10月新派特別公演がとてもよかったので、ご紹介したい。
▲とても素敵なパンフレットの装丁。中も美しかった。
新派の舞台は、2020年2月に千穐楽を前に突然コロナで打ち切りになった「八つ墓村」以来。今回花柳章太郎追悼として、まさに新派らしい演目が二つかかった。
仮名屋小梅から「小梅と一重」。もう一つは「太夫さん」。
新派の世界観。ちょっと前の日本にタイムトリップ!
まるで明治から昭和時代の日常にに、まんまタイムトリップするかのような新派の芝居は、日本人の心にダイレクトにしみこむ。私はこんな時代をジャストで知るほど年をとってはいないけれど(笑)、こんな時代のしっぽ?かけら?香り?くらいは知っている。それがオーバーアクションではなくて、あたり前のしぐさで目の前に出てくるから、本当にその時代にいるような感覚に陥る。すごく美しい。日常の風景が。なくなってしまったものも多いけれど。
着物やたびの擦れる音、煙管、パッパと消える白熱灯、火鉢、鉄瓶、確かにいたこんな人、あんなしぐさというリアリティに圧倒される。
では、「小梅と一重」から見どころなど。
「小梅と一重」
この芝居は、特に歌舞伎ファンの皆さんには見てほしい。歌舞伎の芝居小屋でのあるひとときの出来事だ。実話をもとにしたもう少し長い話を一幕だけかけている。わずか40分あまりの芝居なのに、見せる。
あらすじ
この芝居は、銀之助という歌舞伎役者が核。銀之助は、門閥外から歌舞伎役者になったからとても苦労をしている。その銀之助を気に入って、惚れぬいて、何かにつけ面倒をみてきたのが芸者小梅(河合雪之丞)。ところが銀之助は若い下っ端芸者の蝶次(瀬戸摩純)といい仲になる。小梅は荒れるし、銀之助はイカレタ浮気男なのか!? いや違う…という話(乱暴ですみません)
見どころ
歌舞伎の芝居茶屋という設定
歌舞伎の芝居茶屋の2階座敷が舞台であるため、芝居の鳴り物が要所要所で聞こえてきたり、部屋のそこここに、押し隈が飾られていて、昔の芝居茶屋ってこんな雰囲気だったのかなと感じられて楽しい。
門閥ではない役者が苦労をして大名題を目指す。演じるのが…
歌舞伎オタクとして、胸熱ポイント。
家柄がなく、歌舞伎役者として苦労をしてきた銀之助が諭される場面がある。
「初代團十郎ほりこし某に家柄があったか。なかったはずだ、お前が初代澤村銀之助になればいい」
これを言われる銀之助を演じるのが、門閥外から歌舞伎役者になり、澤瀉屋で修業するも新派に移った喜多村緑郎!ってだけですでに胸熱なのだが、ところが実際には緑郎が病気で休演。代役は同じく澤瀉屋から移った喜多村一郎!
ドラマですよねえ。
緑郎さん、どれだけこの芝居にかけていたか、どんなに悔しいだろうなあと思うと同時に一郎さんすごいチャンスが回ってきた!胸熱です。
銀之助を自分に当てはめて、毎日毎日すごく大切に演じていることと思う。見なきゃ損!
緑郎さんが早くお元気になってまた復活できることを祈らずにはいられないが、一郎さんも一日一日大切に頑張ってほしい!
折しも先月、紀尾井町夜話47話で、ゲストが喜多村一郎さん、河合誠三郎さん、河合穂積さんの回を見た私。今までそれほどよくは知らなかったお三方の真摯なお人柄、素顔に「紀尾井町家話」で触れることができて、よかった。紀尾井町家話を見ていると「いっしょにお酒を飲んだ仲」みたいな気がして(違います)、親近感半端ない(笑)。
一郎さんは、銀之助で今回大抜擢だけれど、河合穂積さんも誠三郎さんも2役、3役とこなしていて、全部チェックすることができました!松緑さん、ありがとう。
小梅と一重に引き込まれる!
