岩戸の景清は、河竹黙阿弥作。神話の天照大神の話がベースにありつつも頼朝と景清の話がないまぜになっていて、こういうしっちゃかめっちゃかなところが歌舞伎は面白いですね。
外題は「難有御江戸景清」です。
7代目市川團十郎お帰り!!と江戸市民が熱狂した演目
作られたのは嘉永3年(1850年)です。1842年に7代目市川團十郎が天保の改革によってその贅沢を見とがめられて、お江戸追放になったのですが、それが許されて江戸にもどってきたことを記念して作られました。それにしても8年も追放されていたなんて、長いですよね~。いったい何をしたのでしょうか。二人の愛人とともに豪邸に住んで贅沢三昧をしていたとのことですけれど、それで8年間追放とは…。
あらすじ
あんまりあらすじを気にしなくていいような演目ですけれど一応。
天変地異のため世の中が、真っ暗闇となってしまう。どうやら原因は江ノ島の岩屋にあるらしい。
そこで源氏の侍たちが集まって、洞窟の前で闇を払う神事を始め、力持ちの北條義時がギギギと岩をどけると、ど~んぱ~っと景清が登場します。
初演のときにはバーンっと登場したのが、しばらくぶりに江戸にもどってきた市川團十郎だったというのですから
「おおおお!」
「待ってました!」
「お帰り!」
と江戸の市民たちは熱狂したことでしょう。その興奮、想像しただけでワクワクしますね。
さて、岩屋の中にいたのは悪七兵衛景清。頼朝を狙って岩戸に隠れていたのです。
景清は、歌舞伎十八番のひとつ「景清」でもでてきます。いずれにせよ、「頼朝を狙う」「隠れる」「暴れる」が基本のようですね。
景清は、平家の重宝小烏丸という宝刀を持っていました。この刀をさっと抜くと、ぱーっと世の中が光り輝く。鞘に納めるとまた真っ暗闇に…。それで世の中暗くなっていたというわけです。
景清が小烏丸を鞘に納めたため、また真っ暗闇に。そこで暗い中、まさぐりあう「だんまり」。探り合う中で刀が抜かれて、世の中に光がとりもどされます。
景清を囲む軍兵たちと景清が立ち回り。やあやあと振り払う景清に、頼朝から、日向の国に所領を与えるので従うようにという命令が伝えられます。景清は一旦は断るものの、その命令が観音菩薩からの命であったことを知り、従うことにします。そして豪快な八方で去っていきます。
見どころ。
今年ならではの見どころが多いですが。
浅草組勢ぞろい
浅草組というのは、毎年正月に浅草公会堂でうたれる若手中心の座組。若手はなかなか大きなお役をもらえませんから、浅草は大きな役をもらえ、のびのびできる公演です。次第に卒業しますが、今の浅草組は、松也を座頭にして、巳之助、新悟、米吉、歌昇、種之助、橋之助らがメンバーでした。このコロナ禍で、浅草は昨年、今年と中止を余儀なくされています。そのかわり正月の歌舞伎座で若手のみの演目が用意されているのです。浅草でできないのは残念ですが、このメンバーがそろって一つの座組を歌舞伎座でできるというチャンスもなかなかないのでうれしいですね。
岩戸の中からど~ん、ば~んと景清が出てくるところは、やはりそれなりに存在感が欲しいですね。
だんまりではたっぷりと、若々しい俳優たちをご覧くださいな。
鎌倉殿の13人のメンツも。
大河では坂東彌十郎さん演じる北條時政が巳之助。
小栗旬演じる江間(北條)小四郎義時が種之助。
岡本信人演じる千葉介常胤が莟玉。
景清は出ないのかな?
とゾロゾロと大河でおなじみの名前が出てきます。しかし、その風体の違うこと違うこと!
歌舞伎の衣裳って面白い!歌舞伎の隈取って面白い!と、どうぞ大河ドラマと見比べて、驚いてください!
千葉介常胤なんて実際は、白髪でひげを伸ばしたじいさまなのに、歌舞伎では前髪の美少年。
「莟玉なら(かわいいから)前髪だろう」ってことになっちゃったらしいですよ。(某配信にて聞く)
鎌倉殿の人気にあやかった演目というわけではないですけれども、やっぱりドラマでやっている登場人物が出てくると、楽しいですね。しかも全然違うという。
松也か猿弥か、猿弥か松也か。はたまた…
オミクロン株が増えてきて、やれ陽性だ、中止だ、まんぼうだと世の中が騒がしいわけであります。そんな中、岩戸の中からバ~ンと出てくるはずの松也くんが、濃厚接触の疑いで14日から休演となってしまいました。14日から急遽、主役の代役を命じられたのが、我らが猿弥ちゃんです。
猿弥は、なんとその日の午前中に代役の依頼を受け、6時からの本番に臨んだわけですが、初日から堂々と立派に主役をこなし、大絶賛を浴びました。
よく知っている役なのかな、何回か見ているのかなと思いきや、当日に言われて笑三郎さんに電話が来て
「代役たのまれちゃったからお稽古いけないけどいいかな。俺全然見てないから全く分からないんだよ」と言っていたというから驚くではありませんか。(笑三郎ブログより)
そして6時の本番にはバッチリ決めるという…。
1月の舞台ではほかにも何人か陽性者や濃厚接触のための休演が出ましたが、どれも代役ががっちりこなし、さすが歌舞伎役者の底力と、改めて認識を新たにした人も多かったようです。
さて、私は13日の松也の景清を見たあと、23日にもう一度3部を観に行きます。23日は、松也なのでしょうか。猿弥なのでしょうか。
浅草組の座頭として引っ張ってきた松也のど~ん。パ~ん。ピカ―!をもう一度観たい気持ちもありますし(23日の方が良席なので六方が見られる!)、大評判の猿弥の景清も、なかなかないことですし、観てみたいです。さて、どちらの景清になるのでしょう。当日までのお楽しみかな。
千穐楽までには松也も登場すると思いますが、それこそ
「おおおお!」
「お帰り!」
「待ってました!」
となり、声は出せずとも、拍手いっぱいになることでしょうね。
皆様どうぞご無事で。
【追記】
1月22日より、座頭松也復帰!おめでとうございます。
そして猿弥さんご苦労様でした!