「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

ふるあめりかに袖はぬらさじ~紛れもない傑作だ!

何回観ても面白い。抜群に面白い。誰にでもおすすめできるし、予習なんていらない。

というわけで、本日はこちらをご紹介。今日、観てきました。

原作(有吉佐和子)よし。編集(玉三郎)よし。役者(玉三郎)よし。の紛れもない傑作ですね。

 

 

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この画像を見て、このタイトルをみて、どんな内容をイメージしますか?

悲恋とか。時代に翻弄される哀しい女性の話とか…。

 

それも当たらずとも遠からずではありますが、そんなイメージとは全然違うコメディアンヌ玉三郎を満喫できるのがこの作品です。喜劇といっていいのかな。

 

作品

有吉佐和子杉村春子にあてがきして書き下ろした作品。初演は文学座で1972年。玉三郎は、16年後の1988年、中日劇場で主演。その時は新派や、川崎麻世(藤吉役)などが脇を固めた。歌舞伎座で歌舞伎俳優のみで上演されたのが、このシネマ歌舞伎となっている2007年版。その後、歌舞伎俳優オンリーではやっていないので、貴重な映像と言える。またやってほしいけれど、3時間なので、今のコロナの状況だと難しいかも。カットはしてほしくないし。

お話

幕末のころ。横浜では外国人居留地ができて、にぎやかだけれども攘夷派と佐幕派が常に一触即発の緊張状態。商人たちは、攘夷派と佐幕派の顔色をうかがいながら、生きている。

 

そんな中ひっそりと自殺した岩亀楼の遊女亀遊(七之助)がいた。その死がひょんなことから「アメリカ人の身請けを拒んで自決した攘夷女郎」と瓦版に書かれる。事実ではなかったが、岩亀楼主人(18勘三郎)はそれを利用し、攘夷女郎の自決を目玉にして、客を呼ぶ。

 

お園(玉三郎)は、したたかに生きてきた芸者であったから、主人に合わせてどんどんストーリーを膨らませていくのだが…。

 

NHK大河ドラマの青天を衝け!の時代のころで、(ドラマはすでに明治になってしまったけれど)ドラマでも出てきた儒学者大橋訥庵先生(ドラマでは山崎銀之丞)が、出てこないけれどもとっても大事なキーマンとなっている。

 

見どころ

とにかくおもしろいんだ

玉三郎の演ずるお園は、苦労を重ねて吉原から横浜まで流れてきた芸者だけれど、酒好きの気のいい女で、お客に請われればあたしゃなんでもやっちゃうよ~というサービス精神の旺盛な人。ちょっと沢村貞子っぽい感じ。

最初は瓦版に、事実と異なることを書かれていて違和感を覚えるお園だが、主人に「客商売なんだから、お客が喜ぶように、求めていることをやらなくちゃ~だめだよ」なんて言われて、ようがす、承知しましたとばかりに、どんどん「亀遊は攘夷女郎でありました」という話がエスカレートしていくところがめちゃくちゃ面白い。

 

同じ話が、月を追うごとにどんどん盛られていく。

深川芸者の子であったはずが、浪人の娘→武士の娘→水戸藩の娘

亀遊という名前も、いつの間に亀勇という勇ましい名前に。

書いてもいない辞世の句は掛け軸に飾られ、小刀で喉をついたときの再現シーンなどどんどん演技が細かくなり、後見つきの講談まがいの一幕劇場になっていく。

しかし、調子に乗って話すうちに、ウソをついて話を盛っていたことがばれてしまう。

 

京都に行くと、幕末の乱闘の後の刀傷や血天井の跡を口跡麗しく語ってくれるお寺などがあるけれど、ちょっとそれを思い出した笑。

 

ただ、お園はお調子者というだけではないのが作品に厚みを持たせてくれている。

本当に亀遊さんをかわいがっていて大事に思っていたけれど、お園にしても岩亀楼主人にしても生きるために必死で、その必死さが笑いを誘うのだ。

勘三郎玉三郎との掛け合いは、息もピッタリで、本当にこんなちょっとこずるい商人いそう。てかいるでしょう。

 

今の時代とちょっとシンクロ

 

今は、そりゃあ意見が違うからと言ってすぐに刀を振り回す人なんていないけれど、右だ左だ、〇〇と言えば反〇〇がいて、言葉の刃で人をぐっさり刺すことも多い。それを恐れて、思うこともはっきり言えなくなっている人も多いだろう。

攘夷浪人たちが怖くて、とっとと「攘夷遊郭」に衣替えをして異人口(外国人専門)の遊女たちを追い出す岩亀楼主人を、私たちはどうして笑うことができるだろう。と思いつつ、面白いから笑う(;^_^A

 

脇役にも注目!

 

今回久しぶりに見て、脇役のウォッチングがかなり楽しかった。

今から14年前の2007年の作品。

福助も、寿猿も元気に熱演。笑三郎河合雪之丞市川春猿)、美し~!

若手は、海老蔵も新派に移った喜多川緑郎(市川段治郎)もりりしく若々しい。

勘九郎勘太郎)も役どころが初々しいんだけれど、はつらつとしている。

亀遊は七之助だけれど、当時24歳。演技力はこのころからすでに到達している感じで、改めてすごさを思い知る。

亀遊が思いを寄せる藤吉は獅童。これまた若々しい。

 

そして、松也と新悟が…!笑

このふたり、異人口という、異人相手の遊女を演じている。異人口というのは、異人のみ相手にする遊女だから、なり手が少ない。つまりあまり美しくない人々なのだ。本当は異人口って哀しい話だけれど、ここは派手な衣装や化粧で笑いを誘う。

松也は、バタフライちゃん。初めて遊女になったばかりの恥じらいがキュート!?当時22歳。新悟はピーチちゃん。新悟当時17歳!?

2人ともちょい役ですが、がっつり印象に残ります。

 

 

玉三郎の演技は、笑わせに来ていないからこそ面白い。大真面目だから面白い。そして、キューンとなる。

ぼーっと鳴る汽笛、ざーっと降る雨に様々な思いを乗せて、幕。

 

3時間で見ごたえたっぷり。あっという間。いつかまた舞台で観られますように。

 

今回のシネマ歌舞伎、明日まで。10時~13時まで

 

さて、東劇を出ると13時過ぎ。おなかも減ったので、築地場外市場に行ってご飯を食べて帰る。

意外と高いのね。1000円以下で食べられるところを探しました。

 

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▲中落ち丼800円

 

帰路、歌舞伎座の前を通る。11月の顔見世の準備はすんでいるけれど、絵看板はまだ10月というレアな写真が撮れた。

 

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今日のようないいお天気が続くといいな。