小梅演じる雪之丞(こちらも澤瀉屋から新派に移ってきました。紀尾井町家話にも何回か登場)がキレイだし、うまい。小梅は、目にかけていた役者の心が離れてしまう哀れな芸者で。酒癖が悪くて大暴れしてしまうのだけれど、汚らしくない。品があって哀しい!大暴れするのに。
そして蝶次の話を聞いてやり、小梅を諭す一重。もう情けがあって、肝が据わっていて、本当にすてきなお師匠さん!
太夫(こったい)さん
これまたいい!! 北條秀司作だから、人情の機微に触れる話が本当いいですよねえ。
昭和23年ごろから3年間くらいの話だから、それこそ現代のちょっと前の話だ。私たちのどこかに残っているはずの気配。祖母たちの時代だな。そういえばいつも着物を着ていたっけ。いや、いつもじゃない。いつもじゃないけど、着るときはすんなりするする簡単に着ていた。なつかしい。
昭和23年から3年ほどの時の流れを描く
いつの時代も若者は血気盛んで「時代は変わったのよ」と叫び、老いたものは「ついていけない」とつぶやく。それでも人情とか、やさしさが、最後には一番大切なものなのかなと思えて、心が温かくなる。市井の人々に向ける北條秀司の目は、いつも温かい。
あらすじと見どころ
舞台は京都島原の遊郭の宝永楼。血気盛んな若い女郎、老境に入りつつある女将、女将と長いつきあいである洒脱なご隠居さんなどの人間模様。
女将であるおえい(波乃久里子)にとって、ストライキを決行する若い女郎たちは「かわいがってきたのに、恩知らず」と感じられる。もうやめよう。店もやめようと思ったときに、新しく太夫になりたいなんて志願者がきてくれて、ふっともう少し続けてみようかと考える。
と思えば、うっかりだまされて、20000円のお金をとられたあげく、太夫として使い物にならない子、おきみ(藤山直美)を置いていかれる。おまけに妊婦だった。全く世の中ままならないことばかりだ。
それでもその子を置いてやり、子どもを産ませて里子にだしてやる。しかも、芸事の覚えは悪くて商売(妓楼)としては使えない。それでもおえいはおきみを追い出すことができなかったのは、おえいがただマリアさまのような人柄というわけではないだろう。
それだけおきみに魅力があるからで、それは無垢、赤ん坊のような無垢な心だろうな。子どものないおえいにとっては、おきみは子どものような存在となってくれたのだ。
藤山直美が、無垢なおきみちゃんを好演。
愚痴を聞いてくれる仲間や古くからの付き合いであるご隠居さんもいて、毎日目まぐるしいけれど、まんざら悪くない人生。
世間を騒がすような大事件は起こらないが、日常の小さなドタバタは常にある。
人生って、こうだよなあ。ああもうヤダヤダと思った先に、ちょっと希望がぽっと見えたりして。イヤなことがあっても、愚痴を言うだけ言ったらスッキリしちゃって、ご飯食べたら、すっかり忘れちゃって(;^_^A
ちょくちょく遊びに来るご隠居さんが、坂東妻三郎の4男田村亮。最近亡くなった田村正和さんの弟。すごくよかった。こんなご隠居さん、おそばにほしい(笑)。
いつも気楽に遊びに来るご隠居さんだけれど、おえいとは50年ほど前にはいい仲だったらしい。今ではお茶飲み友達だけれども、おえいにとってはなくてはならない存在だ。
時々ふたりでちょっと遠くでデートをしたりするのもまた小さな楽しみだ。費用は割り勘。その計算をするために後日来て、あれこれ「あれを食べた」「これに使った」とそろばんをはじくのも、楽しい日の思い出の反芻をするための口実か。
毎日バタバタと仕事をして、ちょっと若者に置いてけぼりにされると面白くなくて、でも一生懸命で情に厚くて、そんな商売人のおえいが、ご隠居さんといるときはとってもリラックスしていることがわかって、またそんなときのおえいはとても魅力的だった。
そして、最後にはとてもすてきなハッピーエンド、大どんでん返しが用意されているので、安心してみてほしい。脇をがっちりと支える俳優陣も、達者で安心です。
現代劇の、大声で喚くタイプの演劇が苦手な方、ちょっと今の時代にお疲れの方、おすすめですよ♪
<花柳章太郎 追悼 十月新派特別公演>
2021年10月2日(土)~25日(月)
1等13000円
2等9000円
3等A席5000円
3等B席3000円
座敷席14000円