10月5日。国立劇場で伊勢音頭恋寝刃を見ました。
前回見たのは2017年4月の歌舞伎座でした。
今回の印象が、前回とはまた全然違ったので、なかなか歌舞伎は面白いなあ、これだからやめられないなあと感じる次第です。
前回の印象は「万野、ヤバ!」「貢、ヤバ!」「うちわパタパタきれい」でした(雑すぎ)
前回と比べると、奥庭の場での華やかな踊りの美しい場面がないのがとっても残念!
そのほか登場人物に従ってみてみます。
あらすじ、見どころについてはこちらを読んでくださいね。
万野 前回万野との違い
前回の万野は猿之助でした。この万野がめちゃくちゃいじわるで、憎らしくて本当にやばかったのです。今回は時蔵で、前回の猿之助ほどは性悪な女ではないような万野でした。
同じセリフ、同じ態度で、たばこだってプーっと吹きかけているのに、どうしてこれほど違うのか不思議です。時蔵の万野は、ちゃきちゃきしている女将さんでちょっと小ずるいところもあるけれど、てきぱきしていて目鼻がきくから商売は繁盛するんだろうな、的な感じ。どちらがいいとか悪いとかではありませんが、面白いなあ。
ちなみに婦人画報のインタビューで、時蔵さん「お紺がやりたかったのでは?」と聞かれて「代わりたいか? まさか(笑)。お紺より万野の方が演じていてずっと面白いし、僕は好きです」と答えていました。皆さん、万野が好きなのね。
お紺 梅枝の成長
一方で、今回一番ヤバかったのは、お紺の梅枝でした。本当に美しすぎて。いつも梅枝を見ていると「浮世絵から抜け出たような」と思いますけれど、今回もまさに。
毅然と現れたところ。ここは、覚悟を持っているから凛としていて。
少しうつむいて横座りして、お鹿ちゃんの話を聞いているところも。
どこもかしこも美しすぎて、オペラグラスから目を離すことができませんでした。で私はもっと回りの状況を見ようと思っていたんですが、梅枝お紺に釘付けとなってしまったため、まったく周りをみておりません!あしからず!
ちなみに、前回のお紺は、全然印象に残っていないのですが、いったい誰だったのだろうと思って調べたら、同じ梅枝だったのです。これって、すごく成長したということでは??
いやあ驚きです。
お鹿 奮闘歌昇
お鹿ちゃん、歌昇です。熱演ですよね。「参っております、困っております」とパンフレットに書くほど初の女方に苦労したようですが、哀れなお鹿ちゃん、目に焼き付けました。純愛を踏みつけにされて、本当にかわいそう。
お紺との対決では、美醜対比で、お鹿ちゃん、圧倒的な敗者でした。圧倒的が正しい。
死ぬときだってお鹿ちゃんは、圧倒的にかっこ悪いのです。万野なんて悪役なのに、死ぬときも様式美というかふすまに手をかけて、つつつ~っと余韻を持たせて流れるように倒れますが、お鹿ちゃんなんて、カポンって感じ。本人も気づかぬうちに首と胴体が離れていたんじゃないかと思うほど、あっけない死にざまで、それが余りにもお鹿ちゃんの人生を考えると、残酷で哀れでなりませんでした。歌昇くん、熱演でした。
奴林平 走る萬太郎
よくとおる声の萬ちゃんは、時蔵の次男で梅枝の弟です。本人は割とぶつくさネガティブ系、インドア系ではないかと推察していますけれど(非難ではないです!好きです)、林平は気のいいまっすぐないい男。気持ちよく悪い奴を追いかけて追い詰めて、主のために走って走って走りぬきます!ほんと、声がよくとおるから気持ちがいい。
藤浪左膳と喜助 誠実な又五郎
どちらも真摯なお役。又五郎さんにぴったりではありませんか。忠臣蔵の平右衛門とかお江戸みやげのおゆうみたいな明るいお役もぴったりだし、こういうお家のためにあれこれと画策、やるべきことをきちんとこなすお役というのもぴったり。要するに上手なんですよね。
最近痩せていて心配です。
喜助はラストに、青江下坂の血を手ぬぐいで押さえて「お見事」で幕。これも決まりましたねえ!やんややんや。
やむにやまれぬ福岡貢 梅玉
前回は幸四郎で、今回は梅玉。どこがどうかとうまくは言えませんが、幸四郎の方が狂気になったときのヤバさは際立って、本当の狂気のような感じ。梅玉の方が正気が残っていて、やむにやまれずみたいな哀しみが強いような気がしました。どっちがいいとか悪いとかではなく。
でも、おもしろかったですねえ。伊勢音頭、多くの人に見ていただきたいです。