、静の持っていた初音の鼓は、この偽忠信の親狐の皮で作られていたのです。
桓武天皇の時代に雨ごいのために殺された雌狐と雄狐。その皮で作った鼓を打つと雨が降り、民百姓が喜びの声を初めてあげたものだから「初音の鼓」と名付けられたと語ります。
 
「その鼓は、わたくしの親。わたくしめは、その鼓の子で、ござりまする!」
「さてはそなたは、狐じゃな!」と静が指摘すると
「あーーーーー!」
あっという間に、狐忠信は舞台から消え、そして狐に変身して再登場します!
 
親もなく、6万4千の狐の一番下座でののしられさげすまれ、鳥だって親から礼儀をまなび、親孝行をするというのに、それすらできず。ただひたすら鼓について回っていましたと涙ながらに語る狐です。
 
本物の忠信が出てきたからには、迷惑が掛かってしまい申し訳がない。古巣に戻りまする。
 
せめてもの思い出に、大将より賜った名前源九郎をわが名前としてくださいませ…と涙を流して去ります。
 
義経は、自分の境遇とも似ているため、狐を哀れみ、呼び寄せるように言います。→この時また本物の忠信に早替わりしているので、見逃さないで。
本物の忠信も、母親を亡くしたばかりですから、狐の話をしんみりと聞き入ります。
 
呼び寄せようとしますが、今度は打とうとしても、鼓の音が出ないのです
〽 打てば不思議や音は出でず、上(ちい)と平(ぽう)とも音せねば
 
親子の別れを親も悲しみ、音を止めてしまったのでしょうか。
 

喜びの源九郎狐
 


義経が静と嘆き悲しむところへ、再び子狐が姿を現します。
 
義経は、子狐の親孝行の思いと静を守ったことをほめ、初音の鼓を子狐に与えてやると伝えます。
 
子狐は大喜び。鼓を転がし、いとおしみ、体中で喜びを表現するのです。
 
そして、はっ!とあることに気づきます。
そういえば、悪僧たちがこの館を夜討ちする計画だったっけ。子狐は神通力で僧たちを引き入れ、僧たちをやっつけて、飛ぶように去っていくのです。
 


見どころ


1 狐が愛しい


忠信は、本物の忠信、狐忠信で全く性根が違います。冷静沈着で武士らしく毅然としている本物の忠信、そして愛しい子狐の忠信。ただ単に衣裳を早替わりするだけではなく、性根の早替わりも見事です。今回の猿之助は本当に絶品ですね。
正体が明らかになると、狐忠信は、しゅんとして親への愛情を切々と語ります。愛しいですね。狐詞(きつねことば)は、狐のコーンという鳴き声をもとに考えられたと言われています。人間とは違う動物の話す言葉という雰囲気がでています。
母を思い、父を思い、ただただ純粋ピュアな狐に義経も心を動かされていく。私たちも同様ですね。
しょんぼりする子狐、親への愛情を切々と語る子狐、そして涙ながらに去っていく子狐、かと思ったら、また飛んで帰ってくるところなどは、本当にぴょんぴょんと狐が名残惜しく走りまわっているかのよう。
そして、鼓をもらってからの喜びよう。コロコロと鼓を回したり、クルクル自分が回ったり、鼓を上へ下へ、頬ずりし、とにかく喜びを表現します。なんてかわいいんでしょう。
 
そして、最後に荒法師たちをさんざん振り回してやっつけるところは、とっても得意げな顔。舞台上で猿之助狐はウィンクをしましたよ!
 
ああ、うれしいうれしい。鼓を抱きしめ、抱きしめ、空を飛んで行くときは、本当に幸せそう。まっすぐ行くのではなく、上に行ったり、下に下がったり、ぴょんぴょん跳ねて飛んで行きます。
 
鳥屋に入るときには、ブオ~っと大量の桜吹雪が舞いました。
 
いつも見にくい3階席の観客も、西側の席の2.3階席の観客も、みんな大喜びです。
はあ、めでたい。

 

2 義経、忠信、静、すべて美しい


 とにかく、美しい舞台です。義経は神々しく気品がある。静も美しい。本物の忠信はさっそうとしていて凛々しく、狐忠信はドロドロという太鼓とともに、手つきも動作も少々怪しさを感じさせます。でも性格は親を慕うかわいい狐です。
 
静は、今回雀右衛門でしたが、偽忠信を呼び寄せるときに打つ鼓が、「忠信め、出てこい」という感じではなくて
「いつもみたいに忠信出てくるかな」ポンと打ってはドキドキ。「出てくるかな」。またポンと打ってはドキドキ、という感じでとてもかわいかったです。

 

 
3 忠信と狐忠信、源九郎狐への早替わり


 
忠信と狐忠信は、一人二役です。だから、忠信は二人ですが、決して同じ舞台にはいません。必ずどちらかは引っ込んで、着替えて出てきますが、早い…。偽忠信から狐になるところが、とにかく早い。。歌舞伎の早替わりのすごさは、役者はもちろん裏のスタッフの努力の賜物。今回も引っ込んだと思ったら出てくる、そのスピード感を楽しんでくださいね。それから狐がどこから出てくるかも注目ですよ。
忠信と狐忠信も着替えが必要ですが、さらに狐になると「毛縫い」というぬいぐるみみたいな着ぐるみのような衣裳に早替わりです。


4澤瀉屋の四の切


四の切はお家の型がいろいろです。狐が最後に引っ込むところは、お家によってさまざまですが、何といっても派手なのは澤瀉屋です。これは昭和43年に、3代目猿之助(現猿翁)が4代目市川小団次の宙乗りを復活させたものです。源九郎狐は鼓をもってはしゃぎながら宙に消えていくのです。
 
特に今回特筆すべきは、コロナ禍で宙乗りができなかったのが2年ぶりに解禁されたということ。猿之助自身も2016年以来の四の切の宙乗り。気合が入っています。
 
澤瀉屋の派手な演出に慣れてしまうと、他の家の型が物足りなく感じる方もいるかもしれませんが、私はどの型も好きです。どれも狐の親を思う気持ちがいっぱいこめられたひっこみです。
 
舞台がはねると、観客は「ああ、すごかったねえ」「すごかった」と口々に言いながら歌舞伎座を後にしていました。皆、とても幸せそうな顔をしていました。
 
私が2回目を見たのは、日曜日。


かわいいかわいい狐を堪能して、帰宅。録画しておいたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」をみたところ、文覚演じる薄汚れた猿之助がどくろを蹴っ飛ばしていたので、そのふり幅に驚きました(笑)。