1部、楽しかった!
10月演目の紹介記事でも書いたように、今回の天竺徳兵衛は「天竺徳兵衛韓噺」ではなくて、「天竺徳兵衛新噺」。タイトルに天竺徳兵衛ってあるのに、天竺徳兵衛が出てこない。大きなガマガエルも出てきません。
天竺徳兵衛のせいで、お家が没落しちゃったという背景が、少しセリフのなかで出てくるくらいです。
もともとの天竺徳兵衛の話は鶴屋南北作。こちらに同じく南北の書いた彩入御伽草を入れて、練り上げた脚本を昭和57年に奈河彰輔が書き、3代目猿之助が上演したのが本作。今回は、さらに小平次の怪談話に特化した短縮版で、演出も変わっています。
実は10月の演目発表のときには、「9月の四谷怪談に続いて、またお化けか~」と思ったのですが、見てみるとエンタメ性に吹っ切った面白い作品となっていました。
簡単なあらすじ
諸国巡礼の旅に出ていた小平次。予定より早く家に帰ってみると、なんと女房のおとわは、馬士の多九郎と深い仲になっており、邪魔になった小平次は惨殺されます。おとわと多九郎に恨み骨髄の小平次は、幽霊となり、二人を襲います。紛失していたお家の重宝も絡んできます。アイテムとしては名鏡です。最初沼で多九郎が拾い、その後幽霊になった小平次がポロンと出して十郎に渡す赤い鏡がそれです。
見どころ
殺す人と殺される人の早替わりってなんだよ!すごいな!
なんといっても、小平次とおとわの二役をやってのける早替わりです。今回、猿之助です。
小平次は多九郎に殺されますが、なかなか死にきれません。そこへやってきたおとわが、とどめを刺し、なおも絡みつく小平次の指を一本一本切り落とすという残虐な場面がありますが、これ小平次とおとわが、一人二役です。
切られて沼に堕ちてまた這い上がりというところで、たたた~っと花道から出てくるおとわ。えええ?今沼に落ちていたのに~。おおお。と歓声が上がると、くるっと七三で止まり、振り向く。
そしてそのときの「ドヤー!!」って顔が猿之助らしくて、キマってます。お見逃しなく。
早替わりというのは、以前にも書きましたが、早替わりショーになってはいけないと言われています。心根まで変わってこその早替わりであって、男から女、醜から美。泥だらけの小平次から美しいおとわ。性格も全く違う役へあっという間に変身するので、意外性があるのですね。楽しいです。
幽霊になったあとも、早替わりは大忙しです。幽霊は蚊帳の中で寝ているおとわにとりつくために、蚊帳の中に入ったと思ったら、もうおとわが出てきます。瞬間のように見えますが、トリックがあるのですねえ。
もちろん多九郎も、まんまと幽霊にやられます。多九郎も意外と怖がりで、最初はワルぶっていたのに、お化けに襲われると腰抜けそうで、あたふたしていておかしいです。(巳之助)
ひゃひゃひゃひゃ~と笑って移動する幽霊がこわいこわい。
おとわの悪女っぷり、たまらん!
おとわの悪女っぷりはもう、猿之助に極まれり。
亭主がいない間に男を作るその色気。
男とデキてしまえばもう亭主なんざいらない。
それならば殺してしまおう、絡みついてくる手があれば、一本一本指を切り落とすまでさ。というその冷酷さ。
そのあとに色男がくればまたちょっと色目を使うしたたかさ。
いやもうすごいです。猿之助の悪女。と書きましたが猿之助は悪女だけではなく、イイ女もまたうまいですよ。要するにうまい。
いよ~~~おとわや(違います。澤瀉屋です)
人のイイ小平次もお化けになるとしつこいぞ
まんまと女房を寝取られた人のいい小平次でしたが、切られても殴られても、石を投げつけられても沼に落とされてもなかなか死にません。その辺結構しぶといです。幽霊になっても結構しぶといです。恨みはらさでおくべきやー。こういうタイプは敵にすると大変。しつこくしつこく追ってきますよ~。てか、人をだましてはいけません。
だんまりでの探り合い
だんまりというのは、敵味方同士、鼻つままれてもわからないような闇の中での探り合い。足の指さきに目があるように動くのが口伝だそうです。
必ず事件の証拠になるようなアイテムがそこで出てきて、敵から味方の手へ、あるいは味方から敵への手に渡ります。今回は、おとわが投げつけたかんざし。これが後の場で、十郎が出し、おまきが「それはおとわのモノ」ということで、おとわが小平次を殺した犯人であることがばれちゃうのですね。
おまきちゃんの純愛。「びびびびび~~」がかわいい
今回米吉が演じるおまきちゃん。小平次の妹です。お兄ちゃんが帰ってこない間、義理の姉がやりたい放題やっているのをうっとうしく見ている妹。
ある時泊めてほしいと来た侍(尾形十郎 松也)に、最初はにべもなく断ろうとするのですが、一目見たとたん、そのイケメンっぷりに恋に落ちるのですが、まあかわいい。押せ押せムードで迫ったり、邪魔をしようとするおとわに対抗意識を燃やしたり。とてもかわいらしいのでおまきちゃんの「びびびびび~~~」を見てあげてください。
テンポもチームのムードもいい
今回の「天竺徳兵衛新噺」はテンポもよくて、猿之助以下役者全員のチームワークというか全体の雰囲気がとてもいいなと感じました。皆さんとても楽しくやれているのではないでしょうか。
本来は、花道上での葛籠抜けの宙乗りなどあるらしいですが、舞台上の宙乗りだけでも結構盛り上がります。なんといってもお化けの裾が長くて長くて…。
怖いけれど、楽しくて、ちょっと笑えて、満足できる「天竺徳兵衛新噺 小平次外伝」でした。
四谷怪談は、お岩ちゃんがかわいそうで、暗いけれど、「天竺徳兵衛新噺 小平次外伝」は、カラっとしていて明るいです。
余談ですが、四谷怪談の時と同じように、この芝居でも必ず上演前は所縁の神社にお参りに行くのが通例。というのも、このお芝居でもお参りをしなかったときには何かと災難があったそうで、3代目猿之助は、お参りをしていなかったときに沼に落とされて格闘する場面で足の指を骨折したそう。
しっかりと回向院にお参りを済ませたそうですが、どうぞ千穐楽までご無事に上演ができますように。
1部はこのあと、俄獅子ですが、圧倒的イケメンの鳶頭松也と、いなせな姐さん笑也、ちょっとおぼこい新悟が美しいです。
傘の所作立てが気持ちよく決まります~~。
上演スケジュール
初日10月2日(土)→千穐楽10月27日(水)
休演日7日(木) 19日(火)
1部は
- 11:00~12:48
チケット金額、売り場
1等席15000円
2等席11000円
3階A席5000円
3階B席3000円
1階桟敷席16000円
にて購入できます。
歌舞伎座アクセス
◯ 東京メトロ銀座線・丸ノ内線・日比谷線 銀座駅[A7番出口]徒歩5分
◯ JR・東京メトロ 東京駅 タクシー10分
感染予防対策
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