「初めての歌舞伎を楽しもう」munakatayoko’s blog

すばらしき日本の芸能、歌舞伎。初心者にわかりやすく説明します♪

伊勢音頭恋寝刃 前半楽しい。後半シビア あらすじとみどころ

緊急事態宣言も解除されましたね!
とはいえ、なかなか「そ~れ!旅行に行こう!」という気になれない人も多いかと思います。

伊勢参りを軽快に楽しみながら、最後はギョギョっと凄惨な幕切れとなる「伊勢音頭恋寝刃」はいかがでしょう。面白くておススメですよ!

 

 

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コロナ禍でなかなか長いお話が見られない中、国立劇場でこの「伊勢音頭恋寝刃」が通しで見られるのはうれしいこと。国立劇場については、こちらもぜひご覧ください。

munakatayoko.hatenablog.com

上演時間

今回の「伊勢音頭恋寝刃」。序幕1場~5場まで1時間。35分の休憩のあと、2幕は1時間25分。なので、ゆったりと芝居を楽しめます。12時開演15時終演です。

簡単な全体のあらすじ。

蜂須賀大学一味は、主家である甥の蜂須賀家の乗っ取りをたくらんでいます。蜂須賀家のお家の重宝「青江下坂」とその鑑定書(折紙)を奪い、信頼厚い家老の息子を廓通いに誘い、骨抜きにしてしまい親子を追い出すという計画です。

主人公の福岡貢は、お家乗っ取りを心配する藤浪左膳に頼まれ、「青江下坂」と鑑定書を取り返すために奔走します。

今回は、家老の息子が、すっかり骨抜きになってお気に入りのお岸ちゃんと物見遊山をしていたら、重宝と鑑定書を奪われるところから。

前半の、お家の重宝と鑑定書をめぐっての追いつ追われつは、楽しく。後半は、廓で恥をかかされる貢が妖刀を手にして、凄惨な殺人事件へとなっていきます…。
前半がドリフ的に楽しいので、子どもにもおすすめできます。後半がアレなんで子供にはちょっとと思う方もいるかもしれませんが、殺人シーンも様式美で美しいので、鬼滅の刃見ているくらいなら、全然平気ではないかと。
歌舞伎こそ、小さい時からどんどん見せたほうがいいのではないかと思っているので、ぜひお値段安い今回のお芝居をご家族で見てくださいね。

登場(しない人もいるけど)人物 

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▲は今回登場しない人

福岡貢 伊勢神宮に仕える御師
奴林平 一途な男さ。
▲今田九郎衛門 藩主の信頼の厚い家老。
今田万次郎 九郎衛門の息子。お家の重宝青江下坂(刀)を預かっていたが。おおらかで、のんびりはんなりしているので、すぐだまされちゃう!

ワルイやつら
▲蜂須賀大学 蜂須賀家藩主のおじ。お家乗っ取りをたくらむ。

徳島岩次 実は藍玉屋北六 

藍玉屋北六 実は徳島岩次 
杉山大 蜂須賀大学の家来。密書、刀、折紙をめぐって林平と追いつ追われつ。
桑原丈四郎 蜂須賀大学の家来。密書、刀、折紙をめぐって林平と追いつ追われつ。

油屋の人々
万野 油屋の仲居。悪人一味と通じており、貢をいびり倒す。
お岸 万次郎が入れあげる油屋お抱えの傾城。
お紺 貢と恋仲の傾城。貢に協力して保証書を取り返すべく、奔走するのだが。
お鹿 傾城。器量は悪いが貢にぞっこん。

御師とは。当時、庶民は伊勢へお参りをしても神宮内の参拝は許されない。そこで、門前の宿などで仮の神前での仮の神主となったり、参拝客の宿や遊郭の手配をしていた人のこと。

 

あらすじ


 ・刀も折紙も、だまし取られて万事休すの万次郎

伊勢街道相の山の場では、今田万次郎がお気に入りのお岸と、お供の女性たちとお揃いの浴衣着てまあ鼻の下を伸ばして物見遊山の真っ最中。いっしょにいる杉山大蔵と桑原丈四郎は、蜂須賀大学の一味。廓遊びをけしかけた張本人ですな。

万次郎の良き家来、奴林平は、気が気ではありません。
妙見町の宿屋にいる伯父の藤浪左膳に呼ばれていること。刀と折紙(刀の鑑定書)を取り戻すことが大事と諭します。よく聞けば、刀は一旦取り戻したのに、茶屋遊びの金策のため、質入れしてしまったというではありませんか。「折紙はあるから大丈夫」と万次郎は言うのですがなんとも頼りない。

その後、まんまと折紙を悪者一味の藍玉屋北六にだまし取られてしまいました。

 ・福岡貢登場。刀と折紙の奪還を頼まれる

妙見町宿屋の場では、上司の藤浪左膳に呼ばれて福岡貢が登場。貢の実父は、今田九郎衛門の家来筋でもあり、養父は藤浪左膳の家来でもあるため縁も深く、藤浪左膳に頼まれて、刀と折紙の奪還に協力することになりました。

ちなみに万次郎は、折紙をだまし取られたことに気づいておらず、この場で知ることとなります。ガーン!ショック!

