「神の鳥」は、2014年に兵庫県の出石永楽館で初演されました。2018年に、永楽館で再演され、3回目の今回が初めて歌舞伎座での上演です。いずれも主演は愛之助です。
出石永楽館とコウノトリ
出石永楽館とは、明治34年に開館し、近畿では最古の芝居小屋です。
昭和39年に閉館していましたが、平成20年に改修して復活。私もまだ行ったことはありませんが、ホームページを見ると古風なとても趣きのある芝居小屋ですね。行ってみたいです。
「神の鳥」は、出石にちなんで作られた新作だそうですが、なぜ出石にちなんで神の鳥なのでしょうか。
実は永楽館のある豊岡市は、コウノトリ最後の生息地で、半世紀にわたってコウノトリの「いのち」をはぐくむ取り組みが行われ、今では100羽以上のコウノトリが暮らしているそうです。
それで豊岡にある永楽館で「コウノトリ」をモチーフにした新作が作られたのですね。
あらすじ
但馬の国の守護大名・赤松満祐が、出石神社で天下掌握を祈願する宴を催しています。献上されている生贄は、神の使いと言われる「コウノトリ」。駕籠に入れられ、吊り下げられています。
「足利
義教を討ち果たし、天下を取って、寿命がのびる神の鳥を生贄にし、酒の肴に。心地よきかな」。
得意満面の赤松満祐役は、東蔵。いつもの慈悲深いお母さん役などとは違い、ちょっと辛そう。
神官竹部が、「本日は生きているものを解き放つ放生会です。殺生はやめて」と止めるのですが、「黙れ!」と一喝されてしまいます。あわや、コウノトリちゃんは、食べられてしまうのか。
そこに、一瞬舞台が暗くなり、ドロドロで、明るくなると、花道に狂言師2人の姿。すっぽんから出てきたので、生身の人間ではないですね。
2人の狂言師は「あやしい奴」と行く手を阻まれますが、舞を奉納しに来たと言うので、満祐も「舞え舞え」と喜びます。
狂言師ふたりに、二木入道や傾城柏木も加わり、3人になったり、2人になったり舞い踊りつつ次第に駕籠に近づき、手綱に手をかけ駕籠をおろすと、駕籠の中からコウノトリの子どもが出てきました。子役のコウノトリちゃんがかわいいです。
親子で家来たちにつかまりそうになったところで、「まて~い」と大音声。山中鹿之助の登場です。「暫」並みの迫力の登場で、悪い奴らをバッタバッタと倒し、コウノトリの親子は無事、空に帰っていきます。
舞踊劇仕立てではあるけれど、ぶっかえりあり、早替りあり、そのあと大立ち回りあり。テンポよく初心者にもわかりやすく、色彩も鮮やかで歌舞伎みがたっぷり。だれでも楽しめます。
神の鳥に扮するのは愛之助と壱太郎。二木入道が種之助。
見どころ
京鹿子娘道成寺を思わせる
2人の狂言師は花道に登場し、踊りながら、時々チラッチラっと駕籠に閉じ込められている生贄のコウノトリを見上げる様子は、まさに道成寺。
常に気持ちは、鐘…じゃなかった駕籠、駕籠の中の我が子にあるのでしょう。両親の情の深さを感じます。
コミカルな二木入道
赤松満祐の家来である二木入道は、鯰坊主の拵え。
鯰坊主というのは、歌舞伎十八番「暫」に登場する鹿島入道の通称です。敵役でありながら道化の要素を併せ持つ「半道敵」(はんどうがたき)の代表例です。(中略)
隈取は鯰隈(なまずくま)と呼ばれます。(歌舞伎辞典・文化デジタルライブラリーより)
頭のてっぺんはツルツルだけれど、もみあげから長い三つ編みの毛が伸びているという不思議なヘアスタイル笑。
仁木入道は、強いものに媚びへつらい、権力者の後ろからあっかんべをするようなやつです。演じるのは種之助。ちょうどナウシカの時の道化を思い出します。
体幹が強く、手足がよく広がって、のびのびしたコミカルな動きを見せてくれました。
また、コウノトリちゃんを追いかけて捕まえようとするいじわるな顔、傲岸不遜な顔、捕まえられずに逃げられちゃってバツの悪そうな顔など、小悪党なのに憎めない鯰坊主です。
二木入道がナウシカのときの道化を思い起こさせるなら、コウノトリちゃんはオームの子をちょっと思い出しました。ナウシカからあっという間に2年がたちますね。
羽ばたく様子はまるで本物のコウノトリのよう
狂言師がぶっかえりでコウノトリの姿を現します。衣裳は全体が白で袂が黒く、コウノトリを模しています。ハタハタと袂を羽ばたかせて舞い踊る様子は、本当に鳥のようです。後日、コウノトリの映像を見たのですが、まさに体は白く、羽の先だけが黒く、ハタハタと飛ぶ様子が優雅で、ほれぼれしてしまいました。舞台上のコウノトリ親子も本物によく似ていて、ハタハタと羽を羽ばたかせて踊る様子は、美しいですよ。かかさまの壱太郎が特に美しい羽ばたきです。
早替わりで狂言師から山中鹿之助へ。
親のコウノトリを演じるのは愛之助と壱太郎と書きましたが、実は愛之助は山中鹿之助となって、堂々と花道から出てくるので、あれ?舞台上にいるコウノトリのととさまは?となります。コウノトリの途中で別の役者に変わっているのですね。私もうっかりして気づきませんでしたが、いつ替わっているのでしょう?興味があれば、しっかり見てみてくださいね。
山中鹿之助は「暫」のごとき登場で
「まて~い!」の大音声とともに登場する山中鹿之助はやっぱりかっこいいわ。悪をくじく「暫」に出てくる鎌倉権五郎景政のよう!愛之助、堂々として立派な鹿之助です。3回目の「神の鳥」でもあり、自信たっぷりに演じています。
そして、「天下泰平。疫病退散!コロナ収束!」と高らかに宣言すると、観客席からは手も破れよとばかりに拍手大喝采です。
やっぱり、こういう時期、こういうお芝居がうれしいですね。
「但馬の主人の留守をいいことにコソ泥満祐め~!一人残らず玄武洞に放り込むぞ!」と仁王立ち。立ち回りの末、あっという間に皆々切り伏せてしまいます。くるくるトンボを切って降参する悪い奴をやっつけていく様は、胸がすきます。
美しい絵面の見得で、幕。
衣裳美しく、華やかで、悪い奴をやっつけて楽しい「神の鳥」。ここまで書いておいてなんですが、予習も不要なので、ぜひ楽しんでくださいませ笑。
小さな子どもにも見てほしいな♪
第1部 上演時間
神の鳥11:00~12:04
井伊大老 12:24~1:06
チケットはこちら。