同じ宿にいたのは、杉山大蔵と桑原丈四郎。蜂須賀大学から徳島岩次への密書を届けようと相談しています。この密書は、悪だくみの全貌が描かれていますから、林平は、この密書を奪おうと考えます。悪だくみの証拠を得ようとしたのですね。

 ・密書と折紙の奪い合い。奴林平が、大蔵と丈四郎と追いつ追われつ~

第3場 野道追駆けの場と、第4場 野原地蔵前の場では、奴林平と、大蔵と丈四郎がひたすら、追いつ追われつのレースを繰り広げます。愉快なところです。

二見ヶ浦の場では、真っ暗闇のなかでの奪い合い。だんまりですね。

ついに林平は、密書を奪いますが惜しいかな、半分にちぎれており、悪だくみの内容は書かれていたものの誰にあてた書状かの部分がない。ええいもどかしい!

しかし、闇のなかの手探りのなか、林平がついに密書の後半部分も手に入れました。密書の宛名を見ようと貢は気もせくのですが、あたりは真っ暗闇で宛名が読めません。早く夜が明けないものか…!

その時遅くかの時早く、二見ヶ浦夫婦岩のしめ縄の向こうから、ぽっかりと昇る真っ赤な朝日!
おおおおお。密書を朝日にかざせば、そこには悪だくみを相談する相手の名前「徳島岩次殿」がしっかりと刻まれていたのでした~。刀も手に入り、残るは折紙のゲットです!


2幕目 いじわる万野についにプッツン

貢は、取り返した刀を万次郎へ渡すために、遊郭油屋へ。ついでに恋人お紺と会おう♪としていたが、仲居の万野がいじわるで逢わせてくれません。

というのも、岩次がお紺を気に入っていて身請け話が持ち上がったのです。結果、岩次に取り入っていた万野にとって貢は邪魔ものとなったため、邪険に当たるのです。なんだかんだといじわるを言う万野にじっと耐える貢です。

 ・刀、すり替え

廓にはいるには刀を預けなければならず、貢はせっかく手に入れた青江下坂でしたが、料理人の喜助に預けます。喜助は、家来筋だったことがわかり、実はこれこそが青江下坂だと告げた上で、安心して預けます。

貢の恋人お紺は、貢のために、折紙を持っているであろう岩次に接近し、貢に愛想尽かしをするのですが、それを貢は知りません。

<これ、ちゃんと貢に言っておこうよ~>

ついに、喜助から刀を受け取って貢は、憤然と席をたち、外に出ていきます。

ここで刀のすり替えがあります。
岩次たちが、鞘はそのままで、中身の青江下坂を別の刀にすり替えましたが、喜助はそれを承知の上で間違ったふりをして、ちゃんと本物の青江下坂を渡しているので、貢の手元にあるのは鞘は別物ですが中身は本物の青江下坂でした。本人気づいていません。

一旦出て行った貢は、鞘が違うので刀が違うと勘違いをして戻ってきます。
そこに万野がきて、刀の取り合いになり、手元がくるって、万野を切り殺してしまいます。その切れ味に魅入られたように、貢は次々と人々を斬りまくってしまいます。妖刀のなせる業なのでしょうか。

実は、貢は今は御師ですが、以前武士でした。その時の名字は青江。祖父と父も青江下坂のためにしに、青江家は没落したとか。恐ろしい因縁ですね。

 ・お鹿の哀しみ

もう一つ絡んでくるお話があります。それはお鹿ちゃんです。お鹿は少々不細工な傾城ですが、貢にぞっこんです。手紙をやり取りしたり、以前からお金を貸してほしいと言われれば用立てて、もうかなりのお金を貢に貢いでいました。ところが、貢は手紙などもらったことはないし、金など借りたこともないと皆の前で平然と言い放つので、ショックを受けます。

実は、それも万野のしわざでした。万野は、ちょいちょいお鹿が貢に用立てているという金をちょろまかしていたのです。本当にしょうがない万野!お金にがめつくていじわるなんですね!

貢を真ん中にして、お鹿とお紺が対照的に位置しますが、その器量が目立ってしまいとても哀れな感じがします。最後は、スパーンと死ぬのもあっけなくて哀れです。

さて、次から次へと人を斬り、もはやこれまでと観念して切腹をしようとしたところにお紺と喜助が現れ、貢の刀が本当の青江下坂であると告げます。折紙もお紺の手によって、貢に渡されます。(2021年10月の演出では、殺しをする前にお紺が折紙を渡し、縁切りの誤解を解いていました)

折紙と刀がそろいました。貢は折り紙と刀を万次郎の元にもっていくため、去っていくのでした。

見どころ

 ・前半は追いつ追われつ。ドリフ的な楽しさ

折紙、刀を奪おうとする杉山大蔵と桑原丈四郎。密書を奪おうとする奴林平の追いつ追われつが楽しい。ドリフ的な楽しさなので、子どもだって初心者だって楽しめます。

 ・夏の情緒たっぷり。うちわのパタパタ、浴衣ひらひら

伊勢音頭は夏のお芝居。うちわでパタパタしている傾城たちが情緒たっぷり。パタパタとあおぐうちわが、緊張する場面になるとパーターパータとなり、リラックスするとまたパタパタとなる、心理描写がわかって楽しいです。また、奥庭の場では傾城たちが夏祭りを踊る中、返り血を浴びて血まみれになっている貢が突入。次々と切り殺していくのですが、2021年10月では、その踊りの部分がなく、ちょっと残念です。美しく凄惨さが際立つシーンです。

 

 ・凄惨な後半。万野がいじわるであればあるほど、いい

満座のなかで、万野に恥をかかされ、じっと耐える貢。万野は憎たらしくて憎たらしくて、たばこの煙をプーっと吹きかけるところなんざ、ぞくっとするほど憎らしい。耐える貢がついにプッツン。プッツンするのも無理なし!と思えます。

 ・美しいお紺の出に注目。

お紺は貢の恋人ですが、貢に協力するために岩次に積極的に近づきます。岩次が折紙を持っていると考えてそれを奪うためでした。そのために、貢に愛想尽かしをします。お紺の出は、暖簾をくぐってついっと出てきて、貢の後ろにつッと立つのです。この時のお紺は、これから心にもない愛想尽かしをするのだという悲痛な決意のもとにここにいるのですよね。突くでもなく、触れるでもなく、ふっと貢の後ろに立つ。「気持ちよ、伝われ」とばかりに立つそこにお紺の決意を感じます。

<言葉でちゃんと言っとけばよかったのにねえ…嘆息>

とにかくお紺が美しいので、注目です。

 ・かわいそうなお鹿ちゃん

貢をめぐって三角関係になるお鹿ちゃんが、かわいそうですよね。
お紺という決定的な美女の彼女がいながら、手紙のやりとりをしてくれたり、お金を無心してくれたりする貢に、愛しさは募るばかり。それなりに小さな幸せを大切にしていただろうに。全く知らぬ存ぜぬと言われたときのお鹿ちゃんの気持ちいかばかりか。

不細工な傾城は、大概立ち役の役者がやります。
今回は、若手で人気の歌昇。パンフレットで「人生初の女方を勤めることになりました。いやはや参っております、困っております」と嘆いていますので、ぜひ注目してあげてください笑。とっても熱演しています。

 ・実話がもとになっている

伊勢音頭恋寝刃は、実際の遊郭での刃傷沙汰がもとになって作られました(怖!)

事件から3日で作品は出来上がり、10日後にはもう芝居になっていたというから驚きです。

今回、国立劇場では、その事件で使われたわけではないけれど、青江下坂のモデルとなった刀の展示がありますので、ぜひご覧になって下さい。

 

シャキーンっとしていて、これでスパっと斬れると、どこか正気がなくなってしまうのだろうかと思わせるような刀で、ゾゾゾ~っとしますよ。この刀のものではありませんが、鑑定書の折紙も展示されています。

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<伊勢音頭恋寝刃>10月2日~26日

国立劇場

3等席でも見やすいです。ずいぶんと空席が目立ちますので、これからでもチケットとれますよ。とってもおススメです。ぜひ行ってみてください!


1等席   12,000円(学生8,400円)

2幕目のみ見る当日売りあり。5500円

【大劇場】10月歌舞伎公演「伊勢音頭恋寝刃」休憩後「秋の午後(55)割」のご案内 | 独立行政法人 日本芸術文化振興会


2等席     8,000円(学生5,600円)
3等席     3,500円(学生2,500円)

国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)
0570-07-9900
03-3230-3000[一部IP電話等]

インターネット購入
https://ticket.ntj.jac.go.jp/(パソコン・スマートフォン共通)

託児室もあるよ~~。(すごくおすすめ)

allabout.co.jp

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